海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

重い問い

2008-05-11 23:45:05 | 「集団自決」(強制集団死)
 4月26日に書いた「News23」の特集についての続きである。
 番組の中では宮平春子さんの証言も取り上げられていた。兄の故・宮里盛秀さんが、軍の命令で玉砕しないといけない、と言うのを聞いたというもので、新聞やテレビでこれまでも紹介されてきたものである。それ以外に、春子さんの証言で強く印象に残る場面があった。宮城晴美著『母の遺したもの』について語った場面だ。
 「あんな嘘ばっかり書いてる本、読みたくもない」。
 激しい口調で批判する春子さんの姿から、『母の遺したもの』に対する怒りが伝わってきた。
 同番組では宮城晴美さんへのインタビューも行われていた。『母の遺したもの』が自らの意志に反して、大江・岩波沖縄戦裁判で原告側に利用されたことや、春子さんの新しい証言を受けて書き直し、新版を発行したことなどが紹介されていた。裁判が起こって以降の宮城さんの苦悩の深さが伺えた。
 『母の遺したもの』旧版では、宮城さんの母・初枝さんの証言をもとに、梅澤元隊長の命令が否定され、宮里盛秀さんが住民を「集団自決」に導いたかのように書かれている。番組の中で宮平春子さんが同書に示した怒りは、彼女たち宮里盛秀さんの家族が、同書によって大きな苦しみを味わってきたことを示しているだろう。
 もし、大江・岩波沖縄戦裁判が提訴されず、教科書検定問題が起こらなかったら、宮平春子さんの証言は埋もれたままになっていた可能性が大きいのではないか。そうなっていたら、宮城晴美さんが『母の遺したもの』を書き直して新版を出すこともなかっただろう。
 そのことを考えるとき、沖縄戦の記録と検証、研究のあり方について、大きく重い問いが突きつけられているのを感じる。言うまでもなく、これは沖縄戦研究者だけでなく、沖縄戦の記憶と記録を自分の問題として考え、継承しようとする者すべてに突きつけられている問いだろう。沖縄戦について学び、考えるときに、その問いを絶えず自分の中に持ち続けねばと思っている。

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