京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

ミツバチに刺されると健康になる?

2024年10月20日 | 環境と健康

 

 

 ミツバチを飼っていると、年に2~3回は刺される。刺されると、しばらく痛カユいが、我慢していると2~3時間で治まる。ミツバチの毒液は、化学的カクテルで、その中にアパシンという成分が含まれている。これはカルシウム依存性カリウムチャンネルを遮断して、ニューロンにインパルス(活動電位)を発射しやすくさせる働きを持つ。大量に投与されると痙攣を引き起こすが、少量ではドーパミン作動性ニューロンの受容体を刺激して心地よい興奮を生ずる。

蜂針療法ではミツバチの針を刺して少量の毒液を皮膚に注入し、身体の痛みや肩こりを軽減する。一種の代替医療である。

 クリスティー・ウィルコックスの著には、ミツバチに刺されて、難病のライム病が治癒した女性科学者の話しが紹介されている。この有効成分はメリチンというタンパク質らしい。このメリチンは、HIV(AIDSウィルス)を破壊するという報告もある。さらに、ミツバチの毒液の別の成分の一つ(phospholipase A2)も、HIVを殺すことが報告されている。

 ほかにも顔のシミをとる成分や、多発性硬化症を改善する成分もミツバチの毒液は含んでいる。毒は薬というが、組合わせによって不思議な作用を示す生体有機化合物を自然は造ってくれた。

 

参考文献

クリスティー・ウィルコックス 『毒々生物の奇妙な進化』(垂雄二訳)文春文庫, 2020

David Fenardet et al., (2001) A peptide derived from bee venom-secreted  phospholipase A2 inhibits replication of T-cell tropic HIV-1strains via interaction with CXCR4chemokin receptor. Molec. Pharmacol. 60, 341-47.

追記(2024/10/20)

ハチやアリに刺されたり嚙まれときの痛さを、アメリカの昆虫学者Justin Orvel Schmid(ジェスティン・シュミット)は1ー4プラスの段階に分けた。1はコハナバチで「軽く一瞬だけの心地よい痛さ。腕の毛一本が焦げた感じ」だそうだ。2はミツバチで「自分の皮膚でマッチを擦った痛さ」。3はレッド・ハーベストアリで「厚かましく無遠慮な痛さ。肉に食い込んだ足の爪をドリルで掘る痛さ」。そして最高の痛さ4+はサシハリアリで「純粋で強烈で見事な痛さ。五寸釘の混じった焼けた炭の上を素足であるく感じ」とのべている。本当にそんな経験があるのかと聞きたい。

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ミツバチの飛行速度はヒトに換算するとジェット機並!

2024年10月20日 | ミニ里山記録

 

 トーマス・シーリー (1952~)はコーネル大学神経行動学の教授である。分蜂群がどのように巣を選ぶかといったメカニズムに集合知のようなものがあることを発見した。シーリーの著『野生ミツバチの知られざる生活』(青土社)によると、ミツバチの巡航速度は時速約30kMだそうだ(蜜胃が空のとき)。ミツバチ成虫 (体長1.5cm)とヒト(計算上身長1.5mとして)を比較して、これをヒトの速度に換算するとなんと時速は約3000kmになる。これは航空自衛隊のF-15戦闘機のそれに匹敵する。ミツバチは3kmを6分で飛行するが、3kmはヒト換算で300kmである。京都を起点とするとこれは、静岡県島田市付近である。彼らは自分の大きさを考えると、恐るべき長距離を短時間で移動していることになる。

 シーリーによると、セイヨウミツバチの野外巣の最適環境は、南向き、高さ5M、入り口(12.5cm2)、底部巣口、容積40L、巣板付属といったところである。巣の形や湿度、隙間の有無はあまり入巣には影響していない。彼はさらに1871例の尻振りダンスを解析し、えさ場の距離を計測し分布をまとめている。コーネル大学の「アーノットの森」では、えさ場は再頻度0.7Km、中央値1.7Km、平均距離2.3km、最大距離は10.9kmであった。平均距離は時期によって2-5kmの間で変化した。ニホンミツバチを用いて同様の研究が佐々木らによって玉川大学構内で行われた(1993)。その結果、ニホンミツバチはセイヨウミツバチに比較して近い(2km以内)えさ場を利用しているようである。ただ、これらのデーターは資源の様態によって当然変化する事を忘れてはならない。

 シーリーは距離や方角だけでなく野外コロニーの巣を発見する方法も開発した。ある地点にエサ(砂糖水)を置き、ミツバチを誘因する。それにマークを付けて、飛んで来る直線方向(ビーライン)にえさ場を移動し、再度、ミツバチを誘因する。マークの付いた個体がえさ場に通う時間を計算しておおよその巣の位置を特定した。

シーリーは最後に「ダーウイン主義的養蜂のすすめ」を提唱している。理想とする養蜂とはミツバチをできるだけ、その自然の生き方に干渉せずに飼育するというものである。具体的には1)環境に遺伝的適応したコロニーを飼育すること。ニホンミツバチの場合は、例えば東北地方のコロニーを西日本に輸送して飼うなどは、遺伝的攪乱の可能性がある。2)適度な密度で飼育することも肝要なことである。高密度飼育は盗蜂や他巣入りを誘導する。また病気の感染が一気に広がるリスクが高い。3)巣の容積は40L以下に抑えるべきである。大きな巣は、自然分蜂を妨げ、ダニなどの感染爆発を引き起こしやすい。また資源の局所的枯渇を引き起こす。4)多様な資源の下に、ミツバチを飼育する必要がある。資源の多い場所でのコロニーは病気になりにくい。などなど....。ミツバチを飼って単純に「エコ」だと思うのは間違。

 

参考図書

佐々木正己 『ニホンミツバチー北限のApis cerana』海游舎 

 

追記2024/10/20

一秒で自身の体長の何倍移動できるかをBLPSという数値で表す。知られている限り最大のBLPS生物は長さ数ミリのカイアシで1,778だそうだ。人はせいぜい6.1。ミツバチは計算すると、おおよそ500ぐらいでハチドリの385より大きい。

参考:ジョエル・レビィ著 「デカルトの悪魔はなぜ笑うのか」創元社 2014年

 

 

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