日々是好舌

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誰一人  聴いたことない  天の声

2013年07月10日 16時34分08秒 | 日記
 高校を出てからほとんどは建設業界に身を置いている。
ほとんどはというのは3年間だけだが民間信用調査会社東京商工リサーチへ勤めたことがあるからだ。

 学校を出て最初に就職したのは当時大阪に本社があった中堅ゼネコンの東京支社で、主に経理の仕事をした。その会社は当時業績を急激に伸ばしていたが実情は苦しくて半ば粉飾決算のようなこともしていた。

 学歴のない私は5年間勤めたときに大学新卒者の初任給が私の給料よりも多いことを知ってさっさと見切りをつけて辞めた。

 次に勤めたのは八重洲に本社があった大手企業の系列会社で、前の会社の工事課長だった人が工事部長になっていて面倒見てくれた。ところがこの会社の実態は長崎県の離島などで鋼製プールを作るのが本業でまったくのペーパーカンパニーだった。3ヶ月ほどで辞めたがこの間に社長の顔は一度も見たことがなかったし、常務という人と二、三度話しただけだった。

 次に勤めたのが大日本土木という岐阜市に本社があった中堅ゼネコンで東京支店の経理課へ採用されたのだが、実際の仕事は現場の事務だった。

 都下北多摩の茶畑の中にプレハブの事務所と飯場を建てて現場で寝泊りしながら小学校の新設工事現場で事務仕事をやった。私が23歳の頃である。

 その後、藤枝市で民間信用調査会社、所謂、興信所へ3年間勤め、28歳のときに静岡へ戻って地元の建設会社へ就職した。

 ここの会社では営業を担当したが、主な仕事は”話し合い”であった。当時はほとんどの工事落札者を談合で決めていたから仕事はけっこう多忙であった。

 あるとき堰堤工事の談合が決裂して本来あるべき競争入札になったことがあった。その入札では最低入札者と2番札は最低制限価格を下回って失格し、私が入れた3番札に落札したのだが、発注者の県土木事務所長が烈火のごとく怒って私を詰問してきた。発注者が想定していた業者と違う業者が落札し、しかも金額が予定価格より1割以上も安かった所為である。

 公共工事には会計検査院による会計検査というのが付き物である。ある工事だけがずば抜けて低価格だと、他の工事価格が高すぎるのではないかという指摘を受けるようである。

 入札参加業者の生殺与奪の権は自分が握っているんだと豪語していた県土木事務所長は散々に私を詰ったが、最後に私が「これまでの所長さんのお話はすべて県会議員の先生に報告して議会でとりあげていただきます」と開き直ると、「誰に報告するんだ」と問い詰めてきた。

 私が「共産党でも社会党でも自民党でも県会議員の一人や二人は存じ上げていますが、競争入札をまともにやった業者が不利益を被るという話だから共産党あたりが一番喜ぶんじゃないでしょうか」というと、県土木事務所長は途端に顔面蒼白になってがたがた震えだした。役人なんていう人種は所詮こんな程度の人間が多いもので、弱いと見れば嵩にかかっていたぶってくるが、自分より強い権力にはまるで意気地がないのである。

 その所長は「申し訳ない。自分が言い過ぎたかもしれない。しかし、会計検査のことだけは理解してもらいたい」などと一転して低姿勢になり、最後に「私が所長でいる限りアンタのところを干すようなことは絶対にしないから安心して欲しい」などと擦り寄ってきた。事実この所長が在任中は指名件数も契約件数も飛躍的に伸びた。

 あるときの入札ではこんなハプニングもあった。市役所が発注した建築の物件だったが本命の業者が入札金額を一桁少なく書いて失格してしまったのである。

 前日行われた談合で私と最後まで話し合いをして無理やり仕事を持っていった業者が8100万円と書くべきところを810万円と書いてしまったのである。残った業者の入札金額はいずれも予定価格に達していないので再入札ということになった。

 さあ、大変である。私は入札会場の隅っこへ入札参加メンバー全員を呼び集めてこう言った。「この仕事は元々私が強く希望した物件です。私に譲ってください」と。15社の指名業者の中には大手ゼネコンも2社入っていたが一も二もなく応諾してくれた。

 二回目の入札では8000万円で応札した私が落札した。もう35年も前のことであるから談合罪も時効である。

 これは余談だが、当時も「天の声」というのがときどき降りてきた。しかし「天の声」を直接聴いた人はいなくて、必ず談合の元締めからまことしやかに伝えられるのが通例であった。

 発注者や権力者が露骨に受注業者を指名するなどということはそうそうあることではないだろう。昔も今も「天の声」は談合の元締めが都合よく発しているのではないかと私は考えている。

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