chuo1976

心のたねを言の葉として

アップランだけは譲れない           綿矢りさ

2021-03-28 05:08:51 | 文学

『蹴りたい背中』  綿矢りさ  2003年 


 さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。気怠げに見せてくれたりもするしね。葉緑体? オオカナダモ? ハッ。っていうこのスタンス。あなたたちは微生物を見てはしゃいでいるみたいですけど(苦笑)、私はちょっと遠慮しておく、だってもう高校生だし。ま、あなたたちを横目で見ながらプリントでも千切ってますよ、気怠く。っていうこのスタンス。

 黒い実験用机の上にある紙屑の山に、また一つ、そうめんのように細長く千切った紙屑を載せた。うずたかく積もった紙屑の山、私の孤独な時間が凝縮された山。(3)

 

 

 アップランだけは譲れない。運動場を、一周目はゆっくり走り、二周目は一周目より少し早く走り、三周目は二周目よりも速く・・・と、周を重ねるごとに走るスピードを上げて、ラストの周は全速力で走る。徐々に上がっていく息がドラマティックな走り系トレーニング、アップラン。私はこのアップランを、体裁かまわず本気で走る。前半は一番後ろを大人しげに走っているけれど、ラスト周ではできるかぎりスピードを上げ、他の部員たちをごぼう抜きにして、最後は意地でも一位でゴールインする。(38)

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札幌国際芸術祭

 札幌市では、文化芸術が市民に親しまれ、心豊かな暮らしを支えるとともに、札幌の歴史・文化、自然環境、IT、デザインなど様々な資源をフルに活かした次代の新たな産業やライフスタイルを創出し、その魅力を世界へ強く発信していくために、「創造都市さっぽろ」の象徴的な事業として、2014年7月~9月に札幌国際芸術祭を開催いたします。 http://www.sapporo-internationalartfestival.jp/about-siaf