山岳ガイド赤沼千史のブログ

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13戸隠西岳縦走10月3,4日

2013年10月07日 | ツアー日記

マユミ1

 今年は木の実が大豊作なのだと思う。この戸隠西岳ツアーの第1日目は戸隠連峰南端の一夜山に登る。歩く距離は登りで1時間足らずである。登山道というか、古い作業道が頂上まで続いていて上部は急ではあるが、のんびり歩けるのだ。その作業道脇に目立つ、マユミ、ツリバナ。例年に比べてやたら目立つ。大きな枝振りのツリバナに関しては、僕が生涯見たツリバナの木としては最大で、最多の実をつけているものがあった。一本の木に推定200~300個ほどの可愛らしい実がぶら下がる。鈴なりとはこのことだ。こんなのを僕は見たことが無い。若い頃には気がつかなかっただけかも知れないが、とにかく初めての事なのだ。まだ見ぬ世界というものはあるもんだなあと今更ながら驚いてしまった。翌日歩いた戸隠自然観察園でも状況は同じで、ツリバナ、マユミの数はすざまじい。

 それと、なんと言っても山葡萄。一夜山の登りで見つけた山葡萄はそれこそ鈴なりで、これに関しても史上最高であると僕は断言する。昨日歩いた馬場谷でも状況は同じ。地域を越えて、こんな風に植物は共鳴しあうかのようにシンクロし、豊かにその実をつける。何故なんだろう?気象条件だけの問題なのかなあ?十年とか二十年とかの周期で現れる特異な大豊作年なのだろうか?誰か知っているかたに教えて頂きたい。

ツリバナ1

ツリバナ2

 さてその登りに見つけた山葡萄。その山葡萄に既に僕らの心は登る時には奪われていて、一夜山の頂上に着いても気はそぞろで早々に下山して山葡萄採りに没頭したのだった。お客さんのM下さんは、そのヤンチャぶり全開で、葡萄のツルが絡みついたさして太くもない木に登って夢中でそれを採っている。危ないから降りてと言ってもおりて頂けないので放っておいた。ぼくも、同じようなもんで渾身の力を振り絞ってツルを引き収穫に没頭した。房の数も凄いが、一房の大きな事。全くならない年だってあるというのに。

 30分程葡萄の木と格闘して集めた量はなんとバケツ3杯分に達した。なんとも言えないこの充足感。人生の中で何度か訪れる超ハッピーな一日にこの日の我々は遭遇したのだ。ほおばればその濃厚な野性味が僕の口の中を支配する。解散時に三人で分けて、それぞれ家まで持ち帰った。いま、その山葡萄は僕の家のホーロー容器の中でブクブク言っている。

大豊作山葡萄

ヤンチャぶり全開

バケツ3杯もの山葡萄

オオカメノキ1(紅葉していく様には色んな表情がある、そんな変化が僕は好きだ)

  二日目まだ空けやらぬうちに戸隠奥社の参道を歩き八方睨を目指した。辺りは深い霧が立ちこめ、少し不安な朝だったが、蟻の塔渡り付近では、その霧を突破して、目指す西岳が姿を現した。塔渡りでは、見えなくても言い足下が丸見えで、今更ながら、ここはおっかないなあと思う。穂高の長谷川ピークや馬の背がいくら恐いと言ってもここより全然ましだ。お客さんには一応、ロープを張って渡って頂く。八方睨みに着く頃から、いったん沈んだ霧に稜線が呑み込まれて、以後この日は視界の無いなか、西岳を目指す。登山道は綺麗に何年か置きに行われる笹狩りがされて、ありがたいことだが、急斜面を上り下りする際の手がかりに乏しく、痛し痒しであった。

戸隠西岳

蟻の塔渡り

 

蟻の塔渡り通過

霧まとう戸隠山

 この日会った登山者はPIで出会ったカップルのみであった。ここのところ雨が降っていないので、粘土質の登山道は滑りにくく快適である。この西岳周辺は、雨の日には立ち入らないほうが懸命だ。降雨後直後も辞めた方がいい。しかも、今年のように手がかりに乏しい時はなおさらで、ハンパ無く滑るから滑落の危険性も相当高くなる。好天時のみ許される山だ。

 危険箇所では何度かロープで確保をしながらP1尾根を下山する。「無念の峰」「熊の踊り場」不穏な地名がつけられている。直ぐ近くでボコボコと何かの音がする。その正体は未だに不明だが、ここ十年ぐらい前から、頻繁に聞くようになった。それは、マウンテンゴリラが胸を叩く、ドラミングのような音と言ったら良いだろうか。低く、力強い音。一昨年の猫又山ツアーの時もこの音が頻繁にして、最終的に「ウギャーー!」という声と共に、突進され掛かった事があった。感じとしてはほんの数メートルまで詰め寄られた。だが、姿は一度も見ていない。前は熊かなあと思ったのだが、猟師に聞いても熊はそんな音は出さんと言うし、その音を聞く場所はある程度限定されていて、若しかしたらそれはイノシシなのではないかと最近は思っている。イノシシの生息域と何となく重なっている気がするのだ。この件もどなたかご存じの方がいたら、教えて頂きたいのだ。

P1尾根を下る。岩と粘土質の垂壁が多い。

オオカメノキ2

カエデ1

カエデ2

カエデ3

 激しく不安定なP1尾根も下部では穏やかな斜面となり、やがて大平の放牧場にでる。そこからいったん楠川へくだり、反対側を登り返せば鏡池にでる。もうすぐ鏡池は交通規制が張られ、シャトルバスで訪れなければいけないシーズンとなる。紅葉と共に池に映る戸隠連峰を狙って、大勢のカメラマンが訪れる事だろう。もうじき紅葉が里まで駆け下ってくる。今年の紅葉は素晴らしいと僕は予測する。暑い夏、雨も適当に降った。こういう年は大概紅葉も素晴らしいのだ。

アケボノソウ

トクサ(砥草、その名の通りこの茎は天然の紙ヤスリだ)

フッキソウ(こちらも大豊作、真珠のような美しい実)

ツリバナ3

イワガラミ

マユミ2(なぜ、こんなにも華奢な実り方をするのだろう?)

マユミ3

 戸隠神告げ温泉にて入浴、珍しく空いている「うづら屋」これは千載一遇のチャンスと蕎麦を頂く。戸隠一の大人気店。これから紅葉シーズンは長蛇の列となる事は間違いない。大人気店でありながら、接待は非常に丁寧で、その蕎麦には誠実さが溢れている。

戸隠「うづら屋」の蕎麦(戸隠の銘店である、中社前の大人気点)