海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

文部科学省による竹富町の子どもたちへの差別

2011-10-28 20:15:41 | 教育・教科書

 八重山地区の中学校公民教科書の採択をめぐる問題で、中川正春文部科学大臣が26日の衆院文科委員会において、八重山採択地区協議会の答申とは異なる教科書を採択する意向の竹富町に対し、教科書の無償給与を認めない、という考えを示している。仮に〈無償措置を適用しない自治体が出れば、1963年の教科書無償措置法制定後初となる〉(10月26日付琉球新報)ということだ。
 この問題では、地方教育行政法と教科書無償措置法のどちらが優先するかをめぐり法の不備が指摘されている。文部科学省はそのことを放置してきた自らの責任は棚に上げ、「義務教育は、これを無償とする」という憲法26条をもないがしろにして、竹富町の子どもたちには教科書を無償で与えないとしている。9月8日に沖縄県教委の指導のもとに開かれた3市町教育委員全員協議では、公民教科書に東京書籍が選定されている。竹富町教育委員会はそれに基づいて東京書籍版を採択しているのである。文科省の方針は、八重山採択地区協議会の〈答申〉を過大に評価し、法の下の平等を犯して竹富町の子どもたちを差別するものであり、けっして許されない。

 教科書を使って授業を行うのは現場の教師であり、それを使って学ぶのは生徒たちである。本来なら、教科書採択で最も重視され、尊重されるべきは、実際に教科書を使う者たちの意見である。それがあまりにもないがしろにされている。
 以前にも書いたことだが、「平成24年度使用中学校教科用図書八重山採択地区協議会会議録」という文書を読むと、社会科の3名の調査員(教師)は、地理・歴史・公民の3分野の教科書について〈6月末から8月までに9回も会議をし、1回ごとに4時間も費やして〉帝国書院と東京書籍の2社の教科書を推薦している。採択地区協議会で司会をしている玉津会長も、長時間を費やして検討している調査員に〈本当に頑張っていると思います〉との感想を述べている。
 ところが、採決では調査員が推薦せず、多くのマイナス面を指摘した育鵬社の教科書が、8票のうち5票を得て選ばれた。問題は、採決前の協議で教科書の内容をめぐる議論が、ほとんど行われていないことだ。二人の委員が自らの選ぶ観点を述べているが、司会の玉津会長が教科書名を伏せて議論するように指示したため、どの教科書を評価したのかは曖昧にされている。個々の教科書を具体的に検討し、内容の良否を議論するという当たり前の作業がなされないまま、採決されているのである。
 社会科公民分野を見る限り、八重山採択地区協議会の〈答申〉は、まさに協議なき〈答申〉としか言いようがない。調査員は時間かけて各教科書を比較検討し、帝国書院と東京書籍の2社を推薦している。協議会がそれとは別の教科書を選ぶというのなら、その理由が具体的に明らかとなるよう議論するのが、協議会に参加している各委員の役割のはずだ。特に育鵬社の教科書を推した委員には、積極的に議論をつくる義務がある。
 しかし、採決で育鵬社に票を投じたはずの玉津会長や崎原副会長は、自らが推す公民教科書について何の発言もしていない。育鵬社の教科書は元より、他の教科書も具体的に内容を論じる委員はなく、職務怠慢としか言いようがない対応によって、玉津会長が〈本当に頑張っていると思います〉と評価した調査員の努力は、あっさりと踏みにじられているのである。

 このようなやり方で出された八重山採択地区協議会の育鵬社という〈答申〉に、どれだけの有効性があるだろうか。実際に教科書を使う現場の教師や生徒たちは、それで納得できるだろうか。生徒の保護者や地域住民はどうか。教科書の内容について議論もしないで、これに決めたから使え、というだけなら、八重山採択地区協議会の各委員は、公民教科書の選定で職責を果たしたとはとても言えない。
 文部科学省が採択地区協議会の〈答申〉にそれほど重きを置くというのなら、その〈答申〉がどのようにして出されたのか、協議会の内実が検証されなければならない。「会議録」(議事録)の情報公開がなされ、協議会の〈答申〉がどれだけの正当性と説得力を持つものであるかが、市民に示されるべきだ。法令の形式的な解釈だけですまされる問題ではない。ちゃんとした議論もなく出された〈答申〉を根拠に竹富町が無償対象外となり、文部科学省によって竹富町の子どもたちが差別されるなら、これほどでたらめなことはない。

 


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