地球の表面は十数枚の固い岩石の板からなるプレートで覆われている。このプレート同士が大きな力で押し合い、一方が地下に潜り込みながら摩擦が起きる。その過程で重なり、下方に滑り込んだプレートが弾かれる現象によって地震が発生する。日本に地震が多いのは限られた国土内に4つのプレートが接し合う、地球上でも非常に珍しい位置に存在する為だ。さらに、地震を起こすプレートの移動は、地下のマントルにあるマグマ量や噴出圧力を増加させることで、火山の噴火にも関連してくる。近年、地震の活動期に入ったとされる‘地震大国日本’には、全世界の7~8%にあたる111の活火山があり、常に綿密な観測下に置かれている。それに比べお隣の朝鮮半島に存在する活火山は、北朝鮮の両江道と中国の吉林省との国境上に位置する白頭山(標高2,744m)のみである。ところがこの白頭山、ただの活火山ではない。過去およそ1000年に一度の頻度で発生してきた大噴火の規模は、研究者によると今世紀内では最大規模に相当し、ポンペイを壊滅させたイタリアのベスビオ火山噴火よりはるかに巨大であったとされる。しかし、現在の北朝鮮政情下では十分な国際的調査や観測が行われているとは言い難い。
韓国ドラマで知られる「朱蒙(東明聖王)」が建国し「広開土大王(好太王)」の時に最盛期を迎えた強国「高句麗」の滅亡後、その遺民「大祚栄」によって設立された渤海国。日本とは遣唐使ならぬ遣渤海使の往来も盛んであった謎多き大国だが、渤海の滅亡にも10世紀に起きた今世紀最後の白頭山の大噴火が関わっていたという説がある。その後約100年間隔で小規模の噴火は起きてはいるが、それも最後に確認されたのは1905年である。最近の中国の地質学者による白頭山の火山活動の活発化やマグマの上昇報告が伝えられる中、直近の大噴火より既に1000年が過ぎている。
新たな噴火の可能性が憂慮される白頭山への関心が集まるタイミングで制作された映画が「白頭山大噴火(原題 白頭山=ペクトゥサン)だ。2019年、韓国で上映されるや観客動員数820万越えの大ヒットとなり、世界でも90ヵ国以上に配給された。今は北朝鮮領内で、実際に訪れることは叶わない「朝鮮民族の聖地」白頭山の一大事という観点での注目度もあるが、やはり作品自体のエンターテイメント性の高さに対する評価と言って良いだろう。現時点で最も旬と言えるキャスティングだけでも作品への期待が膨らむ。彼らの存在感を十分に活かしたストーリー展開、それに支えたのが「パラサイト 半地下の家族(2019)」「神と共に(2017,2018)」やNetflix作品などで世界的評価を得ている韓国デクスタースタジオによる高度なVFX技術を用いた特殊映像であった。今まで私達がSFやアクションスペクタル作品で感じたハリウッド映画への劣等感は過去のものであると実感させてくれる。
映画は、観測史上最大の噴火とそれに伴う大地震が半島全体に発生することで始まる。朝鮮半島壊滅を阻止すべく、白頭山噴火研究の第一人者である在米地質学者カン教授(マ・ドンソク)の理論に基づき核爆発でマグマ圧を下げの最終段階の大噴火を止めるという作戦を立てる。その為、特殊部隊を編成、チョ大尉(ハ・ジョンウ)を隊長に極秘に北朝鮮に潜入し、北朝鮮書記官として偽装工作をしてきたリ少佐(イ・ビョンホン)と協力して決死の任務に挑む。当然ながら最初から困難続きの作戦は、米中大国による妨害やリ少佐の隠された思惑が重なり、まさにミッションインポッシブルが展開される。
地震や火山噴火という圧倒的な天災の前で、人間は全くの無力であることを知らされてきた日本人に対し、地理的な条件から強国の外侵や内乱という人災の影響をより多く受けてきた朝鮮民族。この映画での主人公たちの白頭山噴火に対する荒唐無稽な挑戦は、過去の歴史における‘災害の遺伝子の違いによる’とは考え過ぎだろうか。
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