この数週間の社会状況をみていると思い出す本があります。
ギュスターヴ・ル・ボン著の『群集心理』です。
著者は19世紀末のフランスの社会心理学者で、心理学の視点に立って群集の心理を解明しようとした人物です。
この本は未熟な精神に伴う群集の非合理的な行動に警告を発したものです。
ル・ボンは19世紀中期に生まれ20世紀初頭まで活躍していた人物ですが、彼の警告はIT革命によって情報が拡散しやすい現代のほうにより当てはまる部分が多いように感じています。
著者の群集を批判する言葉はあまりに直接的でここに記すことは憚れるので興味のある人は直接著書を参照していただきたいと思いますが、人間の合理性というものはそれほど信頼できるものではないというル・ボンの人間観がその根底にあります。
群集は皆が同じような行動をするものであり、それが何よりも未熟な精神の表れであるということです。
つい他人に同調してしまう行動をとっているとき、その人の正常な考え方は失われ、群集の中の一人として社会の秩序を破壊するような危険な行動へと突き進むことを警告しています。
つまり群集の中の個人は暗示を受けやすく、本能のままに行動してしまうということです。
毎日変化するSNS・マスコミの情報にとらわれ、マスクやトイレットペーパーを争って買い求める人々の姿を見るたびにル・ボンの警告を思い出します。
今回のことにかかわらず、自分の考え方を意識することなく集団に流されるままに他人と同じような行動をしていないかどうかを見つめ直すためにル・ボンの『群集心理』はお勧めです。
竹村知洋