牡丹 鹿島太郎
花瓶の中で
馥郁と匂いを放っている大輪の牡丹
この暗い病室の風景と
凡そちぐはぐなそして清純であって
強烈に明るい花弁
私のじっとみつめる瞳の奥に
杳い記憶の中の彼の人の美しい微笑がよみがえる
こうして側に倚って牡丹を眺めていると
薄紅色が己が肌に沁み込んでくるようだ
じっとり濡るゝような愛の色よ
その花弁のしげみの奥に
私の心の揺籠を静かに揺り動かす手がある
こうして牡丹を瞠めていると眼が痛くなる
眼をとじると急に周囲が明るくなって
病室が花園に見える
牡丹の中に私があるのか
私の心の中に牡丹があるのか
━━わからなくなる