秋の気配が濃厚になってきた9月の末、中央アルプスの南端に位置する越百山(コスモヤマと読む、本当はコシモヤマらしい)から安平路山を縦走した。このルートの売りはなんと言っても「藪漕ぎ」である。「藪漕ぎ」?そうここは、背丈ほどのクマザサの海を泳ぐコースなのだ。お客さんからの情報に因ると、日本三大藪漕ぎルートのひとつなんだそうだ。文字通り藪を漕ぐ。なんでそんな事する?・・・・・・・・理由は分からない。それが人間の不可思議なところ。
伊那谷と北岳から塩見あたり
1日目、越百小屋へ泊まり、朝出発する。越百山を過ぎるといきなりハイマツは藪漕ぎみになり、南越百山から南は、いよいよ熊笹の藪となる。最初こそ未だ幾分その背丈は低いのだが、奥念丈山をこえ、松川乗越に至るとそれは背丈を超えるようになる。
しかし、ここ数年このルートへ来ていなかったとはいえ、なんか、今年は様子が違う。そう、藪がやたらと濃くて、とにかく手強いのだ。数年前のコースタイムに比べても時間が掛かる。以前は笹の海に潜るとぽっかりとトンネルのようにルートが見えたものだが、今回はたびたびその道を見失う。と言うか、ルートは笹に呑み込まれ、ただの笹藪になりつつあると感じた。もはや、ここは登山道とは呼べない環境になってしまっている。こまめな赤布などで、ルートが示されていれば、まだ、藪化を押さえる事が出来るかも知れないが、現在ここを歩いて居る人達は全員踏み跡を外して迷走しているに違いない。同じ場所を大勢が歩けばまだその踏み跡は維持できると思うのだが。
越百小屋の伊藤さんに因ると、このルートには「安平路の藪を守る会」的なものが有って、笹刈とかの手を出せないんだそうだ。しかしだ、このままでは、ここは完全に踏み跡は消失する運命にあるだろう。となると、この路を登山道として、登山地図に残すことには、非常に危険なことになる。現在多くの地図には赤の破線で、「熟達者向き」「藪深く踏み跡なし」とか書かれているが、踏み跡が殆どなくなってしまえば、廃道扱いにするしかないのではと僕は思う。もっとましな廃道はいくらでもある。
猛烈な藪
背丈を完全に超える藪を喘ぎながら行く
この日、二人のお客さんが完全にバテてしまった。もともと避難小屋泊の予定でシュラフも持っているし、天気も心配ないので添乗の荻野さんとこのお二人は安平路山の北側基部でビバークをしてもらう事になった。本体は無事避難小屋へ到達したが、本日の行動時間は12時間近くとなった。数年前は9時間ほどで到達できたのだが。藪漕ぎは正味10時間である。
もし「藪を守る会」というものがあるとしたら、その方々には少し考えて頂きたい。現在の状況では守っているのではなく放置しているとしか言えないと思う。赤布もまばらで、色んな種類があって統一されたものではないし、標識も朽ち果て殆ど読めない。赤布も看板もそんなものなくても僕はちっとも困らないが、ここをルートとして登山地図に掲載するのであれば、それにはそれなりの裏付けが必要である。現在「安平路の藪を守る会」は「安平路を廃道にする会」と同義語になっている。
避難小屋の窓に星
朝焼け
朝焼け2
雲海と南アルプス
翌朝、荻野添乗員とお客さんお二人を待って下山した。一晩休んだらお二人とも元気を取り戻してこの日は快調に歩いて頂けたので事なきを得たが、これで、天気でも悪かったらと思うとぞっとする。
サラサドウダン
最後は林道をあるいてゴールは昭和45年に集団離村した大平宿。ここはかつて飯田宿と妻籠宿を結ぶ宿場集落であった。趣のあるその十軒ほどの宿場には現在保存活動があって、宿泊も可能なのだそうだ。
昼神温泉にて入浴、笹の埃にまみれた体をさっぱりと洗う。しかし僕は着替えを持っていないという大失態に気づく。でもなんと生ビールの美味いことよ、JR飯田線羽場駅にて下車させて頂いて解散。皆さん大変お疲れ様でした。