ヴォンダ・N. マッキンタイア (著) 幹 遙子 (翻訳) ハヤカワ文庫
1693年、栄耀栄華をきわめる太陽王ルイ14世の住むヴェルサイユ宮殿に、伝説の怪物である海の妖獣が運びこまれた。捕まえたのは、イエズス会士で自然哲学者のイヴ・ドラクロワ。国王の命をうけ、遠洋へ探検の旅に出て、雌の海の妖獣を生け捕りにしてきたのだ。妖獣は宮殿の庭にあるアポロンの泉水の檻に入れられ、その世話を宮殿で侍女をつとめるイヴの妹、マリー=ジョゼフがすることになったのだが…(上巻)
警戒心が強かった海の妖獣は、気だてのいいマリー=ジョゼフにようやく心をひらくようになった。やがてマリー=ジョゼフは、海の妖獣が高度の知性をもっていることに気づく。だが、不死の霊薬になるといわれる妖獣は、まもなく開かれるルイ14世の即位50周年記念の祝宴の料理に供されることになっていた!マリー=ジョゼフは、妖獣が殺されるのを命がけで阻止しようとするが…波爛万丈の歴史改変SF。(下巻)
中世フランスの宮廷を舞台に、太陽王と謳われるルイ14世の命を受けた修道士イヴが捕まえた妖獣を巡る物語です。いわば、SF歴史ファンタジーといったところでしょうか。登場する妖獣は人魚のような存在ですが、ジュゴンとは明らかに違う「海の人」です。普通人魚は観目麗しい上半身として描かれるものですが、ここではかなり醜い容貌とされていました。
当時の宮廷女性はただ華やかに優雅に振舞うことだけを要求され、知性の追求は、宗教的に異端でした。そんな時代にあってイヴの妹であるマリーはかなり現代的な探究心と向学心を持つ女性として登場します。逆に男女のことについてはかなり疎くてそのバランスが面白いかも。
王の本当の目的は妖獣を食べることで永遠の命を得ることのようです。マリーも最初は単なる「獣」として接するのですが、やがて妖獣が人間と同じように思考を持つ生き物であることに気付きます。彼女たちの会話は、妖獣の方がマリーに対して音→映像として思念を送り込むことで成立していますが、他の者には理解できず、マリーの口を通して語られる出来事は単にマリーの作り話と捉えられてしまいます。ただ当事者だった兄のイヴと、無神論者のリュシアン(クレティアン伯爵:クレティアンとはキリスト教という意味があるそうで、そのシニカルさも楽しい)だけはマリーの言葉を信じるようになるのですが・・。
マリーの必死の命乞いで、王は妖獣が差しだす海に眠る難破船の宝と引き換えに助命を聞き入れますが、結局宝が見つかっても彼女を自由の身にはしません。そりゃ、永遠の命が目的なんだから当然だよな~~。逃がそうとした三人も捕まって罰を受けることになります。
しかし、二度目の「宝探し」の時に妖獣は海に逃れることができ、お宝いっぱい手に入れた王の与えた罰は、身分や財産は剥奪されたものの、当人たちにはとても幸せな結果となるのでした。
一介の修道僧とその妹がどうして華やかな宮廷人に立ち混じることが出来たのかは、イヴが王の隠し子の一人だったことや、兄妹の母への愛からというのは、いかにもかの王ならと思わせてしまいます。更にリュシアン自身も亡き王妃の隠し子という立場に至っては、宮廷人の貞操感はどこに置き忘れたのやらと嘆かわしいけれど・・。
物語は恋愛にうぶだったマリーが女性として成長する様も描いています。
打算と冷酷な本性を隠している王弟の愛人ロレーヌの騎士への当初の憧れは、マリーへ行われた瀉血という当時の無茶な治療に彼が加担したことで化けの皮が剥がれ、王弟の息子であるシャルトル公の好色さにも気付いていきます。
逆に外見は侏儒(体の小さい人)ですが、リュシアン伯爵はそれ以外では完璧な宮廷人であり、王の忠実な臣下であり、科学に対しても相応の知識を有している人物だということが分かってきて、マリーは彼に恋するんですね
カトリック信者のマリーにとっては無神論者であるリュシアンを受け入れることも大きな試練と言えそうですが、愛の力って凄いのね
うんうん、人間外見じゃないよ!と言いたいところですが、伯爵の外見はなかなかのハンサムだったりします
「氷と炎の歌」シリーズに登場するティリオンも小人でその外見から嫌われ蔑まれますが、心はとても優しい好人物。この物語のリュシアンと通じるものがあるなぁ。
王が平和のために手を結ぶローマ法王及びカトリックの修道院の尼僧たちはまさに前近代的な人物として描かれ、印象はかなり悪いのに比べ、若い頃放蕩三昧だった王は逆に好意的な人物像に刷りかえられているのが若干気になるけれど、結末はいかにもファンタジックでハッピーエンドなので・・ま、いっか~
リュシアンが城の屋根の上でマリーに身の上を打ち明ける場面が好きです。また、彼が貸したアラブ種の馬のザキとマリーとの信頼と愛情のつながりも好感があります。
宮廷人たちのファッションや生活についての細々とした描写もその豪華さを想像して楽しかったです。
1693年、栄耀栄華をきわめる太陽王ルイ14世の住むヴェルサイユ宮殿に、伝説の怪物である海の妖獣が運びこまれた。捕まえたのは、イエズス会士で自然哲学者のイヴ・ドラクロワ。国王の命をうけ、遠洋へ探検の旅に出て、雌の海の妖獣を生け捕りにしてきたのだ。妖獣は宮殿の庭にあるアポロンの泉水の檻に入れられ、その世話を宮殿で侍女をつとめるイヴの妹、マリー=ジョゼフがすることになったのだが…(上巻)
警戒心が強かった海の妖獣は、気だてのいいマリー=ジョゼフにようやく心をひらくようになった。やがてマリー=ジョゼフは、海の妖獣が高度の知性をもっていることに気づく。だが、不死の霊薬になるといわれる妖獣は、まもなく開かれるルイ14世の即位50周年記念の祝宴の料理に供されることになっていた!マリー=ジョゼフは、妖獣が殺されるのを命がけで阻止しようとするが…波爛万丈の歴史改変SF。(下巻)
中世フランスの宮廷を舞台に、太陽王と謳われるルイ14世の命を受けた修道士イヴが捕まえた妖獣を巡る物語です。いわば、SF歴史ファンタジーといったところでしょうか。登場する妖獣は人魚のような存在ですが、ジュゴンとは明らかに違う「海の人」です。普通人魚は観目麗しい上半身として描かれるものですが、ここではかなり醜い容貌とされていました。
当時の宮廷女性はただ華やかに優雅に振舞うことだけを要求され、知性の追求は、宗教的に異端でした。そんな時代にあってイヴの妹であるマリーはかなり現代的な探究心と向学心を持つ女性として登場します。逆に男女のことについてはかなり疎くてそのバランスが面白いかも。
王の本当の目的は妖獣を食べることで永遠の命を得ることのようです。マリーも最初は単なる「獣」として接するのですが、やがて妖獣が人間と同じように思考を持つ生き物であることに気付きます。彼女たちの会話は、妖獣の方がマリーに対して音→映像として思念を送り込むことで成立していますが、他の者には理解できず、マリーの口を通して語られる出来事は単にマリーの作り話と捉えられてしまいます。ただ当事者だった兄のイヴと、無神論者のリュシアン(クレティアン伯爵:クレティアンとはキリスト教という意味があるそうで、そのシニカルさも楽しい)だけはマリーの言葉を信じるようになるのですが・・。
マリーの必死の命乞いで、王は妖獣が差しだす海に眠る難破船の宝と引き換えに助命を聞き入れますが、結局宝が見つかっても彼女を自由の身にはしません。そりゃ、永遠の命が目的なんだから当然だよな~~。逃がそうとした三人も捕まって罰を受けることになります。
しかし、二度目の「宝探し」の時に妖獣は海に逃れることができ、お宝いっぱい手に入れた王の与えた罰は、身分や財産は剥奪されたものの、当人たちにはとても幸せな結果となるのでした。
一介の修道僧とその妹がどうして華やかな宮廷人に立ち混じることが出来たのかは、イヴが王の隠し子の一人だったことや、兄妹の母への愛からというのは、いかにもかの王ならと思わせてしまいます。更にリュシアン自身も亡き王妃の隠し子という立場に至っては、宮廷人の貞操感はどこに置き忘れたのやらと嘆かわしいけれど・・。
物語は恋愛にうぶだったマリーが女性として成長する様も描いています。
打算と冷酷な本性を隠している王弟の愛人ロレーヌの騎士への当初の憧れは、マリーへ行われた瀉血という当時の無茶な治療に彼が加担したことで化けの皮が剥がれ、王弟の息子であるシャルトル公の好色さにも気付いていきます。
逆に外見は侏儒(体の小さい人)ですが、リュシアン伯爵はそれ以外では完璧な宮廷人であり、王の忠実な臣下であり、科学に対しても相応の知識を有している人物だということが分かってきて、マリーは彼に恋するんですね



「氷と炎の歌」シリーズに登場するティリオンも小人でその外見から嫌われ蔑まれますが、心はとても優しい好人物。この物語のリュシアンと通じるものがあるなぁ。
王が平和のために手を結ぶローマ法王及びカトリックの修道院の尼僧たちはまさに前近代的な人物として描かれ、印象はかなり悪いのに比べ、若い頃放蕩三昧だった王は逆に好意的な人物像に刷りかえられているのが若干気になるけれど、結末はいかにもファンタジックでハッピーエンドなので・・ま、いっか~

リュシアンが城の屋根の上でマリーに身の上を打ち明ける場面が好きです。また、彼が貸したアラブ種の馬のザキとマリーとの信頼と愛情のつながりも好感があります。
宮廷人たちのファッションや生活についての細々とした描写もその豪華さを想像して楽しかったです。