山岳ガイド赤沼千史のブログ

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13鬼女紅葉の荒倉山と東山10月26、27日

2013年10月29日 | ツアー日記

落葉1

 鬼無里の秋は真っ盛りだった。台風27号の風雨が落とした落ち葉が足下を埋め、何処までも錦の道が続く。見上げれば紅葉、紅葉、紅葉。ここ荒倉山は紅葉の山だ。赤が黄色が橙々が、まだ染まらぬ緑に映える。この日台風が去って、日本付近は西高東低の冬型の気圧配置となった。寒気が降りてきて、日本海側に近い荒倉山は時雨れた。今年一番の寒さ。時々ぱらぱらと降る冷たい雨に、雨合羽を着込み荒倉山の最高峰砂鉢山を目指す。時々、雲が切れて鬼無里の里が見えたり、飯縄山が見えたりはするが、北アルプスを臨むことは出来ない。雲の中の北アルプスはおそらく雪が降っていることだろう。

紅葉1

紅葉2

落葉2

紅葉3

紅葉4

 

紅葉5

 ここ荒倉山は鬼女紅葉の山だ。鬼女紅葉は千年ほど前、京から流された女性だ。鬼無里の名の由来もそこに始まり、村内(現在は長野市鬼無里だが)には、西京、東京、二条、三条などの地名や伝説の場所を数多く残す。その伝説とは、こういったものだ。

以下 鬼無里観光振興会HPより引用・・・・・・・・・

鬼女紅葉
 その昔、会津の伴笹丸・菊世夫婦は第六天の魔王に祈って娘呉葉を授かりました。娘が才色備えた美しい女性に成長したとき、一家は都に上って小店を開き呉葉は紅葉と名を改めて琴の指南を始めました。
 ある日、紅葉の琴の音に足を止めた源経基公の御台所は紅葉を屋敷に召して侍女といたしました。
紅葉の美しさは経基公の目にも止まり、公は紅葉を召して夜を共にしました。
 経基公の子を宿した紅葉は公の寵愛を独り占めにしたいと思うようになり、邪法を使い御台所を呪い殺そうと計りましたが企てが露見してしまい、紅葉は捕らえられ信濃の戸隠へ流されてしまいました。
 信濃に至り、川を遡ると水無瀬という山里に出ました。「我は都の者。御台所の嫉妬で追放の憂き目にあいなった。」と語る麗人に純朴な里人は哀れみ、内裏屋敷を建てて住まわせました。
紅葉は喜び、里人が病に苦しむと占いや加持祈祷で直してあげたのでした。
 紅葉は付近の里に東京、西京、二条、三条、などの名をつけて都を偲んでいましたが、月満ちて玉のような男の子を産むと、その子を一目経基公に見せたいと思うようになり、兵を集め力づくでも都へ上ろうと考えました。
 里人には「経基公より迎えが来たので都へ戻ります」と言い置き、戸隠荒倉山の岩屋に移ると、戸隠山中の山賊を配下とし、村々を襲い軍資金を集めました。
 そのうわさが冷泉天皇の知るところとなり、天皇は平維茂に紅葉征伐を命じました。
 平維茂は山賊共を打ち破り、紅葉の岩屋へ攻め寄せますが、紅葉は妖術を使い維茂軍を道に迷わせます。
 妖術を破るには神仏の力にすがるほかないと別所温泉北向き観音に籠もり、満願の日に一振りの宝剣を授かりました。
 意気上がる維茂軍を紅葉は又もや妖術で退けようとしましたが宝剣の前に術が効きません。やむなく雲に乗って逃げようとする紅葉に、維茂は宝剣を弓につがえて放つと、紅葉の胸に刺さり、地面に落ちて息絶えました。
享年33歳と伝わります。
人々はこれより水無瀬の里を鬼のいない里・鬼無里と言うようになりました・・・・・・・・引用終わり
 
 なんとも切ない物語だ。愛する人と引き離され、都を追われた紅葉はやがて情念の女となりこの里を、人々を焼き尽くそうとした。だがこんな物語に、僕は妙にリアリティーを感じてしまう。この物語は伝説ではなくて、おそらく本当の話。そして、何世代にもわたって語り継ぐ人達の心をえぐり、心かき乱し、何とも言えない切なさを覚えさせてきた物語。おとぎ話ではない深みのある話だからこそ、僕らは感動し、人々を苦しめた鬼女でありながら、未だに愛され続けていると思うのだ。紅葉はただ、愛する人のところへ帰りたかっただけなのではないだろうか?ただその道は果てしなく遠く、激しかった。そう、己が鬼とならなければか叶えられないほど激しかったのだ。重く深い悲しみがそこにはある。
 
 宿に入ったその夜も、時雨模様は続き時々雨が降って風が強かった。あたかも紅葉が暴れ回っているかの様だった。もしかしたら明日の東山は雪になっているかもなあなどと思いつつ、やがて僕は気を失うように眠ってしまった。電気もつけっぱなしで。全く紅葉にやられてしまったのだ。

紅葉の岩屋、盗賊どもが立てこもるには十分な広さがある

謡曲「紅葉狩」の舞台はここなのだ。

紅葉稲荷 情念の赤

黄金の道

お客さんの今野さん撮影(今野さんありがとう)

 翌朝奥裾花自然園から、中西山のコルを目指す。天気は回復せず、雨は降らないまでも、風が強い。稜線ではかなり煽られそうな予感がする。気温もグッと冷え込んで、腕を組んで首をすぼめて僕らは歩いた。風が僕らの熱を奪う。なるべく汗をかかぬよう歩こう。

 美しい紅葉を撮影しようとして僕は愕然とした。朝電池を入れ替えたはずのカメラが起動しない。うんともすんとも言わない。どうも、充電済みと思って持ち歩いていた替え電池は空っぽのそれだったようだ。一気にやる気を無くしたが、ふとスマホの存在を思い出して気を取り直す。

「今日はこれでいくか!」

と言うわけでこの日の写真はスマホ版。

 稜線はやはり西からの風が、ゴウゴウ言いながら木々を揺らしていた。だが、背丈以上もあるネマガリタケに守られて、僕らの歩く道は殆ど影響なく歩くことが出来る。ネマガリタケの道は、綺麗に刈り取られていて体をそれほど濡らさずに済んだ。冬型の気圧配置は以前続いて、北アルプスは厚い雪雲に覆われていた。それでも、時折足下がパット開けて、小谷の里が見えたりすることもある。標高があがると、霧氷に飾られた稜線歩きとなる。そして・・・・・・・・・雪。はらりはらりと雪が舞い落ちる。みんなが歓声を上げる。今年一番最初の雪、初雪だ。初雪って、なんかワクワクする。みんな、そうだと思う。特に山に登って初雪が舞うとなんか得した気分になる。でしょ?

 


 

 

今野さん撮影

 東山までは、小さなピークをいくつか越えていく。一つ岩峰があって、雪でもついているとやっかいだなあと思っていたのだが、そこも問題なかった。午後には次第に高気圧に覆われてくると言う予報どおり、青空が顔を出したり、北アルプスの稜線もちらっと見えたりでかなりドラマチックだ。何より、霧氷が美しい。東山まで4時間半。充実感ある行程だった。

 じっとしていると寒いので、早々に引き返す。帰りも結構な上り下りがあるから楽では無いが、天候も回復傾向だし心には余裕がある。次第に気温が上がってきたのか、霧氷が風にたたき落とされて、バラバラと降り注ぐ。それはあたかも鬼女紅葉に悪戯されているかのようだった。

 鬼無里の湯にて入浴、「いろは堂」のオヤキを土産に、長野駅解散。

 

 

 

 

 最後に今回泊まった宿をご紹介しよう。

鬼無里   「裾花館」

いつも泊まっているところがいっぱいで、仕方なくここになったのだが、なんと大当たり。夕食は食べきれない程出てメインはこのキノコ鍋。天然キノコがこれでもかと入っている。マイタケに、あれにこれになんとかかんとか、全然解らないけど、腰を抜かすほど豪華な鍋だ。当たり前だが、キノコはいつでもあるわけではないと言うことだ。アタリの一日だったわけだ。朝食も朝弁当にしようと思っていたが、朝早くに出して頂けた。温かい食事、感謝、感謝。

 と言うわけで、お勧め。

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