新しき国の主(あるじ)にゆく人の紅よそほしく立つとふラヂオ 土屋文明(昭和七年)
満州を武力侵略した日本の軍部および政治家たちは昭和七年三月「満州国」を中華民国から独立させ、清朝の最後の皇帝溥儀を執政に押し立てた。天津にかくれ住んでいた廃帝は日本人たちにともなわれて新しい国都「新京」にむかった。その時のことを歌った作品なのであろう。「紅よそほしく」という言葉が私にはいくらか分りにくいが、執政溥儀の化粧の事だろう。しかし、そうした作品の事実を別にして、私たちは一首の間に漂うものを読み取る事は出来よう。歴史と人間の運命との底に流れる悲劇の音楽のようなものを、作品全体の声調の中に聞きとめればよいであろう。「目の前に亡ぶる興る国は見ぬ人の命のあまたはかなき」「新しき国興るさまをラヂオ伝ふ亡ぶるよりもあはれなるかな」などという歌がこの時に作くられている。「亡ぶるよりもあはれなるかな」と昭和七年に文明が歌った「満州国」は、昭和二十年に日本の敗戦とともに消滅し去った。「執政」の運命も同様である。
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