ミツバチを飼っていると、年に2~3回は刺される。刺されると、しばらく痛カユいが、我慢していると2~3時間で治まる。ミツバチの毒液は、化学的カクテルで、その中にアパシンという成分が含まれている。これはカルシウム依存性カリウムチャンネルを遮断して、ニューロンにインパルス(活動電位)を発射しやすくさせる働きを持つ。大量に投与されると痙攣を引き起こすが、少量ではドーパミン作動性ニューロンの受容体を刺激して心地よい興奮を生ずる。
蜂針療法ではミツバチの針を刺して少量の毒液を皮膚に注入し、身体の痛みや肩こりを軽減する。一種の代替医療である。
クリスティー・ウィルコックスの著には、ミツバチに刺されて、難病のライム病が治癒した女性科学者の話しが紹介されている。この有効成分はメリチンというタンパク質らしい。このメリチンは、HIV(AIDSウィルス)を破壊するという報告もある。さらに、ミツバチの毒液の別の成分の一つ(phospholipase A2)も、HIVを殺すことが報告されている。
ほかにも顔のシミをとる成分や、多発性硬化症を改善する成分もミツバチの毒液は含んでいる。毒は薬というが、組合わせによって不思議な作用を示す生体有機化合物を自然は造ってくれた。
参考文献
クリスティー・ウィルコックス 『毒々生物の奇妙な進化』(垂雄二訳)文春文庫, 2020
David Fenardet et al., (2001) A peptide derived from bee venom-secreted phospholipase A2 inhibits replication of T-cell tropic HIV-1strains via interaction with CXCR4chemokin receptor. Molec. Pharmacol. 60, 341-47.
追記(2024/10/20)
ハチやアリに刺されたり嚙まれときの痛さを、アメリカの昆虫学者Justin Orvel Schmid(ジェスティン・シュミット)は1ー4プラスの段階に分けた。1はコハナバチで「軽く一瞬だけの心地よい痛さ。腕の毛一本が焦げた感じ」だそうだ。2はミツバチで「自分の皮膚でマッチを擦った痛さ」。3はレッド・ハーベストアリで「厚かましく無遠慮な痛さ。肉に食い込んだ足の爪をドリルで掘る痛さ」。そして最高の痛さ4+はサシハリアリで「純粋で強烈で見事な痛さ。五寸釘の混じった焼けた炭の上を素足であるく感じ」とのべている。本当にそんな経験があるのかと聞きたい。