(アリのコロニーでの労働:参考文献より引用転載)
動物における社会性の要件は密集である。社会性昆虫のミツバチ、アリ、シロアリなどはコロニーを形成して高い密度で生活している。昆虫における社会性の進化の必要条件の一つは、外敵にたいする防衛行動と考えられている。社会生物学の専門家であるエドワード・ウィルソン博士は、オオズアリを用いてそれを明らかにした。
(ウィルソン博士のサイン)
別の必要条件は、あまり議論されないが、集団での防疫能の獲得である。
コロニー内のアリやハチが微生物の攻撃を受けないかというと、そうではない。昆虫の集団の一匹でも病原性の微生物に感染すると、それはたちまちコロニー全体に広まってしまう。例えば、アリに取り付いてゾンビ化する寄生菌の話しがナショナル・ジオグラフィックで紹介されている (https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/111400440/)。
社会性昆虫はウィルスや細菌の感染を防ぐ為に、巣の清掃、グルーミイングを四六時中行っている。シロアリは唾液腺からリゾチームというバクテリアの消化酵素を分泌して、有害な巣内の病原菌を消毒している。さらに少しでも弱った個体がいると、健康なアリやハチに外に追い出されてしまう。それほど、彼らは衛生環境のキープに多大なエネルギーをかけている。
社会性昆虫の防疫能は、他の生物のそれと同様に微妙なバランスの上でなりたっている。環境が変わると、いままで何ら影響の無かった微生物が突然、病原性を発揮してパンデミックを起こすことがある。たとえば、セイヨウミツバチで問題になっていたCCD(ミツバチコロニー崩壊症)の原因は単一ではなく、イスラエル急性麻痺ウイルス(IAPV)、ノゼマ病原菌などが原因で、これはミツバチを取り囲む環境変動がその背景にあると考えらえている。
社会性でないのに高密度で育つ昆虫にカイコがいるが、これにはやっかいな感染病が昔から知られている。微粒子病、硬化病、軟化病、膿病(核多角体病)などである。いったん、蚕室にこれらが発生すると、たちまち全体に広がり全滅してしまう。カイコはこれらに対してなんら自己防衛的な行動をとらないから、飼育者が残存個体を焼却し、環境を消毒・滅菌して拡大を防ぐ必要がある。養蚕はこういった感染症との闘いの歴史である。
参考文献
横山忠雄監修 『綜合養蚕学』中央蚕糸協会 (1954)
Edward O. Wilson (1976) The organization of colony defense in the ant Pheidole dentata (Hymenoptera :Firmicidae) Behav. Ecol, Sociobiol. 1, 63-81.
Fujita A., Minamoto T., Shimizu I. and Abe T. (2002) Molecular cloning of lysozyme-encoding cDNAs expressed in the salivary gland of a wood-feeding termite, Reticulitermes speratus. Insect Biochem. Mol. Biol. 32. 1615-1624.
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます