どうして欧米人は寒いのヘッチャラなのか――?
アメリカやカナダの人は私たち日本人からすると信じられないぐらい、寒さに強いということを聞いたことがあります。確かに、街で見かける欧米人達はわりかし薄着ですし、寒いということを苦にしていないように見えます。対称的に、日本人や中国人は、寒い日は背中を丸めてガタガタ震えている人が多いように見えます。
ヨーロッパでは氷を割って寒中水泳する様子がTVで放映されたりします。
人種の違いというのも確かにあるでしょうけど、それにしてもスゴイ!
人種によって寒さへの対応の仕方が異なるということ、それから、動物には寒さに強いものもいれば、暑さに強いものもいるということ、こういうことも考えてみるとおもしろいテーマだと思います。
先日、たまたま、古武術研究家の方の話を聞く機会があったのです。
――日本人は、胸椎が固くなっている人が多い――。
この話しを聞いて、「そうか、もしかしたら胸椎に関係があるのかもしれないな」と思いました。
胸椎(2~6番)というと、肩のすぐ下の背骨のことですが、本来人間というのは、前かがみになったとき、あるいは呼吸をするときでも、自然に筋肉が収縮してこの部分が反るようになっていたらしいです。日本人や中国人は、この節が固まってしまい、また反らす筋肉が衰えてしまったために、自然な前かがみ姿勢(※)が取れなくなってしまったということです。
先生に胸椎のことを言われて、「確かに、自分も軽い猫背だし、明らかに胸椎が固まっているな」と思いましたんで、背中を反らせながら前屈を試みたり、木刀を後ろに回してストレッチをしてみたりしましたが、その時は取り立てて変化は見られませんでした。
ところが、です。ある日、立ち泳ぎ(巻足)の練習を延々とやって、その後、北風がピューピュー吹く中を歩いていたら、背中に妙な感覚を覚えたのです。いつもなら背中がひとりでに丸まって、ガタガタ震え始めるわけですけれども、その時はそれほど寒く感じませんでした。逆に、寒ければ寒いほど、ひとりでに胸が張るような感じです。肩を外旋させる筋肉(棘下筋?)が緊張していたのでしょうか。
これはおもしろい!と思いまして、それから熱心に立ち泳ぎしてみましたら、はたして何日かで完全に姿勢が変わってしまいました! もちろん寒さを以前ほど感じなくなり、薄着になりました。何がどうなっているのやらさっぱり分かりませんが、効果があったことだけは確実です。たぶん、首や肩を重力に逆らって支える筋肉や、背骨を中心として胸側の筋肉と、背中側の筋肉が絶妙なバランスで引っ張り合って、熱を出しているのではないでしょうか。
自分のこの実験(人体実験?)が正しいとすると、日本人に多い「肩凝り」と「猫背」、そして「寒がり」ということが、見事につながることになるわけです。
猫背の人って、稽古場、道場など、あるいは職場、病院でも「姿勢を良くしなさい」とか「背筋をピンと伸ばすクセをつけなさい」、「もっとアゴを引きなさい」とかいわれると思うのですけど、それは無理というものです(笑)。自分もやってみましたが1分ともちません。「クセをつけろ」とかいうのは最初からできる人のせりふであって、できない人ができるようになるための「説明」ではないのです。いつも注意される人はこういう側面も冷静になって考えてみる“賢さ”というものが必要なのでしょうね(笑)。なお「姿勢を良くしなさい」という人も、いざ自分が年をとってそうなったときに困るかもしれませんから、頭の片隅に入れておくといいと思います。
さて、私はもともと「なで肩」なのですが、立ち泳ぎというのは「なで肩」の人は大変に不利なのです。なで肩の人は、肺にたくさん空気を溜めないと身体が浮かないので、いったん腕を進展させるようにして肩の位置を上段に移し、あばら骨の空隙を確保しなければなりません。この、あばら骨の空隙を確保した姿勢が、ちょうど胸椎をやわらかく反らした状態なのです。
このときに胸椎を反らし、肩を持ち上げる筋肉は不随意的なもので、これを意識的にやろうとすればもちろん随意筋の方が動きます。「肩を持ち上げよう」と思って動かすと疲れるだけなのです。
本当は自分自身でコントロールできないのに、自分の意識で動かしているように思っているということが、引っ掛かりやすい落とし穴なのでした。ですから努力よりも、そのような姿勢にひとりでになるような状況を作り出すことが大事だと思います。
立ち泳ぎというのはたまたま、そのようなスイッチの一つだったのでしょう。自分も最初、胸椎のストレッチをやり始めた当初、のどが詰まるような感じがして苦しかったのですが、立ち泳ぎをずっとやっていたらひとりでに解消してしまいました。
古代カヤック研究家の方がこんなことを言っていました。
――動物の中で、人間だけが、体温を一定に保ったまま、長時間運動を続けることができる――。
「哺乳類は全て恒温動物なのだから、人間だけというのはおかしい」と一瞬思ってしまうのですが、そうではないのですね。
なぜかというと哺乳類で汗をかくものは少ないんです。ネコもイヌも汗をかかないそうです。汗をかく動物には人間のほかにウマがいますが、ウマは休まずに長時間歩き続けることはできません。
また、そもそも長時間歩き続けることができる動物も意外に少ないんです。カモなどの渡り鳥を除けばカモシカぐらいです。あとはウシ。カモシカとウシは汗をかきませんから、温かい日は筋肉が熱くなりすぎてアウトです。
人間は寒さにはあまり強くないですが、食事をしながらでも自由自在に呼吸し、歩き続けたり、カヤックを漕いだりできます。ですからエネルギーの補給さえできれば、多少の寒さならなんとかなります。
もちろんそのためにはコツがあるそうで、それは、なんと「骨盤を立てて、体幹をローリングさせる」ことなのだそうです。右、左、右、左と交互に漕ぐため、船の全長はある程度ないと蛇行します。そして骨盤を立てるためには足をある程度広げる必要があり、船の横幅も必要になってきます。そうやって、船の大きさというのは決まっていったようです。
そうしてみると、人間の運動能力って、総合的に見ると意外と優れているのかもしれませんね。江戸時代はウシやウマをあまり使わず人力(と船)ばかりで物を運んでいましたし。
骨盤を立てるのは身体が硬くなった現代人には結構しんどいのですけれども、大昔の人達は、どうすれば身体が冷えないかを知っていて、それで原始的なカヤックで海を渡ったようです。
※ 「折り畳みナイフ型」深前屈姿勢=人類学者川田順造さんが名付けた、西アフリカで見られる前かがみ姿勢。疲労が少なく、背中や腰への負担が少ないとされる(図上)。
図は川田順造『もうひとつの日本への旅』中央公論新社(2008年)より。
アメリカやカナダの人は私たち日本人からすると信じられないぐらい、寒さに強いということを聞いたことがあります。確かに、街で見かける欧米人達はわりかし薄着ですし、寒いということを苦にしていないように見えます。対称的に、日本人や中国人は、寒い日は背中を丸めてガタガタ震えている人が多いように見えます。
ヨーロッパでは氷を割って寒中水泳する様子がTVで放映されたりします。
人種の違いというのも確かにあるでしょうけど、それにしてもスゴイ!
人種によって寒さへの対応の仕方が異なるということ、それから、動物には寒さに強いものもいれば、暑さに強いものもいるということ、こういうことも考えてみるとおもしろいテーマだと思います。
先日、たまたま、古武術研究家の方の話を聞く機会があったのです。
――日本人は、胸椎が固くなっている人が多い――。
この話しを聞いて、「そうか、もしかしたら胸椎に関係があるのかもしれないな」と思いました。
胸椎(2~6番)というと、肩のすぐ下の背骨のことですが、本来人間というのは、前かがみになったとき、あるいは呼吸をするときでも、自然に筋肉が収縮してこの部分が反るようになっていたらしいです。日本人や中国人は、この節が固まってしまい、また反らす筋肉が衰えてしまったために、自然な前かがみ姿勢(※)が取れなくなってしまったということです。
先生に胸椎のことを言われて、「確かに、自分も軽い猫背だし、明らかに胸椎が固まっているな」と思いましたんで、背中を反らせながら前屈を試みたり、木刀を後ろに回してストレッチをしてみたりしましたが、その時は取り立てて変化は見られませんでした。
ところが、です。ある日、立ち泳ぎ(巻足)の練習を延々とやって、その後、北風がピューピュー吹く中を歩いていたら、背中に妙な感覚を覚えたのです。いつもなら背中がひとりでに丸まって、ガタガタ震え始めるわけですけれども、その時はそれほど寒く感じませんでした。逆に、寒ければ寒いほど、ひとりでに胸が張るような感じです。肩を外旋させる筋肉(棘下筋?)が緊張していたのでしょうか。
これはおもしろい!と思いまして、それから熱心に立ち泳ぎしてみましたら、はたして何日かで完全に姿勢が変わってしまいました! もちろん寒さを以前ほど感じなくなり、薄着になりました。何がどうなっているのやらさっぱり分かりませんが、効果があったことだけは確実です。たぶん、首や肩を重力に逆らって支える筋肉や、背骨を中心として胸側の筋肉と、背中側の筋肉が絶妙なバランスで引っ張り合って、熱を出しているのではないでしょうか。
自分のこの実験(人体実験?)が正しいとすると、日本人に多い「肩凝り」と「猫背」、そして「寒がり」ということが、見事につながることになるわけです。
猫背の人って、稽古場、道場など、あるいは職場、病院でも「姿勢を良くしなさい」とか「背筋をピンと伸ばすクセをつけなさい」、「もっとアゴを引きなさい」とかいわれると思うのですけど、それは無理というものです(笑)。自分もやってみましたが1分ともちません。「クセをつけろ」とかいうのは最初からできる人のせりふであって、できない人ができるようになるための「説明」ではないのです。いつも注意される人はこういう側面も冷静になって考えてみる“賢さ”というものが必要なのでしょうね(笑)。なお「姿勢を良くしなさい」という人も、いざ自分が年をとってそうなったときに困るかもしれませんから、頭の片隅に入れておくといいと思います。
さて、私はもともと「なで肩」なのですが、立ち泳ぎというのは「なで肩」の人は大変に不利なのです。なで肩の人は、肺にたくさん空気を溜めないと身体が浮かないので、いったん腕を進展させるようにして肩の位置を上段に移し、あばら骨の空隙を確保しなければなりません。この、あばら骨の空隙を確保した姿勢が、ちょうど胸椎をやわらかく反らした状態なのです。
このときに胸椎を反らし、肩を持ち上げる筋肉は不随意的なもので、これを意識的にやろうとすればもちろん随意筋の方が動きます。「肩を持ち上げよう」と思って動かすと疲れるだけなのです。
本当は自分自身でコントロールできないのに、自分の意識で動かしているように思っているということが、引っ掛かりやすい落とし穴なのでした。ですから努力よりも、そのような姿勢にひとりでになるような状況を作り出すことが大事だと思います。
立ち泳ぎというのはたまたま、そのようなスイッチの一つだったのでしょう。自分も最初、胸椎のストレッチをやり始めた当初、のどが詰まるような感じがして苦しかったのですが、立ち泳ぎをずっとやっていたらひとりでに解消してしまいました。
古代カヤック研究家の方がこんなことを言っていました。
――動物の中で、人間だけが、体温を一定に保ったまま、長時間運動を続けることができる――。
「哺乳類は全て恒温動物なのだから、人間だけというのはおかしい」と一瞬思ってしまうのですが、そうではないのですね。
なぜかというと哺乳類で汗をかくものは少ないんです。ネコもイヌも汗をかかないそうです。汗をかく動物には人間のほかにウマがいますが、ウマは休まずに長時間歩き続けることはできません。
また、そもそも長時間歩き続けることができる動物も意外に少ないんです。カモなどの渡り鳥を除けばカモシカぐらいです。あとはウシ。カモシカとウシは汗をかきませんから、温かい日は筋肉が熱くなりすぎてアウトです。
人間は寒さにはあまり強くないですが、食事をしながらでも自由自在に呼吸し、歩き続けたり、カヤックを漕いだりできます。ですからエネルギーの補給さえできれば、多少の寒さならなんとかなります。
もちろんそのためにはコツがあるそうで、それは、なんと「骨盤を立てて、体幹をローリングさせる」ことなのだそうです。右、左、右、左と交互に漕ぐため、船の全長はある程度ないと蛇行します。そして骨盤を立てるためには足をある程度広げる必要があり、船の横幅も必要になってきます。そうやって、船の大きさというのは決まっていったようです。
そうしてみると、人間の運動能力って、総合的に見ると意外と優れているのかもしれませんね。江戸時代はウシやウマをあまり使わず人力(と船)ばかりで物を運んでいましたし。
骨盤を立てるのは身体が硬くなった現代人には結構しんどいのですけれども、大昔の人達は、どうすれば身体が冷えないかを知っていて、それで原始的なカヤックで海を渡ったようです。
※ 「折り畳みナイフ型」深前屈姿勢=人類学者川田順造さんが名付けた、西アフリカで見られる前かがみ姿勢。疲労が少なく、背中や腰への負担が少ないとされる(図上)。
図は川田順造『もうひとつの日本への旅』中央公論新社(2008年)より。