1月26日に入院した部屋は4人部屋だった。私のベッドは南向きの窓際で一番陽当りのよい場所にあった。
私の前にこの場所にいた患者はヤクザ風の無愛想な男でテレビの音量を大きくしたりして勝手気ままな生活をしていたようである。つまり部屋の皆の嫌われ者だった。その後釜の私は話題豊富な”おだっくい野郎”だから、部屋は一気に和やかな雰囲気になったのである。
私の西側の患者さんは75歳の穏やかな人物だった。バスの運転手や運行管理をして定年退職後は幼稚園の送迎バスの運転手をして70歳まで働いていたそうである。毎日、ビールと焼酎で晩酌するのが唯一の楽しみで、9歳若いバスガイドあがりの奥さんとの間に4人の子供と8人の孫に恵まれてなに不自由のない生活を続けていた。
昨年の12月に便の中に大量の出血があり、検査を受けた結果は大腸ガンとの診断で年末年始を自宅で過ごして、正月明けに大腸摘出手術を受けて体外に人工大腸を装着している。もう40日間も風呂に入っていないということであった。手術後もドレインといって手術部位から滲出する体液を体外へ出す管を取り付けている。だから容易に風呂には入れないのである。
それではどうしているのかというと、午前9時ころに蒸したタオルが二本配られてくる。一本は上半身、一本で下半身を拭けというのである。しかし、昨日は誰かが下半身を拭いたタオルで今日は別の人が顔を拭いているのである。勿論、洗濯をして高温で蒸してあるから大丈夫だというのであろうが、少し臭いもしてあまり気持ちの良いものではない。
私の隣のベッドの患者さんは70歳の鮨屋のご主人だった。この人は元々糖尿病やリウマチを患っていたが昨年末に胃ガンがみつかって胃を全部摘出したそうである。食道からいきなり小腸へつないであるから一度に多くは食べられない。食事は6回に分けて食べていたが、食べると押出し式に排便することになり夜昼となくトイレに通っていた。この人もドレインの管が出ていて入浴できないでいた。
もう一人の患者さんは電力関係の企業に勤める59歳の方で病名ははっきりとは聞かなかったがどうやら胆管ガンを切除した様子だった。この人もドレインの管を出していた。
同室の3人の患者さんとは話をしてみると、共通の知人や友人が多くて、びっくりするほどであった。世間は広いようで実は狭いのである。
私自身は肛門周囲膿症つまり痔瘻だから入浴はできるのだが、外科病棟に入院中に入浴できたのはたったの3回だけで、1回目と2回目は30分間という短さで垢がふやけた程度であった。3回目は1時間の時間をもらったのでようやく全身を洗うことができた。
内科病棟へ移ったのは2月17日であるが、同室の患者さんの間断のない咳と洟をかむ音で一睡もできず参ってしまった。それで部屋替えを申し出たら個室しか空いていないというので一日当たり5000円弱の利用料金で移ることにした。個室にはシャワーの設備があったが、あまりにも狭いスペースで使いにくいものだった。それで一日おきくらいに下半身だけを洗っていた。
内科病棟には10日間ほどいたが風呂に入れたのは一度だけである。風呂は空いているのに入浴させないのは単に看護師が準備や後始末が面倒だからだと私は判断した。
外科の看護師には緊張感も見られたが、寝たっ切り患者の多い内科病棟の看護師には緊張感が欠如しているように感じた。私が食前に飲む薬を持ってくるのを忘れてしまい、文句を言ったら、貴方だけが患者ではないなどと暴言を吐く始末である。
27日の10時に退院して帰宅して最初にしたのは入浴である。43度のお風呂にゆっくり浸かっていたら全身の皮膚から垢がふやけて風呂水の表面に白く浮き出した。1時間ほどかけて頭の天辺から足の指先まで丁寧に洗った。
1か月以上に及ぶ今回の入院で判ったことは看護師には何の権限もないこと。彼女たちは医師の威を借る狐であるということ。病院には風呂場はあっても脱衣所もろくに備わっていないということ。なかなか入浴の機会が与えられないということ。病院というところは意外にも垢に塗れた患者ばかりの不潔なところであるというのが私の率直な感想だ。
私の前にこの場所にいた患者はヤクザ風の無愛想な男でテレビの音量を大きくしたりして勝手気ままな生活をしていたようである。つまり部屋の皆の嫌われ者だった。その後釜の私は話題豊富な”おだっくい野郎”だから、部屋は一気に和やかな雰囲気になったのである。
私の西側の患者さんは75歳の穏やかな人物だった。バスの運転手や運行管理をして定年退職後は幼稚園の送迎バスの運転手をして70歳まで働いていたそうである。毎日、ビールと焼酎で晩酌するのが唯一の楽しみで、9歳若いバスガイドあがりの奥さんとの間に4人の子供と8人の孫に恵まれてなに不自由のない生活を続けていた。
昨年の12月に便の中に大量の出血があり、検査を受けた結果は大腸ガンとの診断で年末年始を自宅で過ごして、正月明けに大腸摘出手術を受けて体外に人工大腸を装着している。もう40日間も風呂に入っていないということであった。手術後もドレインといって手術部位から滲出する体液を体外へ出す管を取り付けている。だから容易に風呂には入れないのである。
それではどうしているのかというと、午前9時ころに蒸したタオルが二本配られてくる。一本は上半身、一本で下半身を拭けというのである。しかし、昨日は誰かが下半身を拭いたタオルで今日は別の人が顔を拭いているのである。勿論、洗濯をして高温で蒸してあるから大丈夫だというのであろうが、少し臭いもしてあまり気持ちの良いものではない。
私の隣のベッドの患者さんは70歳の鮨屋のご主人だった。この人は元々糖尿病やリウマチを患っていたが昨年末に胃ガンがみつかって胃を全部摘出したそうである。食道からいきなり小腸へつないであるから一度に多くは食べられない。食事は6回に分けて食べていたが、食べると押出し式に排便することになり夜昼となくトイレに通っていた。この人もドレインの管が出ていて入浴できないでいた。
もう一人の患者さんは電力関係の企業に勤める59歳の方で病名ははっきりとは聞かなかったがどうやら胆管ガンを切除した様子だった。この人もドレインの管を出していた。
同室の3人の患者さんとは話をしてみると、共通の知人や友人が多くて、びっくりするほどであった。世間は広いようで実は狭いのである。
私自身は肛門周囲膿症つまり痔瘻だから入浴はできるのだが、外科病棟に入院中に入浴できたのはたったの3回だけで、1回目と2回目は30分間という短さで垢がふやけた程度であった。3回目は1時間の時間をもらったのでようやく全身を洗うことができた。
内科病棟へ移ったのは2月17日であるが、同室の患者さんの間断のない咳と洟をかむ音で一睡もできず参ってしまった。それで部屋替えを申し出たら個室しか空いていないというので一日当たり5000円弱の利用料金で移ることにした。個室にはシャワーの設備があったが、あまりにも狭いスペースで使いにくいものだった。それで一日おきくらいに下半身だけを洗っていた。
内科病棟には10日間ほどいたが風呂に入れたのは一度だけである。風呂は空いているのに入浴させないのは単に看護師が準備や後始末が面倒だからだと私は判断した。
外科の看護師には緊張感も見られたが、寝たっ切り患者の多い内科病棟の看護師には緊張感が欠如しているように感じた。私が食前に飲む薬を持ってくるのを忘れてしまい、文句を言ったら、貴方だけが患者ではないなどと暴言を吐く始末である。
27日の10時に退院して帰宅して最初にしたのは入浴である。43度のお風呂にゆっくり浸かっていたら全身の皮膚から垢がふやけて風呂水の表面に白く浮き出した。1時間ほどかけて頭の天辺から足の指先まで丁寧に洗った。
1か月以上に及ぶ今回の入院で判ったことは看護師には何の権限もないこと。彼女たちは医師の威を借る狐であるということ。病院には風呂場はあっても脱衣所もろくに備わっていないということ。なかなか入浴の機会が与えられないということ。病院というところは意外にも垢に塗れた患者ばかりの不潔なところであるというのが私の率直な感想だ。