海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

地域社会滅びて軍栄える

2011-11-07 21:12:15 | 米軍・自衛隊・基地問題

 11月4日付県内紙に「県立高校編成整備計画素案」が載っている。沖縄島北部地区では以下のような計画が示されている。

  北部地区の統廃合には4校が関わる。辺土名高は名護高の分校とし、理数科を1学級設置する。北山高の理数科を名護高に設置替えし、名護高の理数科を2学級(辺土名高分校合わせて3学級)とする。北山高と本部高を統合し、本部高は廃校、北山高は普通科4学級とする(11月4日付琉球新報)。

 4高校の関係者はもとより、この記事にショックを受けた北部住民は多いだろう。地域から学校が消えることの意味はきわめて大きい。ただでさえ交通の便が悪い北部地域で、遠距離通学を強いられることになる生徒や家庭の負担も増す。たとえ小規模校であっても存続させる方向で県教育庁は努力すべきだ。
 私が北山高校に通っていた1970年代後半、普通科2、商業科2、家政科2の1学年6クラスだった。20年後の90年代半ばに、臨任で理数科1期生のクラス担任をやったときには、普通科2、理数科2の1学年4クラスに変わっていた。当時から理数科は定員割れをしていたが、その後、理数科は1クラスとなり、北山高校のクラス数は私が在学していた頃の半分となった。

 今帰仁村では8年前に4中学校が一つに統合されている。生徒数が減少し小・中学校、高校の統廃合が進んでいるのは、今帰仁村だけでなく北部地区全体の問題だ。過疎化と少子高齢化が進み、地域から子どもの声が消えていこうとしている。今帰仁に住む母が、以前は隣近所で高校の合格祝いを何名もあげていたのに、最近はあげる家がない、と話していて、その深刻さを実感したこともある。8月に出された県の人口推計で、沖縄の人口が140万人を超し増加の一途と言われても、北部とは無縁の話のようだ。
 南北に長い沖縄島で、那覇を中心とした中南部は、全国有数の人口過密地域となっている。政治・経済だけでなく文化面でも那覇とその近郊に施設が集中し、10年以上も「北部振興」が打ち上げられながら、沖縄の中で南北の格差はむしろ広がっているようにさえ見える。

 現在、辺野古新基地建設誘致(推進)派が、基地受け入れと北部振興はリンクしていると打ち出し、積極的に宣伝している。なりふりかまわないその姿に、”焦り”を指摘する声もある。名護市長選挙や名護市議会選挙で敗北し、仲井真知事も「県外移設」に変わり、米議会でも辺野古計画見直しの主張が出る中で、誘致(推進)派に”焦り”があるのは確かだろう。
 だが、同時に今の北部の状況を分析して、どこをどう攻めれば一番有効かということを誘致(推進)派は考えている。そして、政府の閣僚や民主党の前原政調会長をはじめとした超党派の国会議員と表や裏で話し合いを持ち、辺野古や北部地域から「移設」受け入れの声を広げていこうと、巻き返しに力を入れている。その動きを侮ることはできない。政府のアメとムチの政策に沖縄では多くの批判がなされてきた。しかし、過疎化や経済状況の悪化が進めば、悪いと分かっていてもアメにすがろう、という動きが出てくる。政府にはそこが付け入る隙となる。

 TPP(環太平洋連携協定)の問題が連日メディアを賑わしている。与那国島が先例を示しているように、沖縄の農林水産業が打撃を受け、北部や離島地域の過疎化、窮乏化がさらに進めば、米軍・自衛隊の基地を受け入れさせる条件が整うという副次効果を、日本政府は計算しているだろう。
 普天間基地「移設」の日米合意とTPP参加を野田内閣は同時に進めている。日本政府が米国への隷従を深めるとき、そのとばっちりを最も受けるのが沖縄である。農林水産業が打撃を受けて衰退し、北部の地域経済が悪化した隙をついて基地の集中化が進められる。そうなれば北部は、地域社会滅びて軍栄える、という状況になりかねない。野田内閣が進める日米合意強行、TPP参加に強く反対する。

 


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ジョン・ミッチェルさんの報... | トップ | 案内:教科書問題を考える学... »
最新の画像もっと見る

米軍・自衛隊・基地問題」カテゴリの最新記事