180411 雨がなくても山崩れ? <大分山崩れ 大雨ないのになぜ 大量土砂、救助阻む>
ちょっと気になる記事があったので、ユマニチュードを書こうと思いつつ、ついこのテーマに気持ちが移ってしまいました。
毎日記事<大分山崩れ大雨ないのになぜ 大量土砂、救助阻む>と、耶馬溪での山崩れによる家屋崩壊と行方不明者を報じていました。
<「大雨が降ったわけでもないのになぜ」>です。
<静かな山間部の集落を突然、大量の土砂がのみ込んだ。大分県中津市耶馬渓(やばけい)町金吉(かなよし)で11日未明に起きた土砂崩れは幅約200メートルに及び、男女6人が不明となった。近く結婚を控えていた21歳の女性も巻き込まれたとみられる。>
なお、NHKでは<大分 中津 耶馬溪町で山崩れ 6人の安否不明>の中で、<大分地方気象台によりますと、土砂崩れがあった中津市耶馬溪町のアメダスの観測点では、10日夜から11日朝6時までの24時間で0.5ミリ以上の雨は観測していないということです。>と降雨量ゼロといってよい気象条件であったことが示されています。
この点について、専門家の解説を西日本新聞記事<降雨ないのになぜ 地下水、地盤風化も影響か 大分・耶馬渓の土砂崩れ>では
<本社ヘリで上空から現場を見た福岡大の村上哲教授(防災地盤工学)は、崩れた山の斜面に水が湧き出ていたり、水が流れたりしていることに注目。「山がため込んだ地下水のため、土砂崩れが起きたのではないか」と話す。>
また、<地元の建設会社幹部(41)によると、現場周辺は水がたまりやすく地盤が緩いことが、地元の建設関係者の間で知られていた。村上教授はさらに、現場付近は山頂が平らで、水がたまりやすい崩積土(ほうせきど)の斜面だと分析。急斜面のため崩れやすく、岩盤との境に沿って滑り落ちたとみられるという。>
そのほか<九州大大学院の三谷泰浩教授(地盤工学)は現場が溶岩台地で、川に沿って風化した山の斜面が浸食される「耶馬渓特有の現象」と分析。垂直方向に地盤の割れ目があり、その割れ目に沿うように、まず地盤が滑り落ちたと考えられるという。崩落地点のさらに上部には亀裂も確認されている。三谷教授は「雨が降ったり、崩れた土砂を除去したりすれば、さらに崩れる恐れもある。>と3つの視点が掲載されています。
<九州大学大学院の三谷泰浩教授(岩盤工学)は「調査してみないとわからないが、むき出した岩盤が風化した可能性がある」と分析した。
三谷教授によると、現場付近は過去の火山活動によって地盤の下部に安山岩、上部に溶結凝灰(ようけつぎょうかい)岩が形成された地域。溶結凝灰岩は亀裂が入りやすい傾向があるといい「雨や地震、長年の風化など、何らかの原因で亀裂が拡大し、安山岩と接する部分を滑り面にして崩れた可能性がある」と指摘する。>
さて、いずれも十分な調査を踏まえた上での見解と言うより、一般的な当該地域の地質や崩壊状況からの説明かと思われます。とはいえ、専門家の判断としていくつか傾聴に値すると思っています。
ご承知の通り耶馬溪は(ウィキペディアを引用)<新生代第四紀の火山活動による凝灰岩や凝灰角礫岩、熔岩からなる台地の侵食によってできた奇岩の連なる絶景である。凝灰岩や凝灰角礫岩の山には風食作用や河川の洗掘作用によってできた洞窟も多い。>場所で、<日本三大奇勝として知られ、日本新三景に選定され、名勝に指定されている。>わけですね。
Google Earthで現地を見ますと、まさに溶岩台地ですね。そこに金吉川が台地の裾を侵食するように蛇行して流れています。
溶岩台地であるうえ、三谷教授が指摘されているように、<現場付近は過去の火山活動によって地盤の下部に安山岩、上部に溶結凝灰(ようけつぎょうかい)岩が形成された地域>という地質構造であるなら、風化、亀裂が拡大していてもおかしくはないでしょうね。
毎日の記事にある山崩れの写真を見ると、途中で山塊崩落があったかのように垂直の壁ができているところがあります。それが凝灰岩などが風化して垂直の亀裂線が入りまではわかるのですが、安山岩との接する部分を滑り面にしてすべった、崩れたというのがあのじょうたいなのか、素人的にはわかりにくように思うのです。
ここの地形や樹林相をみて気づいた点があります。まず、金吉川の流れがここの場所(梶ヶ原)のところで90度に鋭角に曲がっています。この河川では一番の曲がり具合です。とても鋭角な印象です。それが背後の山体の地形・地質に影響するのかはわかりませんが、気になる点です。
もう一つ、風化の岩盤が浸食された可能性を指摘されていますが、崩壊前のGoogle Earthの写真では、住宅の背後は広葉樹が大きく盛り上がり、その上部や両側には針葉樹が林立しています。いずれにしても岩盤が雨風にさらされている状況であったとは思えないのです。
この写真で、林相が割合、鮮明に分かれていて、その広葉樹付近を中心に崩れ、その結果、上部の針葉樹が引っ張られて、地盤とともに崩れたという印象を受けます。
ではなぜ広葉樹やその地盤が崩れたのか、それは今後の調査に待たないといけませんが、なぜ広葉樹だったのかとも関係するかもしれません。写真からは相当大きな広葉樹の巨木が林立しているように見えますが、これもはっきりしません。
で、ストリートビューで、崩落前の住宅群を見て気づいたのは、その裏手に防護柵のような設備があります。しかもまだ新しい印象です。仮に土砂崩壊防止のための防護柵だったとしたら、その必要性をどのような調査で判断し、その防護柵程度で良いとしたかが検討されて良いかと思います。
上記のNHK記事では<国土交通省によりますと、土砂崩れがあった現場付近は、去年3月に大分県が土砂災害防止法に基づいて「土砂災害警戒区域」に指定していたということです。土砂災害警戒区域に指定されると、市町村は、避難場所や避難経路をあらかじめ検討し、地域防災計画に記載することが義務付けられます。
さらに、山の斜面の部分と一部の住宅の敷地は、斜面が崩壊した際に建物に被害が出て住民に大きな危険が及ぶおそれがあるとして、「土砂災害特別警戒区域」に指定されていました。>となっています。
「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」の指定に当たっては、一定の地質調査を行っており、その調査報告も参考になるでしょう。ただ、大分県の<大分県土砂災害危険箇所情報インターネット提供システム>では、私のPCの機嫌が悪いのか、うまく作動してくれず、その箇所特定が出てきませんでした。
ところで、前記西日本新聞記事では、<地元住民によると、数日前から山に異変があったという。土砂崩れに巻き込まれた男性が数日前から「裏山から石が落ちてくる」と話していたという。山が2、3日前から「ゴー」と地鳴りがしていたとの証言もある。>ということで、前兆があった可能性もうかがえます。
こういった「土砂災害警戒区域」の指定では、住民からの前兆の情報を収集するよう事前説明をしっかり行い、センサーなどで定期的に観測する体制を整える必要があることも検討して良いのではと思うのです。
私の所感は、なぜ金吉川が直角に曲がっているのか、林相が異質な箇所で崩落が起こっている、「土砂災害警戒区域」等の指定や防護柵が設置されていたとすると、大雨以外にも崩落の危険性を告知できていたかなど、気になっています。
というのは、溶岩台地などでは、雨水が山体から湧き水などになって出ていないと、思わぬところにたまってしまい、崩落の原因になると考えるからです。防護柵とともに、水抜き装置が必要だった可能性も検討されて良いかと思うのです。
たしか昨年は朝倉町の予期せぬ異常な豪雨に伴う斜面崩壊などでしたが、今度は雨のない斜面崩壊ですね。林地管理のあり方としても勉強したいと思います。