安倍晋三「こんな人たちに負けるわけにいかない」 関川宗英
2017年7月、都議選前日の秋葉原、「安倍やめろ」、そう書かれた横断幕が広がった。それは、当時の首相、安倍晋三の到着を告げたタイミングだった。
安倍晋三が演説を始めると、「安倍やめろ」との声は大きくなる。すると、一国の総理がヤジを飛ばす一団を指さして「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言った。
「皆さん、あのように、人の主張の、訴える場所に来て、演説を邪魔するような行為を私たち自民党は絶対にしません!私たちはしっかりと政策を真面目に訴えていきたいんです!憎悪からは、何も生まれない。相手を誹謗中傷したって、皆さん、何も生まれないんです。こんな人たちに、皆さん、私たちは負けるわけにはいかない!都政を任せるわけにはいかないじゃありませんか!」
支持者は日の丸の小旗を振りながら「そうだ」と賛同の声を上げた。しかし、それ以上に「安倍やめろ」の声は大きくなった。
テレビやSNSでこの場面が拡散されると「総理大臣は国民と戦う立場じゃない」「あなたがバカにしている『こんな人たち』も、あなたが守らねばならない国民なんです」などと安倍への批判が広がった。
安倍晋三の「こんな人たち」という言葉は、国民の分断を深めるものだ。当時安倍晋三は自由民主党の総裁だが、一国の総理だ。すべての国民の代表である。しかし、安倍晋三にとっては、自分を支持してくれる人だけが「私たち」なのだろう。
「こんな人たち」と言ってしまうとき、国民は「私たち」とそうでない人たちに分断される。
安倍晋三は対決型の、力強い政治家をアピールしてきた。敵を作り、それと対峙することで、自分の存在価値を露出させる。敵を批判し、嘲笑し、数の力で圧倒して、自らの強さと実行力を見せつける。そんな対決型の姿勢を、「決める政治」として評価する人たちもいるが、一方、安倍晋三が強行する政策や次々と採決されていく法案に疑問を呈する人々の不満は怒りは募るばかりだ。
対決型の政治に、国民の融和は生まれない。
2008年の米大統領選、共和党のマケイン候補と激しい選挙戦を戦った民主党オバマ候補は、勝利が決まった後の演説で、マケイン氏を称え、こう語った。
〈私がまだ支持を得られていない皆さんにも申し上げたい。今夜は皆さんの票を得られなかったかもしれませんが、私には、皆さんの声も聞こえています。私は、皆さんの助けが必要なのです。私はみなさんの大統領にも、なるつもりです〉(加藤祐子訳)
安倍晋三は、首相でありながら、国会の討論の場で、「ニッキョウソ」などと野党の議員に対してヤジを飛ばす男だった。
また別の日、野党議員から総理を論難する厳しい言葉をうける。その追及が時間切れで終わった時、「意味のない質問だよ」と言ったこともあった。
残業代ゼロ法案が審議されていた時、過労死遺族との面会を拒否した。
彼の言動から、一国の総理として、すべての国民の命と安全がその双肩にかかっているその重みと覚悟など微塵も感じることはなかった。
「根拠法がなく定義もない。国会で説明もせずに公費が使われていいのだろうか」(琉球新報)
「安倍氏の負の側面に向き合わず、ふたをしてしまうことにつながらないか」(新潟日報)
安倍晋三の国葬などとても認められない。