ある国や民族を象徴する色があると思います。例えば中国では、古代中国からの哲学から、世の中に存在する万物は「木・火・土・金・水」の五つからできているという「五行説」に則り、そこから導き出した「青・赤・黄・白・黒」を正色として、民族衣装や建物の彩色に用いてきました。韓国でも「五行説」の影響は受けながらも「白衣民族」と呼ばれたように白を何色にも染まらない純粋性、独立精神を表すものと特別な色と考え、独自の色彩表現を創ってきたようです。日本でも神に仕える清らかさを示すものとして白無垢は特別な地位を与えられています。
一方、西欧で白色の文明といえば、パルテノン神殿などの荘厳な建造物や、それらに刻まれた彫刻、そして「ミロのビーナス」や「ラオコン」などの彫刻像に代表されるイメージから、多分多くが古代ギリシャ文明を思い浮かべるでしょう。しかし、先日 放送されたNHKスペシャル「大英博物館の真実」第二話「古代ギリシャ白い文明の真実」の内容はかなり意外なものでした。大英博物館の研究員による最新の色彩分析技術を使った調査の結果、白で象徴された古代ギリシャ時代の建造物や彫刻は、実は長い時間と共に塗料が剥げて現在の白い状態になったもので、当時は鮮やかな極彩色で彩られていたことが判明したのです。その上、優雅で上品な、独自の白い文明のイメージを強調すべく、大英博物館内部で、僅かに残った塗料をそぎ落とすという作業までしていた記録が残っているのです。こうした背景には、およそ250年前の産業革命と植民地政策で世界に台頭しようとするヨーロッパにおいて、他の大陸や地域に対して、文明的な独自性、優越性を白いギリシャ文明を持って世界に知らしめようという意図があったと解釈されています。
確かに、ギリシャ文明の発祥には、古代ギリシャ人が貧しさから傭兵としてエジプトの王に雇われ、エジプト文明の影響を強く受けた事実や、白ではなく、エジプトやメソポタミア文明でも見られる様々な色彩を持った文明であったとすれば、かなり私たちのギリシャに対する印象が違ったかも知れません。歴史というものの評価の大切さ、困難さをあらためて感じます。