アルフレッド•ランシング 『エンデュアランス』(山本光伸訳) パンローリング社刊、2014
アーネスト•ヘンリー•シャクルトン (1873-1922)はアイルランド生まれの探検家である。1914年、シャクルトンは27名の隊員とともに南極大陸横断を目指して木造帆船で出発する。だが航海の途中で氷に阻まれて難破し、舟を捨てて漂流生活が始まる。母国とも連絡は取れず、苦難の生活が続く。シャクルトンは並外れた勇気と剛胆さを持って隊員を導き、17ケ月後に一人の犠牲者も出さずチームは帰還をはたすことができた。寒さと嵐、食料不足、病気、隊員どうしの不和といった極限状況の中でシャクルトンが、どのようにリーダーシップを発揮し、人々がそれに応じたかを迫真の筆致でえがく。
集団が極限の苦難に直面した場合は民主的な協議よりも、一人の強いリーダーが必要であることをこの書は教えてくれる。たまにリーダーが過ちをおかすにしても、その方が生き残る確率は高いのだ。そして、日常の中で人々が苦痛を精神的に軽減するために、いかに「遊び」が大事かも教えてくれている。彼らは遭難中にも次のようなパーティーを開いて不安や苦痛を消去する努力をした。
グリーンストリートはこの日の日記に次のように書いている。〈一番笑ったのは、カーが浮浪者の格好で『闘牛士スパゴニ』を歌ったときだ。カーは高すぎる音程で歌いだして、伴奏のハッセーが『もっと低く、低く』と言って、低い音で演奏しているのに構わずそのまま続けて、とうとうまるきり調子がはずれてしまった。闘牛士スパゴニの歌詞も忘れてしまって、闘牛士スチュバスキと言ってみたり、コーラスの部分なんてひどいもので、ただ『死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ』と怒鳴っていた。これがとにかくおかしくて、皆、涙をこぼして笑い転げた。マッキルロイはスペインの女の子に扮したが、これもひどいものだった。襟ぐりの深いイブニングドレスにスリットスカートをはいて、靴下の上に生の脚をのぞかせたマッキルロイが……スペイン・ダンスを踊ったのだ〉。マーストンは歌を歌い、ワイルドはロングフェローの詩『ヘスペラス号の難破』を朗唱し、ハドソンは混血の少女に、グリーンストリートは赤鼻の酔っぱらいに、リッキンソンはロンドンの街娼に扮した(以上引用)。
マーゴ•モレル、著『史上最強のリーダー シャクルトン ― 絶望の淵に立っても決してあきらめない 』(高橋裕子訳)PHP研究所、2001
この書も同じ事件のドキュメントであるが、ランシングの著が冒険小説的なの対して、シャクルトンにスポットを当てた心理ドラマの要素が強い。