当初の日程を変更して秋の紅葉大満喫コース、白馬岳から祖母谷へのツアーに出かけた。接近中の台風24号の影響だろうか、気温が高めで、白馬大雪渓の登りも、汗がじわりとにじむ。雪渓は至る所崩壊していて、右岸につけられた夏路から、杓子岳からの土砂の上を乗り越え、最終的に左岸に渡り葱平へ。雪渓自体は数メートル歩いただけで、ほぼ土の路を歩く。ここは右岸、左岸とも崩壊地の斜面を横切っていくので、雨の日などはおっかないなあと思う。大雨の時は歩かない方が無難だと思う。
途中韓国人の団体を追い抜いた。一行はかなり疲れているようだった。聞くと朝7時に猿倉を出発したとのこと。僕たちは10時30分発だから、ここまで僕らの2倍の時間を掛けて登っていることになる。おまけにみんなバラバラだ。今年7月の中央アルプスでの韓国人パーティー遭難事故を思い出す。多分こんな感じの歩き方をしていたのだろうなと思う。ひとこと、みんな一緒に行った方がいいですよと申し上げたが、はいはいと言うばかりで、その気は全くないようだった。
崩壊する大雪渓
タムシバの実
雪渓脇ではまだ春が始まったばかりだったりする はて?間に合うのだろうか
シロウマタンポポか?ミヤマタンポポと区別しないという説もある
白馬山荘では友人ガイドの計らいで特別室と言うところに泊めて頂いた。赤絨毯の廊下の奥にある角部屋で、入ると先ず控えの間があって一同腰を抜かしそうになる。ふすまを開けると格子状に細工目が施された八畳の和室。そして床の間があり、センスのよい鶏の掛け軸が飾られ、ここが山小屋なのだと言うことがにわかに理解できなくなる。窓を開ければ、劔岳、そして明日歩く清水岳方面の大展望だ。流石白馬山荘。こんな部屋があるとは。なんかそわそわして落ち着かないのだが、一生に何度もない経験をさせて頂き、BBガイドの家には足を向けて眠れない。ありがとうございました。(笑)
羽布団にくるまって快適な朝を迎え、ゆっくりご来光を堪能してから、優雅に朝食を済ませ(流石に食事は他の方々と一緒です)、スタッフの方々に丁重にお礼を申し上げて馬場谷への下山を開始する。朝から気温は高めで、ほぼ無風である。この時期、ざっくざっくと霜柱を踏みながらの清水岳までの縦走をイメージしていたのだが、そんなものはどこにも見あたらぬ朝だった。
清水岳までは、下ると言うより縦走するという感じだ。冬間近の稜線は枯れ葉が目立つが、足下に広がる斜面は錦の絨毯のようだ。清水岳から不帰岳避難小屋までの尾根の紅葉はに見事だった。どこまでも紅葉は終わらない。のんびりと下る。それにしても暑い。なんだこの暑さは?台風の接近に伴って、南から暖気が流れ込み、北陸地方がフェーン現象となっていることは容易に想像出来るのだが、冬間近の景色と肌に感じる気温との折り合いが付かず、僕の頭の中少し混乱気味だ。
冬間近
岩峰に錦
ウラシマツツジ
今年大群落を作ったコバイケイソウの咲トボリ
シェキナ、ベイビ! 内田裕也がいっぱいに僕には見える
清水尾根
ミヤマリンドウ
この日のお客さんは三名様なのだが、昨日山荘で偶然であった常連さんの斉藤さんと一緒になって、賑やかに僕らは歩いた。百貫の大下りからは急な斜面をジグザグに下ったり、斜面をトラバースする場面が多くなる。足場の悪い沢を何度も超える。直径が1メートルを越すような倒木も、トラロープを頼りに、エイヤッと越える。不帰岳避難小屋までは、快適のんびりルートだが、後半は細心の注意が必要だ。やはり雨の日は大変なルートである。
実は暑いのです
オヤマボクチ
猛暑の空に紅葉
オオカメノキ このグラデーションパターンは無限にあってついついシャッターを押してしまう。
ここ富山でも今年は山葡萄が大豊作のようだ。手の届くようなものはそうそう無いが、少しだけほおばれば、口の中に果汁がほとばしり出る。栽培品種にはない野生の味は、僕らをリフレッシュさせ、祖母谷温泉に下るための最後の力を与えてくれるかの様だった。馬場谷の沢床が近づきやがて、林道に出会う。祖母谷の源泉を過ぎると川の水は白濁し、強烈な硫黄臭が辺りに満ちていた。何故か、ミンミンゼミが鳴いている。大きな鉄橋を左に見るとその少し先に今日の宿「祖母谷温泉」がひっそりと立っていた。
猛暑の一日、8時間をかけて下って来たのだ。広々とした温泉のなんと気持ちのよい事だろう。日頃、風呂などどうでよくてシャワーで十分と思っているこの僕だが、この日露天風呂3回、内湯1回の計四回も風呂に入ってしまった。何故かは解らないのだが、ここの風呂を僕は大好きなのだと感じる。お湯の質も好き、風雨にさらされザラッとしたモルタルの感触も好きである。
最終日は欅平から黒部峡谷鉄道トロッコに乗り帰路についた。糸魚川へ停車しない特急に乗り込んでしまった間抜けな僕だが、その遅れを差し引いても大糸線への乗り継ぎは最悪に悪くて、馬場谷を朝立って我が家に帰りついたのは夕方になってしまった。すぐ裏山の温泉に浸かっていただけなのに。もしかして一人なら、再び紅葉の尾根を登り、大雪渓を下った方が早かったのかも知れないと思うのだ。近くて遠い秘湯なのであった。
斉藤さん 翌日下廊下へ登って行かれた
脱衣所のウスタビガ?ちょっと緊張して服を脱ぐ。(笑) かつて我が家の先祖はこの蛾の繭から糸をとり生業としていた