海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

『誇りある沖縄へ』を読む 1

2008-07-28 23:55:59 | ゴーマニズム批判
 沖縄では6月23日の沖縄戦慰霊の日の朝刊に、各出版社が出している沖縄戦関連の本の広告や紹介が出る。いわゆる「県産本」から他府県の出版社のものまで、かなりの冊数の本が載るのだが、今年は小林よしのり企画編著『誇りある沖縄へ』もその中にあった。
 当日は北部の慰霊の塔を何カ所か回ったあと、夕方、本屋に行って立ち読みしたのだが、余りの内容のくだらなさに1,050円払うのが馬鹿らしくなって、買わずにおいた。そのあと、批判するためにもちゃんと読んでおく必要があるか、と思い購入したのだが、所用が重なったり他に読みたい本が多すぎたりして、この間やっと読むことができた。いやはやまったく、夜郎自大もここまで来ると幸せだろう。
 それにしてもよっぽどストレスが溜まっていたのだろうな。十二時間もよく空疎な座談会をやったものだと思うが、沖縄の反応が当初の予想とは大きく違っているという小林の焦りが、暴言を吐き散らしているその態度から伝わってくる。
 実際、沖縄講演会から3年が経とうとしている今、座談会を開いても集まった沖縄人がこの面々なのだ。沖縄の知識人からまったくと言っていいほど相手にされず、ただひとり沖縄大学教授の宮城能彦が相手をしているのだが、発言を読んでいると「類は友を呼ぶ」ということわざを思い出させる。他の高里洋介、砥板芳行、匿名Aという面々も、二人に引きずられて思いつきを口にしているだけの人物たちなのだ。
 このような座談会の顔ぶれを見るだけでも、小林が沖縄でどのように評価されているかが分かる。その孤立感の故なのだろう、「全体主義の島・沖縄」「異論を許さない沖縄」ということがやたら強調される。沖縄には言論の自由がなく、本当は小林に共感するものが多いのだが、それを口にすると社会から排除されるので、みんな黙っている。沖縄を北朝鮮や中国になぞらえて、あたかも小林が言論抑圧の被害を受けてきたかのように宣伝している。しかし、本書にはこういう発言がある。

〈砥板 ……今の沖縄には、何の政治団体にも所属せずに日常生活を送っている若者たちの意見を反映する場所が、どこにもないんですよ。ただ、そんなに孤独ではありませんよ。僕らの仲間うちでは小林さんの話をふつうにしますし。
小林 それは石垣と沖縄の違い?
砥板 本島でもそうです。青年会議所の仕事では沖縄本島の連中と一緒になりますが、みんな同じですよ。だから、これまでもみなさんのお話をうかがっていると、われわれ庶民の世界の話とまったく違う世界の話にしか聞こえないんです〉(32ページ)。

〈宮城 ……私たちは相当な覚悟で『わしズム』の座談会に出席して、何かあるんじゃないかという不安半分、期待半分で身構えていたんだけど、びっくりするぐらい何の反応もなかった。もうちょっと嫌がらせや意地悪をしてほしいくらいですよ〉(36ページ)。

 こういう発言を見れば、小林が吹聴している「全体主義の島・沖縄」や「異論を許さない沖縄」というのが、沖縄の現実を歪めた政治宣伝でしかないのがよく分かるだろう。いったい小林の講演会が妨害を受けて開けなかったとでもいうのか。本だって書店であたりまえのように売られているはずだ。一番の協力者である宮城教授にしても、〈もうちょっと嫌がらせや意地悪をしてほしいくらいですよ〉と発言しているくらいなのだ。
 実際には何の言論抑圧もなければ、嫌がらせも受けていないのに、さも大変な被害・圧力を受けながら沖縄への発言をしているかのように装おう。「全体主義の島・沖縄」なるものは、小林が自分の漫画や本を売るための「商品擬装」でしかない。だいたいが東京に住んでいて沖縄のことを好き勝手に書いてるだけのくせして、何の被害があるというのだ。いい加減、本を売るために「被害者」を装う卑怯な手法はやめたらどうなのだ、この恥知らずが。
 小林や宮城が沖縄でまともに相手にされないのは、その発言内容がお粗末すぎて、説得力を持たないという、それだけのことだ。

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1 コメント

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Unknown (かむじゃたん)
2008-07-29 09:16:16
沖縄大学、なぜ、こんなになったのだろう。
なんか、この数年、「文化論」に傾斜している。
宮城能彦!!!
新崎さんや桜井さん、ニコニコして笑って
無視しているだけじゃだめだろうと思う。
批判に値しないが、批判しないと彼ら、
自分たちが受け入れられていると思ってしまう。
でも、さすがに購入する気はない。
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