岩坪五郎は、1933年に京都で生まれた。
森林生態学者であるが、山岳登山家としても有名である。
京都大学学士山岳会のメンバーとして数々の山岳登山に参加し、1960年にはアフガニスタンの最高峰であるノシャック(7490m)の初登頂に成功している。
生態学者および登山家としてこよなく自然を愛し、野山に親しみ、研究活動を通じて森林が果たしている機能を明らかにしてきた。
とくに、森林へ流入する水(降雨など)と森林から流出する水(河川など)との間でどのような水質の違いがあるのかを調査し、森林がもつ浄化機能に関わる先駆的な研究を行ったことで国際的に知られている。
その研究足跡は、亜寒帯である北海道から、亜熱帯であるタイ国まで広がっている。
注目すべき研究成果としては、降雨や土壌などの環境条件が同じ森林を比較した場合に、植林後5年から10年といった若い森林地帯から流出してくる水より、100年を超える老木が繁茂する古い森林地帯から流出してくる水の方が、窒素濃度(主に硝酸態窒素濃度)が高いことを示した。
すなわち、成長段階にある若い樹木はより多くの栄養塩を吸収するが、成長を終えた古い樹木はあまり栄養を必要としないということを意味している。
このことを、岩坪は「年寄りの屁は臭い」と、軽妙な喩えで表現している。老木には老木の役割があるということなのだろう。
京都大学を退職し80歳を超えた現在でも、認定特定非営利活動法人びわこトラストの副理事長として、森林からびわ湖までの統合的な管理の重要性を説いている。
特に、樹齢300年超のトチノキの巨木を、営利のみを目的とした伐採から守ろうと積極的な活動を行っている。
過去の学術的業績に満足するだけでなく、実践を旨として活躍してきた古武士的な存在として、いまでもなお社会への貢献を行っている。