ジョン・ケリー米国国務長官が、IPCC第一グループの報告に対して、「IPCCの報告を読んで分かることは、気候変動は本当であり、いま現実に起こっているということだ。この変化の原因は人間にあり、人間の行動によってのみ最悪の影響から世界を救うことができる」とコメントしている。IPCC第一グループによって提出された出版物の公表は2013年7月だったが、それ以来、いくつかの重要な報告がもたらされている。世界中の海に投下されている3500個のArgoブイの計測結果によれば、海表面および大気の温度はここ18年間でほぼ横ばいだが、エネルギーは持続的に海中に蓄積されており、近い将来、海から大気中に放出される可能性がある。
欧州宇宙機関(ESA)の地球観測衛星CrySat-2による最新のデータでは、過去3年でグリーンランドと南極における氷の融解の速度が2倍になったらしい。専門家によれば、西南極の氷床の融解は今や復元不能になっており、数百年以内に海水面は1から2m上昇するだろうと結論づけている。
学術的な解析結果と現実の影響評価および関連した判断を総合して、国連の枠組み会議に参加している国々は、気候変動による危険レベルの設定を行った。それによると、平均気温の上昇は、産業革命以前の気温から2℃高い範囲内に留めるということになっている。現在、平均気温は0.8℃上昇しており、そのうちの3分の2が1980年以降に上昇した。2℃という安全基準を維持するためには、2050年までに二酸化炭素の排出量を現在のレベルの50%まで削減し、その後、ゼロにする必要がある。このことはこれまでに発見されている化石燃料の75%を採掘しないで地中に留めることを意味している。それらは経済的には価値のないものとなるだろう。
システムを安定に保つことが出来る気温は、二酸化炭素の排出速度ではなく、我々が大気中に排出する全炭素量によって決定される。したがって二酸化炭素の排出量を削減することが、必ずしも気温を下げることを意味するものではない。それは2℃の気温上昇を抑制することに過ぎない。気温は、長い間現在のレベルを保つだろう。なぜならば、排出された二酸化炭素は数百年から数千年にわたって大気中に留まるからである。
このことは、我々が燃焼できる全炭素の上限値を与える。IPCCの計算によれば、それは炭素量にして800ギガトンである。我々はすでに530ギガトンの炭素を大気中に放出した。あと270ギガトン残っているに過ぎない。現在の排出量は、年間10ギガトンであるので、27年で上限に達する。その後は、排出量をゼロにしなければならないのだ。
もし我々が来年から二酸化炭素の削減に取り掛かり、総量で800ギガトンを超過しないようにできるならば、大気中の二酸化炭素濃度は450ppmに保たれるだろう。気温が安定するにはさらに時間がかかるが、それは二酸化炭素濃度に依存しているので、やがては産業革命以前の気温より2℃高い範囲内に落ち着くだろう。一方、海洋は暖かくなり、海氷は溶け続け、海面は上昇するだろう。それには数百年かかるのだろうが、地球上で確認された過去の温暖化の事例からもわかるように、水位はやがて現在よりも2から3m上昇して安定するだろう。
もし排出量の削減に手間取るならば、800ギガトンの全炭素量限界を超えないためには、もっと速く排出量を削減しなければならなくなる。計算によると、あと5年後、2020年まで放置すると、2℃以内の気温上昇に保つためにはその後年間6%のオーダーで持続的な削減をする必要がある。6%というのはそんなに大きくないように思わるが、年間1%以上の二酸化炭素排出量の削減は、過去においては経済不況や混乱時に起こったのみである。1970年代から1980年代にかけての英国における石炭からガスへの移行や、フランスにおける原子力への移行時に、年1%の削減が達成されている。一時的に5%削減されたのは、ソ連が崩壊した時に記録がある。日本は最近、福島第一原発事故の後、国民的な取り組みによって15%の排出量削減を達成した。
年間6%の削減は、全球的に実施されなければならない。先進国は、開発途上国の経済成長率を勘案する必要があるので、はるかに速い割合で削減を行わなければならない。このことは、必要な削減を行うためには、地球規模での協力が必要であることを物語っている。