昨日までの「種牡馬エピファネイアの中間評価」の番外編です。
初回は『産駒が早熟とは言い切れない』という内容で、第2回は『種付料1800万円は高すぎる』という主張でありました。いずれも、AEI(アーニング・インデックス)のデータに基づき、検証を試みた内容です。
そして本日は、エピファネイアにしても、モーリスにしても、もしスーパー種牡馬というのであるならば、AEIの絶対水準が低すぎる点を課題として取り上げようと思います。
エピファネイアの4世代のAEI(2022年11月27日現在)は、2017年生まれ世代が1.44、2018年生まれ世代が1.60、2019年生まれ世代が1.28、そして2020年生まれ世代が1.64。それから、種牡馬デビューが1年下のモーリスの3世代のAEIは、2018年生まれ世代が1.75、2019年生まれ世代が0.92、2020年生まれ世代が1.04。なお、2020年生まれ世代はまだ2歳馬なので、これは参考値とします。
エピファネイアもモーリスも、AEIが3.0以上が当たり前だったディープインパクトや、2.0以上が常態だったキングカメハメハと比べて、絶対水準が低すぎます。モーリスに至っては、ここ2世代のAEIが1.0前後になってしまっていて、これは全種牡馬の産駒1頭当たり平均とほぼ同じということ。もう種付料1000万円を超えるようなスーパー種牡馬の範疇からは転げ落ちていると言わざるを得ません。
ちなみに、キズナとドゥラメンテの世代別AEIも見てみましょう。
キズナの4世代のAEIは、2017年生まれ世代が1.85、2018年生まれ世代が1.92、2019年生まれ世代が1.59、2020年生まれ世代が1.37。種牡馬デビューが1年下のドゥラメンテの3世代のAEIは、2018年生まれ世代が1.59、2019年生まれ世代が1.43、2020年生まれ世代が1.81。
あくまで相対論ですが、同期のエピファネイアとキズナを比較すると、キズナのAEIの絶対水準が上。同じくドゥラメンテとモーリスを比較すると、ドゥラメンテのAEIの絶対水準が上。現役時代の競走成績でも、繁殖牝馬の質でも、殆ど差がない同期同士で、明確な差が出る理由は何なのでしょうか?
いや、別の言い方をしてみましょう。4頭ともに、この3年間で産駒がJRAのGⅠを勝っています。エピファネイアは3頭、キズナは2頭、ドゥラメンテも2頭、モーリスも2頭です。それでは、4頭ともに目立つGⅠ馬を出しているにもかかわらず、なぜ、エピファネイアとモーリスは、AEIが相対的に低位に留まっているのか?
これは、以前にこのblog(2022年1月19日)でも書いたとおりですが、エピファネイアとモーリスの産駒では、サンデーサイレンスの4×3のインブリードばかり生産しているからだと、ワタクシは推測しております。
確かに、インブリードという方法は、サンデーサイレンスのようなスーパーホースを再現するには合理的な方法ではありますが、生物学的には大きなリスクを伴う手法であります。肉体的精神的な不備が生まれやすくなるだけでなく、遺伝子上にも何らかの傷を持ってしまい、次の世代へ優れた因子を繋げなくなるリスクが大きくなるからです。
これも以前の当blog(2022年1月20日21日)でお示ししたとおり、サラブレッドの歴史に名を刻む、有名なサイヤーラインには、4×4までのインブリードは見ることはあっても、3×4よりも濃いインブリードを見つけることは殆どないという事実があります。ちなみに、あのディープインパクトは、5×5のインブレードすら存在しない、全くのアウトブリード血統であります。
エピファネイアもモーリスも、歴史に名を刻む名馬であり、また種牡馬としても大きな潜在能力を秘めています。競走馬の生産現場の都合から、サンデーサイレンスのインブリード原材料向き種牡馬として使うのではなく、インブリードから離れた健全なブリーディングへいったん引き戻すことが必要ではないかと考えます。
サンデーサイレンスの4×3インブリードの馬は、確かに高い値段で取引されます。購入する馬主たちは、遺伝的なリスクをあまり考慮に入れていないからです。3歳時のダービー出走やオークス出走という晴れやかな舞台に立ちたい一心で、何億円もお金を出すのが彼らの流儀。この傾向をいいことに、生産界はサンデーサイレンスの4×3インブリードの生産に拍車をかけていますが、エピファネイアとモーリスのAEIが伸びないという事態が明確になった今、もうこの傾向にストップをかけるタイミングになったと考えます。
特に、社台スタリオンステーションの皆様。特に、日本の競馬界の皇帝である吉田勝巳さん。そろそろ、潮時ではないでしょうか。これ以上、サンデーサイレンスの4×3に夢を追いかけるのは、度を越した行為であると思います。