海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

「季刊 目取真俊」40回

2025-02-09 10:08:44 | 生活・文化

 以下の文章は2025年1月21日付琉球新報に「季刊 目取真俊」40回として、〈自衛官の採用と少子化/戦闘員確保に苦慮/軍事より子育てに予算を〉という見出しで掲載されたものです。

 

 数年前から2025年問題が話題になってきた。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護など社会保障費の増大、労働力不足、空き家の増加など多方面で問題が発生するというものだ。

 いよいよその年を迎えたのだが、問題をさらに深刻にしているのが、少子化に歯止めがかからないことだ。敗戦後、第一次ベビーブームが起こり、1947年には出生数が267万人余となる。さらに翌48年には268万人余、49年には269万人余に達する。それに対し2024年の出生数は70万人を切ることが確実となっている。日本の出生数はピーク時の4分の1程度になろうとしているのだ。

 自民党・公明党政権は少子化対策を強調してきたが、実際の効果は挙げていない。日本の出生数が100万人を維持していたのは2015年が最後であり、それからわずか9年で30万人以上減少しているのである。自民党に政治献金をする大企業の利益を優先し、非正規雇用を拡大してきたため貧困層が増大した。その結果がこれである。

 7割満たず

 少子化によって各産業分野では人手不足が深刻化している。あまり話題にならないが、自衛隊においても例外ではない。防衛省・自衛隊のホームページによれば、2024年3月31日時点での自衛隊の定員は24万7154人。現員は22万3511人で充足率は90・4%となっている。

 10パーセント程度の定員割れを起こしているが、階級別の充足率の内訳をみると次のようになる。

 幹部(将官・佐官・尉官) 92・6%

 准尉           96・7%

 曹(曹長・1~3曹)   98・2%

 士(士長・1~2士)   67・8%

 将官や佐官などの幹部クラスと准尉、曹(旧日本軍の下士官)の充足率が高いので、全体的に9割に達している。だが、実際に戦場で戦う若い士(旧日本軍の兵)の充足率は67・8%で7割に満たないのである。

 少子化による人手不足の中、若い士の確保に自衛隊は苦慮している。

 防衛省・自衛隊のホームページに「人的基盤の抜本的強化に関する検討委員会の概要」が載っている。そこで2023年度の自衛官の採用数を確認できるが、陸上自衛隊に限ってみると次のような数字になっている。

【一般曹候補生】

 陸上自衛隊 

 計画数  4,200人

 採用人数 2、532人。

 対計画比 60%

【自衛官候補生】

 陸上自衛隊 

 計画数  7,030人

 採用人数 1,897人

 対計画比 27%

 この数字を見ると、少子化の進行が自衛隊に与えている影響の大きさが分かる。自衛隊全体では計画数(募集)に対し採用人数の対計画比は51%となっている。報道によればこの数字は過去最低で、2022年度は66%であったから、それより15%も低下している。

 危険性

 先にふれたように実際に戦場で戦闘を担うのは、曹や士の自衛官が大半である。それが陸上自衛隊においては一般曹候補生で募集の60%、士となる自衛官候補生では募集の27%しか採用できていないのである。現在の士の充足率67・8%は、今後さらに低下する可能性がある。

 景気が良くなれば民間企業の採用が増加する。どの産業分野でも人手不足が深刻化するなか、自衛官の採用も競合となる。国家公務員とはいえ、自衛官の定年は佐官級の幹部で57~56歳、尉官級と曹は56~54歳である。民間企業に比べればかなり早い。

 政府・防衛省は自衛官の定年年齢引き上げを打ち出しているが、せいぜい1歳加える程度だ。年金の支給開始が65歳となり、今後は70歳まで引き上げられる可能性もある。自衛隊は組織的に再雇用に取り組んでいるが、若い世代の目にはどう映るだろうか。

 ロシアのウクライナ侵略やイスラエルによるパレスチナ侵攻など、悲惨な戦場の映像をメディアやインターネットで目にする。自衛隊と米軍の一体化が進み、海外派兵で戦場に行く危険性が高まれば、募集はさらに困難となるだろう。

 現在の自衛官の中には、3・11などの災害派遣で被災者のために活動する自衛隊を見て、募集に応じた人も多いのだ。実際に戦場に出て、人を殺す覚悟を持てるのか。

 愚の骨頂

 これは自衛隊だけの問題ではない。海上保安庁や警察も同じ問題を抱えることになる。いくら国の安全、防衛力強化を叫んでも、少子化の進行はそれを足元から崩していく。エマニュエル・トッドが言うように、日本にとっての危機は中国ではなく、人口動態なのである。

 いま日本が取り組むべきは、軍事強化に予算を拡大するのではなく、出産・育児や教育への予算を大幅に拡大し、新たな産業を創出するための研究開発予算を増やすことだ。中国が台湾を攻撃できないのは、TSMCなどの半導体産業があることも大きな理由であり、武器を持つだけが能ではない。

 辺野古の新基地建設など愚の骨頂である。滑走路が短く、輸送機が運用できない新基地は、普天間基地の代替施設にはなり得ない。那覇空港の米軍使用を認めなければ、新基地ができても普天間基地は返還されない。その予算を教育に回す方がはるかに社会のためだ。

 


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