私たちは人生の様々な場面で、選択を求められます。勿論、全く自分の意思や希望に関わらず進んでしまう出来事もありますが、それ以前までさかのぼり考えると、やはり今の環境や状況に置かれる前に選択する機会が存在した事に気付くものです。何かしらの決断、選択の必要に迫られた時、正解を導いてくれる方法やヒントがあればどんなに心強いでしょうか。それに対する数学的な思考法の一つとして、ある複数(2人以上)が関わった一定のルールがある状況で、どのような選択をすることが最善であるかを理論的に説明したものが所謂「ゲーム理論」です。
ゲーム理論の発案者はハンガリーの数学者ジョン・フォン・ノイマンで、この理論を発展させ、後にノーベル賞を受けたのが、映画「ビューティフル・マインド」の主人公ジョン・F・ナッシュです。映画の中では、ナッシュがゲーム理論を応用させた「ナッシュ均衡理論」を面白いエピソードで紹介しています。友人と酒場にいたナッシュの前に、ブロンド美人とその女友達が現れます。「皆がブロンド美人を落とそうと声をかけると、結局は全員振られ、その女友達も呆れて去ってしまう。しかし、全員がブロンド美人を諦め他の友人に声をかけると、全体の雰囲気もほぐれて、皆が良い関係になる。」つまり、‘最良の結果は、全員が個人とグループ全体の利益を追求することで得られる。’と説明し、数学的にも証明しました。これは、‘個人個人が自分の利益を追求することが、社会全体の利益につながる。’とするアダム・スミスの「神の手理論」を覆す考え方だと評価されます。ゲーム理論は、その後は利害が対立する集団の行動に対する分析や評価法として、経済のみではなく、人の行動決定から多国間の軍事的シュミレーションにまで応用され、最近では北朝鮮をめぐる韓国、日本、アメリカの戦略的行動分析にも利用されているようです。
若くして天才の名を思うままにしたナッシュですが、やがて統合失調症を患い俳人寸前になり、妻アリシアをはじめ周囲の支えから何とか社会復帰します。やむを得ず、離婚した妻とは73歳の時再婚しました。果たして夫婦の結末は、ゲーム理論によるものであるかはわかりません。