メディアで紹介される情報以上に、患者さんや知人との会話内容から所謂韓流ファンだけでなく、老若男女様々な層で韓国ドラマは確実に浸透し、評価されていることを実感する。既に以前から若者のテレビ離れ傾向は、YouTubeなどのネット動画配信の浸透と共に自然な流れとなったが、それ以外の広い年齢層でも同様であろう。マンネリ化したバラエティーや、旧態依然の顔ぶれ、スポンサーの意図に合わせた当たり障りのない脚本で創作されたドラマに魅力を感じないのは当然かもしれない。一方、韓流ドラマは「冬ソナ」「チャングㇽムの誓い」で中高年女性や、時代ものを好む一部中高年男性から確実にファン層を広げていった。そして、現在は美男美女の恋愛ストーリと言う枠を超え(勿論、演技力を伴った美男美女俳優陣は基本?だが)、サスペンス、アクション、ホラー、SFと様々要素を吸収しながら、秀悦な脚本と構成により完成度を高め、更にケーブルテレビ、ネット動画という媒体によって豊富な資金を獲得しながら進化を続けている。
しかし、それでも未だ「韓流ドラマ」に偏見や抵抗のある中高年男性は存在するのではないか。こう言う私自身、韓国映画評を書く機会を頂いて初めて、韓国ドラマを全話通して観た一人である。今回、そんな中高年の仲間諸氏に紹介する「未成年裁判」はジャンルで言えば‘社会派ドラマ’だ。日本では選挙権が18歳以上に引き下げられた事で、‘成人’の取り扱いの変更もあって、今年4月から「18~19歳を‘特定少年’として17歳以下と異なる扱いとする」少年法の改正が施行される。以前より殺人事件や凶悪性の高い未成年事件が起きる度に、青少年に対して更生か刑罰かという議論は繰り返されてきた。特に25年前に発生した神戸連続児童殺傷事件は、当時14歳の少年の犯行という事で社会に与えた衝撃は計り知れないものだった。ドラマ「未成年裁判」でも1,2話で登場する事件は、当時16歳の少女が小学生を殺害し遺体を損傷した猟奇的事件をモチーフとしており、その他、ドラマで描かる様々な未成年犯罪も実際に起きた事件を参考にしている。それだけに物語としての描き方には細心の注意がはらわれ、事件の残虐性を強調する描写は避け、加害者、被害者、その家族の背景や性格を多角的に表現されている。実はこれがデビュー作であると知り驚くが、脚本を担当したキム・ミンソク作家が、構想から4年をかけ、多くの未成年事件の関係者への取材のもとに練り上げられた作品である。
己自身の不幸な出来事から「未成年犯罪者を憎んでいる」公言しながらも、全身全霊をかけて未成年裁判に取り組むシム・ウンスク判事を演じるのはキム・ヘス。彼女の出演作品にハズレなし!と言われる存在感は流石がであった。抜群のスタイルと魅惑的な表情でラブコメからアクションもの、そして近年は妖艶さを封印して弁護士、刑事など社会派作品で輝きを増している。また、彼女を囲む俳優陣も素晴らしい。上司の部長判事役を名優イ・ソンミンと、「パラサイト 半地下の家族」で家政婦役を演じ強い印象を残したイ・ジョンウン、理想と現実の中で悩む後輩判事役にキム・ムヨルが各々、欠かせない人物像として視聴者をドラマに奥底に引き込む。
凶悪事件がおきる度に叫ばれる「厳罰化」は、少年法でも同じかも知れない。未成年犯罪は絶対数は必ずしも増加傾向とは言えないが、低年齢化が問題視される。経済的格差の拡大、家族関係の複雑化や菲薄化、さらにネット社会が進むほど、良くも悪くも多くの情報に晒されるリスクなど、様々な要因が考えられる。自分の身内が被害者になったらどう思うかと聞かれれば、加害者が未成年であっても重く罰したい心情は理解できる。ただ、犯罪者も刑を終えれば社会の一員となる事を考えれば、厳罰化は現実には犯罪対策にはなっていないとの科学的データを無視することもできない。罪と罰、そして更生の問題は、このドラマでも問い続けるテーマだ。
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