京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

DNA分析による顔のモンタージュ法?ーNHKスペシャル「人体、遺伝子」

2023年07月07日 | 環境と健康

NHKスペシャル「人体」取材班著『シリーズ人体、遺伝子』ー健康長寿、容姿、才能まで秘密を解明!、講談社、2019

   最先端の技術で人のDNA分析により、性別、年齢、髪の色、皮膚の色、民族などが推定できるようになっている。年齢はDNAのメチル化の程度を調べると分かるらしい(歳を取るにつれてメチル化された特定部位のシトシンの割合が増える)。これは前から分かっているのでさほど驚くべき事ではないが、本書で紹介されている「DNA顔モンタージュ」については「ほんまかいな?」という感想である。そこには次のような内容が書かれていた。

 米国ではパラボン・ナノラズ社の「DNAの情報から顔を再現する」方法を警察の捜査に利用し、犯人の残したDNA情報を基に顔モンタージュを作り、それにより逮捕にいたったという事である。さらに中国科学院のKun Tang(クン・タン)博士らのチームは、人のDNAに1万カ所以上も顔の形態(morphology)を決める部位 がある事を明らかにした。方法としては、たくさんの人の3次元画像を収集し、人工知能AIを用いてDNAとその顔画像のデーターの関係を明らかにしたという。ディープラーニングのアルゴリズムを確立し、複雑な関係性を見いだしたそうだ。実際に俳優の鈴木亮平さんにDNAサンプルを提供してもらい、タン博士が研究成果で得たアルゴリズムでもって顔の3D画像を作ると、「気味が悪いほど」よく似た顔画像が得られた。

  本書によると、この研究成果(表題では「中国版DNA顔モンタージュ技術」)は学術雑誌に発表されているという (67頁)。これはゲノミックス、AIとコンピューター3D技術を組み合わせた画期的な研究だと思い文献検索してみた。中国科学アカデミーのホームページ(https://www.researchgate.net/ scientific-contributions/ 38255 468_Kun_Tang)でタン博士の最新の報告(bioRxvのプレプリント)は『Novel genetic loci affecting facial shape variation in humans (11月2019年発表)』というものである。しかし、これにはそんな事は書いていない。さらに,リストに掲載の過去の論文をさかのぼって調べても、上記のような内容のものは出てこない。庵主の検索法に穴があるのかもしれないが、このあたり少しひっかかる。

  上海大学に在籍中のタン博士が行ったComputational Biology誌の論文[Detecing Genetic Association of Common Human Facial Morphological Variation Using High Density 3D Image Registration] (2013年)を読んでみた。これは、口唇口蓋裂と関連する遺伝子(IRF6)を含む顔形態遺伝子と顔貌の関連を調べたもので、これについてはまあまあ良質な論文と思えた。

 

  本書にはその他に以下のような話題が並んでいる。DNAのタンパク質をコードしているORF(open reading frame)の読み取開始の上流のエンハンサーの塩基配列がon-offの活性に重要だという事とDNAのメチル化が次世代の遺伝子発現の調節にまで影響している事などが述べられている(遺伝子配列や組成が環境によって変化し、次世代に遺伝するのではないので誤解してはならない)。さらにDNA配列の多様性によって薬や食材の効果が一人づつ違う。たとえばコーヒーの健康効果についてもそれを分解する遺伝子 (CYP1A2)発現の程度に個人差がある。それによってコーヒーが有効な人と、かえって害になる人に分かれるそうだ。

 

脚注:(2023/07/07)

DNAのSNPから顔を推定するサービス会社(ParbonNan-Labs)が米国にあって、サンプルの人の年令、肌,目、髪の色、そばかすの有無、祖先(人類のどのグループか)などを調べてくれる。これらを総合して作った顔の推定モンタージュ写真は実物とかなり似ている(Newton 2023,7月号)。

 

 

 

 

 

 


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