私にとって座右の書が『バガヴァッド・ギーター』だとすれば、『虚無の構造』は座左の書といえます。
内容は大変難しいですが一言でいえば、虚しさにとらわれずに活き活きとした人生を送るためにどういう考え方を持って生きればよいか、を教えてくれる本です。
人生の意味という重いものでなくても、人は誰でも「つまらないな」とか「かったるいな」と感じる時があると思いますが、そんなとき人はすでに虚無(ニヒリズム)にとらわれています。
虚無にとらわれた人は、この世に真実などないという懐疑主義に陥り、他者とコミュニケーションもとらないエゴイストになります。
いつも他人に対する文句や社会への不平・不満を口にするだけで、自分からは何も行動しようとしない人は立派な虚無主義者(ニヒリスト)です。
ニヒリストは生きながら腐っているという状態で、社会に対して何か貢献することもありません。
特に今の日本は大変豊かな国であり、色々なことがあるとしても単に生きていくことだけであれば、それほど難しいことではありません。
世界的な長寿を誇る国でもあり平均寿命は大変長いですが、ただ長生きするだけであるとしたらその人生にどれほどの意味があるのか、ということを考えさせてくれます。
生命が大切なことは当然ですが、生命そのものがすべてにおいて最も大切な価値を持つものなのかどうか、ということです。
西部氏は生命は手段として価値を持つものであって、生きることだけでは目的にはなりえない、と主張しています。
人間と動物の違いは、生において価値判断をするか否か、にあります。
つまり「真・善・美・聖」を常に何かしらの形で追及して生きることに人間としての価値があるわけで、それを見失ってただ生きる事だけが目的になっているとしたら、もはやその人の人生は野生動物と何ら変わらないものになってしまうというわけです。
『虚無の構造』は私が学んできた哲学の真骨頂が詰め込まれた本であると確信しています。
平和な日本に生きる現代であるからこそ、人生の意味を見直して「活力ある人生」を送るために本書をお勧めします。
内容が大変難解ですので、高校の『倫理資料集』か哲学の入門書を読んでからとりかかった方がよいかもしれません。
竹村知洋