海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

戦争がもたらすもの

2010-08-02 19:37:38 | 米軍・自衛隊・基地問題
 7月31日付琉球新報に〈米陸軍/自殺増加で報告書/9年の戦闘で兵士疲弊〉という見出しで、共同通信配信の記事が載っている。

〈【ワシントン共同】米陸軍は29日、記録的に増加する兵士の自殺に関する調査報告書を発表した。背景にアフガニスタンとイラクでの9年間の戦闘による兵士の疲弊や部隊内の規律の乱れがあり、多くの司令官が戦闘力維持のため問題を先送りした可能性を指摘した。
 報告書によると、陸軍における自殺は2004年以来増え続け、09年度(08年10月~09年9月)の自殺者は過去最悪の160人。過度の飲酒、薬物摂取などの危険行為が原因の死者は146人。自殺や事故死が戦闘による死者よりも多く「われわれ自身が敵よりも危険な存在となった」と記述した。自殺未遂は1713件。
 05年度から09年度の統計では、自殺者の約29%に飲酒か薬物使用の記録があり、約25%が何らかの犯罪行為への関与を捜査されていた。犯罪行為が見逃されているケースが多いとも記述。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断を受けた自殺者は約9%だった。自殺の約80%が米国内で発生した〉

 長期化する戦争で兵士が疲弊し、酒や薬物におぼれ、自殺や事故死、精神疾患が増加する。ベトナム戦争末期の状況を思い起こさせる記事である。はたしてこれは陸軍だけで起こっていることだろうか。海兵隊でも同様の事態が起こっているのではないか。米軍兵士の精神的荒廃による規律の乱れは、犯罪の多発に結びつく。沖縄でも読谷や辺野古のひき逃げ事件をはじめ米兵の犯罪が後を絶たない。県内における米兵の事件の増加や凶悪犯罪の発生などが気になり、注意を要する記事だ。

 ブッシュ大統領が仕掛けたアフガニスタンとイラクへの侵略戦争はオバマ大統領に引き継がれ、住民をも標的にした殺戮が続いている。沖縄もそれに深く関わってきたことを月刊誌『自然と人間』8月号に掲載されたジャーナリスト・志葉玲氏の〈イラク戦争を担う沖縄米軍〉が伝えている。

〈…ファールジャが直面した最大の危機、2004年4月と同年11月に行われた米軍による大規模攻撃での中心部隊は、沖縄のキャンプ・ハンセンに拠点を置く、第31海兵遠征部隊だったのだ。
 この攻撃による被害は死者7000人、行方不明3000人。胸に幼子を抱き逃げ惑う母親や白旗を掲げた少年、救急車まで攻撃された。文字通りの無差別虐殺だった。
 攻撃直前で辛くもファルージャを脱出したワセック氏は生き延びたものの、攻撃後、ファルージャに戻り、遺体を回収・埋葬した時の強烈な腐敗臭は、今も彼の記憶に染み付いている。夥しい数のウジに表面を覆われた遺体、野犬に食い荒らされた遺体、そして高温で焼き尽くされ炭のようになった遺体…ワセック氏は遺体回収から1ヵ月ほど、ろくに飲み食いすることや、眠ることもできず、ただ何千回と体を洗い続けたという〉(11ページ)。

 志葉氏の文章は、イラク・ファルージャから沖縄を訪れたワセック・ジャシム氏が、4月25日に読谷村で開かれた県民大会に参加したときのことを報告した記事の一節である。ファルージャ攻撃の主力が在沖米軍であったことはこれまでも指摘されてきた。沖縄の基地で訓練し、鍛え上げられた米兵がイラクやアフガニスタンで殺戮をくり返す。その揚げ句、自らも精神を荒廃させ、酒や薬物に溺れ、自殺に追い込まれる者も出てくる。そして、基地の周辺に住む沖縄の住民は日々、爆音被害や墜落の恐怖、流弾事故、米兵の犯罪に苦しめられる。
 戦争によって殺され、精神的に荒廃し、軍事基地の被害に苦しんでいる民衆や下級兵士がいる一方で、利益を得る軍需産業や政治家、官僚、地域ボスなどがいる。〈日本や東アジアの平和と安全〉だの〈抑止力〉だのといったところで、日々苦しめられ、殺される側にいる者からすれば、自分たちの犠牲の上に成り立つきれい事にすぎない。在沖米海兵隊がイラクのファルージャで住民を虐殺したのは、何を〈抑止〉するためか。今日から臨時国会が始まっているが、在沖米海兵隊の実態を無視した空疎な議論はいい加減にしてほしい。



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