しかし寿雪一行が界島の対岸の港まで到着すると、海底火山の噴火が続いていて島へは渡れなくなっていた。
噴火している海域は楽宮の海神の縄張りが複雑に入り組んでおり、海が荒れていたのも噴火も、烏の半身や鼇の神が海神を刺激したせいだった。
そこで寿雪たちが出会ったのは、花娘の父である海商・知徳だった。花娘からの文で寿雪について知っていた知徳は、噴火さえ収まれば舟と水手を貸すと約束してくれた。
一方、界島では白雷や海燕子に助けられた千里と之季、楪が海商・序家の屋敷で介抱されていた。
千里はまだ意識を取り戻さないものの、昭氏の薬草で快方に向かっている。
白雷は烏の半身である黒刀を前に考え込んでいて……?
・暗雲
時が少し遡って、寿雪が界島へ旅立つまでの事が描かれています。夜明宮で寿雪に仕える紅翹や桂子のことを花娘に頼みますが、九九は同行すると譲らず、紅翹たちの後押しもあり結局連れて行くことに。桂子が「烏妃の呪いを解くのはあんただろう」と麗娘が言っていたと話し、麗娘の言いつけを守らなかったと悔やむ寿切に「麗娘さまだってひとりじゃなかった、あんたがいた」と言う・・・泣けるセリフと寿雪がいかに皆に愛されているかがわかるエピソードですね。
界島の対岸の港に着いた一行ですが、海底火山の噴火に足止めされます。界島の海底に沈んでいる烏漣娘娘の半身の黒刀を取り戻すには島に渡らねばならず、噴火を収めるには海神の怒りを解く必要があり、そのために鼈の神を倒さねばならず、それには烏の半身を手に入れる必要がある・・堂々巡りです。そこに助け舟として現れたのが花娘の父で海商の雲知徳です。
一方、沙那賣朝陽の命を受けた次男亘は、羊舌慈恵と行動を共にしています。慈恵は亘の目的を薄々察知しているようですが、亘の方は慈恵の思惑を測りかねているようです。
自分の出自を知り激しく動揺する晨は、港で寿雪に出会い、寿雪(正確には烏と梟)を通して高峻から、朝陽の蟄居引退を命じられます。朝陽の企ては既に高峻の知るところですが、一族への責めを負わさなかったのは、皇帝の子を身籠っている晩霞への配慮?
黒刀は白雷が拾ってましたけど、何故か彼はそれを持って山に入っていきます。鼈の神は、衣斯哈を人質に阿兪拉を依り代としました。
・炎
烏を救うため、梟は自らを質に海神の怒りを鎮めます。一時的に噴火が収まって、寿雪は界島へ。千里に会った寿雪は、令孤之季が白雷を追って姿を消したと聞いて後を追います。最愛の妹・小明が殺される原因になった白雷への憎しみから逃れられずにいた之季は遂に白雷と対峙するんですね。白雷は、何故か黒刀を之季に託します。之季も遂に彼への執着を手放し小明は神の宮へと旅立って行きます。追いかけてきた寿雪が二人の前に立ったその時、鼈の神が憑いた阿兪拉が現れ、黒刀は羽衣により奪われてしまいます。白雷は水のない地を選んだつもりが、地下水脈があったため、一行は鼈の神により流されてしまうんですね。
賀州に戻った晨は、父に高峻の命を伝えます。朝陽は息子に「お前はまだわかっていない」と言い高峻の冷徹さを指摘しますが、晨には父の言葉の意味が伝わっていません。彼は晨が去ったあと、亡き妹が暮らしていた堂に入り自死するんですね。高峻の言葉の裏には「自ら命の始末をつけよ」という意味があったのです。いや~~ここを読むまで晨同様、温情だと思っていましたが・・・
亘は、父の企みが無謀だと承知で、身を捨て北辺山脈で謀反の狼煙をあげるべく動きますが、彼を息子のように思う羊舌慈恵が阻止します。前王朝の遺臣である慈恵ですが、娘の瑛を若くして亡くして跡継ぎもいませんから、亘が朝陽の無謀な企みの前に身を滅ぼすのがわかっていて敢えて身を投じる彼が不憫でならないんですね。最早どっちが父親だねん!って 亘を身をもって庇った慈恵を前に目が醒め、やっと父親の呪縛から解放される亘でした。
・半身
烏が守ってくれて、港まで押し流された一行は全員無事でした。鼈の神は烏の甘さを嘲笑しますが、白雷の裏切りにより黒刀は烏に。失われた半身を取り戻した烏は寿雪から解き放たれて鼈の神と対決します。神々の戦いの前に人は無力です。本来の力を取り戻した烏は強く、鼈の神は敗れ、海を渡って幽宮へ。その後は回廊星河をたゆたい新しい命となって落ちていく・・・これは神も人間も変わらないのね。
解放された寿雪にはもう烏の声が聞こえません。阿兪拉や衣斯哈が新たな巫として養育されることになります。
京師に戻った寿雪は、花娘や高峻に別れを告げます。阿妹と呼び可愛がってくれた花娘をついぞ「阿姐」とは呼ばなかった寿雪が最後にそう呼んで去っていく、この場面も胸に響きます。彼女は海商となって外の世界に飛び出すことを選んだのです。
場面は10年後に移ります。沙那賣家の兄弟妹たちが一同に会する場面も描かれますが、何だか最後は主役より存在感があったような
弟妹たちは兄の出生の秘密を知らないままですが、互いに想い合う心は深く、それぞれが暮らしをまっとうしているのが救われますね。三男の亮が、兄が娶る筈だった妻が自分をどう思っているのか気になっているエピソードに笑みがこぼれたり 晨が甥の時期皇帝となる少年に出会って心が動かされるのも救われる場面でした。ちなみに晩霞が生んだ男の子を花娘が養子として彼女が皇后に即位しています。後宮の女性たちは皆穏やかで仲が良いというのも高峻の気配りや人柄故ですかね
孤独と絶望を抱えて生きて来た二人・・・高峻と寿雪の別れもまた特別な想いが沸き上がります。互いに深く理解し合ってきた二人ですが、恋愛ではなくあくまで「友」なんですね。置かれた環境・状況からも結ばれてはいけない二人ですが、だからこそ乗り越えて共に歩む道はなかったのか残念ではあります。ただ、一緒に生きることはなかったけれど、共に過ごすひと時は存在し、老いても続いていたという結末に穏やかな気持ちで読了することができました。