海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

教科書訂正申請

2008-10-03 18:20:56 | 「集団自決」(強制集団死)
 大江・岩波沖縄戦裁判の控訴人側の準備書面(1)~(3)が南木隆治氏のブログに掲載されている。これで双方の準備書面が読めることになったので、裁判に関心のある方はご一読を。
 先週9月27日に開かれた県民大会一周年集会で、出版労連中央執行委員の吉田典裕氏が、発言の中で教科書協会の理事に文部科学省の天下りが行われていることを指摘していた。昨年の県民大会以降、教科書検定の透明性の確保が求められている中で、教科書協会はそれに逆行して執筆者にまで守秘義務を課すように教科書検定審議会に求めた。執筆者をはじめ多くの批判・抗議がなされたのだが、その背景には教科書協会と文部科学省との癒着があったわけだ。
 吉田氏によれば、教科書協会は規約にはない業務連絡会を月に一回持ち、そこで物事を決定しているのだという。文科省から天下った理事らが、文科省の意向に添った方針を決めているのは想像に難くない。物言う執筆者たちを黙らせ、透明性どころか密室化を進めることによって、教科書検定における文科省の統制力を強化しようとしているのは見え見えであり、教科書協会と結託した文科省の「焼け太り」を許してはならない。
 吉田氏は出版労連の年間方針として、教科書調査官制度の廃止要求を掲げていることも話していた。教科書調査官という一人の人物の主観に教科書記述が左右され、検定の判断がゆだねられていることのおかしさを指摘し、調査官と「新しい歴史教科書をつくる会」とのつながりにも触れていた。吉田氏が主張するように、調査官制度の廃止まで行かなければ、問題の解決にはつながらない。
 しかし、現状としては、「教科書検定意見撤回」、「軍強制記述の復活」という県民大会の決議の実現も難しい状況であることは、集会で講演した教科書執筆者の石山久男氏も述べていた。石山氏は『東京書籍A』で〈これを「強制集団死」とよぶことがある〉という注が前回の訂正申請で認められたのは改善部分であるとして、これを他の教科書も取り入れたらどうか、と提案していた。軍による「強制」を示す記述を復活させるという従来の要求からすれば、後退している感は否めない。ただ、実際にはそれすらも簡単ではなく、昨年認めた「強制集団死」を今年は認めないとなると文科省は困るので、教科書会社に再度の訂正申請を出させないように文科省からの働きかけがなされているのではないか、とも石山氏は話していた。
 昨年の9・29県民大会で示された沖縄県民の怒りには、政府・文部科学省も対応せざるを得なかった。しかし、一年経った今、運動の停滞が指摘されている。それを見越して文科省も教科書会社も再度の訂正申請を抑え込もうとしている。県民大会への参加者はもとより、今でも多くの県民が教科書検定に不満を持ち、動向を注視していると思うのだが、執筆者を支えて後押しする運動を作り出すまでにはいたっていない。県民大会で大衆のエネルギーを噴出させた後に、実務レベルでいかに成果を形にしていくかというのはいつも沖縄に問われている課題だ。沖縄からもっと声をあげ、行動を起こしていかなければならない。大江・岩波沖縄戦裁判で勝利することが重要であることも言うまでもない。
 そもそもは、沖縄の歴史であるにもかかわらず、沖縄の研究者は関与できず、すべて東京で書かれ、決められるという仕組み自体がおかしいのだ。そのことに沖縄から異議を唱え、ひっくり返すことが問われている。問題はたんに「検定意見の撤回」や「強制記述の復活」にとどまらない。

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2 コメント

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声をあげ続ける (やんばるっ子)
2008-10-04 23:06:06
当事者である沖縄の私たちが、粘り強く声をあげ続けることが大事ですね。
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ブックレット紹介 (目取真)
2008-10-05 05:11:23
27日の集会の全体を報告する余裕はありませんが、石山久男『教科書検定 沖縄戦「集団自決」問題から考える』(岩波ブックレットNO.734)をまだお読みでなければ、一読を薦めます。
集会で講演された石山氏の主張や吉田氏が指摘した教科書検定の問題、大江・岩波沖縄戦裁判と昨年の検定意見の関連などが分かりやすくまとめられています。
沖縄からの声や運動が弱まれば、記述復活どころか再び悪くなることもあり得ます。
9.29県民大会の実行委員長を早く決めて、政府・文部科学省への具体的な行動を起こすよう、県民として取り組みたいものです。
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