森友事件は終わっていない 関川宗英
2023年1月12日、森友学園の籠池理事長と妻の有罪が確定した。
森友学園補助金詐欺 籠池理事長と妻の実刑判決確定へ 最高裁
2023/1/12 NHK政治マガジン
森友学園の籠池理事長と妻が国などの補助金をだまし取った罪に問われた裁判で、最高裁判所は12日までに上告を退ける決定をし、理事長と妻をともに実刑とした2審の判決が確定することになりました。
森友学園の理事長、籠池泰典被告(69)と妻の籠池諄子被告(66)は、小学校の建設工事や幼稚園の運営をめぐり、国や大阪府、それに大阪市の補助金、合わせて1億7000万円余りをだまし取ったとして、詐欺などの罪に問われました。
籠池理事長は一部の不正を認めたほかは無罪を主張し、諄子被告は全面的に無罪を主張しましたが、2審の大阪高等裁判所は籠池理事長について「小学校の設計業者に対して補助金を『国から多めにもらって建築費に充てよう』などと発言しており、みずからの判断で虚偽の申請をしていた」などと指摘して、1審に続いて懲役5年の実刑判決を言い渡しました。
一方、諄子被告について1審は一部を無罪として執行猶予のついた有罪判決を言い渡していましたが、2審は「学園は家族経営で、書類の内容などから理事長が水増し請求を行っている認識はあった」などと判断し、懲役2年6か月の実刑としました。
2人は判決を不服として上告していましたが、最高裁判所第1小法廷の深山卓也裁判長は12日までに退ける決定をし、ともに実刑とした2審の判決が確定することになりました。
2人は今後、刑務所に収容されることになります。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/94369.html
森友学園の元理事長籠池泰典は、ノンフィクション作家赤澤竜也との共著、『国策不捜査「森友事件」の全貌』(以下、『国策不捜査』)を2020年2月に出版している。
その中で籠池泰典は自身の罪について、
「塚本幼稚園のための大阪府への補助金申請に関して、ボクはよくないことをした」(p-167※) ※ページ数の表示は全て『国策不捜査』から
と書いている。補助金の不正受給については公判でも本人は認めているわけだが、国有地が「8億円も値引き」された経緯は完全に解明されておらず、森友事件が国会で取り上げられてから発覚した「公文書の改ざん」についても多くの謎は残ったままだ。
そして、籠池夫妻以外、誰も裁判でその罪を問われていない。2018年5月31日、大阪地検特捜部は告発された疑惑の38人全員を不起訴としている。
1 事件の発端
森友事件は、2017年2月9日の「森友学園に対する国有地払い下げに安倍元首相夫妻が関与し、大幅な値引きが行われたのではないか」という朝日新聞のスクープから始まる。
安倍晋三は2月17日の国会で森友学園について問われ、「森友学園の先生の教育に対する熱意は素晴らしい」と籠池を擁護しているが、「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」との発言が飛び出す。
この発言で、森友学園問題が一気に炸裂することになる。森友学園が、国家の屋台骨を揺るがすような事件として広く国民に知れわたることになるのだった。
そして安倍晋三は、1週間後の国会答弁では籠池を「しつこかった」と評価を一変させる。しかもその前日、森友学園のホームページから名誉校長だった安倍昭恵の顔写真とコメントが消えるという珍事が起きた。
「瑞穂の國記念小學院」のホームページに掲載されていた昭恵夫人の顔写真とコメント
※瑞穂の國記念小學院~2017年2月当時、籠池が開校の準備を進めていた疑惑の小学校
『国策不捜査』によれば、名誉校長安倍昭恵の顔写真とコメントの削除について、2017年2月23日のこととして次のように書かれている。
龍安寺の駐車場に到着した昼過ぎのこと。
ボクの携帯に「安倍晋三事務所」の初村滝一郎秘書から電話が入る。
「ああ、籠池さん、初村です。おたくの『瑞穂の國記念小学校』のホームページに載っている昭恵夫人の写真とコメントを削除してください」
とても高圧的かつ一方的な口調だった。
(中略)
ほぼ恫喝に近いような口吻で迫ってくる。日本国の首相秘書からの拒むことの出来ない命令だったので、しかたなく応諾する。
しかし、この初村さんとの電話を切った食後のこと。
今度は住吉神社の神武磐彦権宮司の夫人から電話が入る。先に述べたように娘の神武亨代さんは、昭恵夫人付きの秘書をしていた。
「いま、昭恵夫人から、『わたしは今、籠池さんがどんな状況だかわからないけど、どうなっているのかしら。教えてほしい』と連絡があったんです。なにかありましたか」
「いや、なにかありましたかって、昭恵夫人が名誉校長を降りられることになりました」
「ええ、どうしてですか!」
「どうしてもこうしても、こちらの方こそ、なにがどうなっているんだかわかりません」
「わかりました。すぐさま昭恵夫人に知らせます」
この日の午後3時41分、ボクたちの留守にしている塚本幼稚園には、衆議院議員会館1212号室(安倍晋三事務所)の番号から一本のファックスが入る。そこには、昭恵夫人が名誉校長を退任するのでホームページから削除するよう依頼する文章が書かれていた。
仕方なく留守を預かる長女の町浪に連絡し、業者に削除の依頼をするよう指示をする。(p-39)
このように、森友学園のホームページから名誉校長安倍昭恵が消えた珍事の顛末が書かれている。この中で責任者である籠池が森友学園を留守にしていたことが判るが、森友学園問題が大騒ぎになり始めた時に留守とはどういうことなのだろうか。
実は、籠池夫婦は、安倍晋三の「総理も議員もやめる」発言のその日、しばらく身を隠すように指示されていたのだった。
「17日、財務省の理財局長より『籠池さんに身を隠してほしい』との依頼を受けました」
(p-30)
これは森友学園顧問の酒井弁護士の言葉だ。
そして籠池は書いている。
だが、なぜ財務省はボクに対して「身を隠せ」と言ったのか。本当の理由を知るには、翌年の「公文書改ざん事件」の発覚を待たねばならなかった。
そんなことは露知らず、当時のボクはあろうことか、
「安倍首相をはじめ、国が一丸となってわれわれを助けようとしてくれている。彼らの言う通りにし、任せておけば、この嵐もうまくやり過ごせることができるのだ」
と考え、身を隠すことにしたのだった。(p-32)
こうして、森友学園問題の幕は切って落とされた。
(ちなみに、名誉校長安倍昭恵の写真とコメントの削除要請は、2017年2月20日の時点ですでに、大阪8区選出の自民党議員大塚高司の公設秘書からあったが、断ったそうだ。p-456)
2 政権サイドのドタバタ
2月24日の朝日川柳を見れば、「裏口を名誉校長すっと抜け」と昭恵の珍事が取り上げられている。
また「廃棄したと まず言ってみて様子見る」は、8億円の値引き交渉の記録は「廃棄した」と繰り返された国会の珍答弁のことだ。
「近畿財務局と森友学園の交渉記録はございません」(2017年2月24日)、「価格設定して向こうと交渉することはございません」(同2月27日)、これは佐川財務省理財局長の国会答弁である。
10億円もの大阪の国有地が、8億円も値引きされたと聞いて、信じる御人好しがどこにいるのか。
2017年の国会は、過去三度廃案となっていた「共謀罪」法の審議が大きな焦点となっていた。しかし降ってわいた森友問題で、メディアは上を下への大騒ぎとなり、国会では「総理も議員もやめる」の発言から連日のように日本国の優秀な官僚たちの不様な大立ち回りが繰り返されていた。
国会では「PMメモ」なるものまで登場した。
「もっと強気で行け」安倍首相は佐川氏にメモを渡していた
今から約1年前、2017年早春の国会でのことだった。
学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、財務省の佐川宣寿理財局長(当時)は野党の質問攻めに忙殺されていた。委員会室で10数メートル先に座る首相の安倍晋三の秘書官の一人が佐川氏に歩み寄り、1枚のメモを手渡した。
「もっと強気で行け。PMより」
「PM」は「プライムミニスター(首相)」、即ち安倍首相を指す官僚たちの略語である。
「近畿財務局と森友学園の交渉記録はございません」(2017年2月24日)
「価格設定して向こうと交渉することはございません」(同2月27日)
当時、野党の攻め口を遮断するこんな強気の答弁を連発し、国有地売却の適法性を主張して追及に一歩も引かない佐川氏への首相官邸の評価はうなぎ上りだった。「PMメモ」の含意は佐川氏個人への激励にとどまらない。
【Yahoo!ニュース(文春オンライン) 2018.4.9.】
こんなことまで取り沙汰されて、国会の品位は落ちるばかりだ。毎日あくせく働いて、所得税や住民税などきっちり収めている庶民には、国会の先生方のドタバタは怒りを通り越して溜め息も出ない。
続く2月25日、森友学園塚本幼稚園運動会の「安倍首相ガンバレ」動画が流出する。
森友学園は園児に教育勅語を暗記させ、昭恵の前でも披露したことがあるとか。昭恵は涙を流して子どもたちを見ていたそうだ。そんな塚本幼稚園の、2015年秋の運動会の動画である。
https://www.youtube.com/watch?v=lnCOeG3oy0A&t=35s
【宣誓】
あついあつい夏がすぎて、ぼくたちわたしたちの待ちに待った、平成27年度 秋の大運動会がきました。
先生と、お友達と、一緒になって、おけいこをした、おゆうぎ、音楽、体育、かけっこなど、今日一日、頑張ります。
おじいちゃん、おばあちゃん、おとうさん、おかあさんの前で、褒めていただけるよう、全力をつくします
大人の人たちは、日本が他の国に負けぬよう、尖閣列島・竹島・北方領土を守り、日本を悪者として扱っている、中国、韓国が、心改め、歴史で嘘を教えないよう、お願い致します。
安倍首相、ガンバレ! 安倍首相、ガンバレ!
安保法制国会通過よかったです!
僕たち、私たちも、今日一日、パワーを全開します
日本ガンバレ!えいえいおー!
【出典:塚本幼児教育学園「思い出の宝箱」より】
朝日新聞の森友学園に対する疑惑のスクープから、安倍政権サイドのドタバタぶりは目を覆うばかりだ。
当時の防衛大臣だった稲田朋美は籠池との関係を問われ、「10年も会っていない」、「顧問弁護士などやっていない」などと明らかな嘘をついて、すぐに発言の撤回、謝罪に追い込まれた。政権サイドの対応の悪さ、質の低さを象徴している。
3 森友事件の経緯
国会で森友事件を問われた安倍首相が、「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と発言してから、公文書の改ざんは始まった。
しかし、それが明るみになるのは一年後の2018年3月のことだ。
あらためて、森友事件の経緯をまとめてみる。
安倍政権サイドが、とにかく籠池を犯罪者として葬ろうとしたことがよくわかる。
2017年
2月9日 森友事件のスクープ(朝日新聞)
2月17日 安倍首相「総理も議員もやめる」発言。
2月17日 籠池は財務省から「身を隠せ」と指示される。
2月23日 森友学園のホームページから名誉校長安倍昭恵の写真とコメントが消える。
2月24日 安倍首相、籠池を「しつこい人」と批判。
3月6日 松井知事、小学校の設置不認可。
3月10日 籠池、理事長辞任。
3月23日 籠池、国会で証人喚問。
3月29日 サステナブル補助金不正受給で籠池告発。
5月31日 特捜部、補助金詐欺で大阪府の籠池告発受理。
6月19日 国会閉幕後、幼稚園、籠池邸など一斉に家宅捜索。
6月27日 大阪市は森友学園系列の保育園に対し、保育士不足を理由に、事業停止命令。
7月6日 国は森友学園管財人に2100万円の返還要求。
7月12日 近畿財務局、森友に豊中学校用地の原状回復を要求。
7月14日 大阪市、籠池を補助金不正受給で告発。
7月27日 大阪地検特捜部、籠池夫妻の一度目の事情聴取。
7月31日 籠池夫妻逮捕。( → 釈放は約300日後の2018年5月25日)
2018年
3月2日 森友文書改ざん報道(朝日新聞)
3月7日 近畿財務局職員赤木俊夫さん自殺。
3月9日 佐川国税庁長官、辞任。
3月12日 財務省、14の決裁文書で改ざんがあったと公表。
3月27日 佐川前国税庁長官、証人喚問。
5月25日 籠池夫妻、釈放。
5月31日 大阪地検特捜部、一連の森友事件で告発された38人を全員不起訴。
2019年
3月6日 籠池夫妻、初公判。
2020年
2月19日 1審の大阪地裁は、泰典被告が懲役5年の実刑判決、諄子被告が一部無罪の上、懲役3年、執行猶予5年。被告の夫妻、原告共に控訴。
2022年
4月18日 2審の大阪高裁は、籠池を1審に続いて懲役5年、妻については一部を無罪とした1審判決を取り消し、懲役2年6か月の実刑判決を言い渡した。夫妻は上告。
2023年
1月12日 最高裁、上告を退け、2審の有罪が確定。
このように森友事件の経緯を整理すると、権力サイドが籠池を悪者にして事件の決着を図ろうとしていたことは明白だ。
保守主義、天皇主義を堂々と標榜する籠池は、生長の家や日本会議と関わりながら人脈を広げ、学校づくりを進めてきた。しかし、森友学園が事件として問題化すると、それまで関わってきた多くの保守主義者たちから手のひら返しを食らったという。安倍晋三もその一人だ。
安倍晋三に対する思いを籠池は『国策不捜査』で次のように語っている。
ボクは教育関係の組織から保守運動に携わり、そこから日本会議とも関わりを持つようになった。ご存じのように、日本会議は「教育基本法」の改正にも大きな影響を及ぼしている。
だが、現在の日本会議の存在理由は憲法改正だけ。そう言い切っていい。憲法改正こそが焦眉の急であり天王山である。
根っこには、これまで述べているように、生長に家原理主義者たちが抱く狂おしいまでの占領軍による押しつけ憲法への憎悪がある。
先ほどボクは「日本会議の凄みは、ものすごく長期的なスパンで小さなことからコツコツと積み上げていくところ」と述べた。
憲法改正についても、日本会議は数十年前から現在の状況を見据えて活動してきた。
具体的に言うと、安倍晋三を巡る動きがその一つだ。日本会議は、安倍さんが1993年に政界デビューした当初から、「この男をかついで憲法改正を実現させる」と考えていた。
何十年にもわたって政治家・安倍晋三を陰に日向に支援してきたのも憲法改正のため。この粘り強さは、そんじょそこらの組織にできる業ではない。
ここまで書くと、ボクが自分の学校に「安倍晋三記念小学校」と名付けた理由の一端を理解してもらえるのではないかと思う。
日本会議の人間にとって、この人は他の政治家とは違う特別な存在なのだ。(p-250)
そんな安倍晋三に対して、『国策不捜査』のエピローグで次のように書かれている。
安倍官邸は「素早い決断」の名のもと、官僚組織の集合知を軽んじ、専門知を踏みにじる。公文書を改ざんさせ、優秀な官僚たちに国会でウソをつかせ、議会そのものを毀損した。
保守は歴史を大切にするはず。言葉とは歴史そのものだ。言葉=歴史を尊ばない人を保守と呼んでいいのだろうか。政治家とは言葉で生き死にする人たちではなかったか。言葉をないがしろにする人間に、国家にとってもっとも崇高な言葉である「憲法」を語る資格などあるのだろうか。
公文書改ざん事件については、本物の首謀者が国家の中枢でいまだに我が物顔に権勢を振るっている。本物の悪が、森友事件を闇の葬り去ることができたと薄笑いを浮かべている。恐ろしいことである。(p-480)
はっきりと名指しはされていないが、「本物の悪」とは明らかに安倍晋三のことだろう。
『国策不捜査』の発行は、「2020年2月15日」である。第二次安倍政権最後の年の2月に発行されている。官邸にいる安倍晋三に向けて、このようなエピローグを籠池は書きつけたのだ。
『国策不捜査』は籠池の恨み節でもあるのだが、籠池本人や妻も森友学園関係の保護者とさまざまなトラブルを引き起こしていた。「犬臭い」、「在日韓国人、支那人に近づくな」、「便のついたパンツ事件」などとネットを検索すれば教育の場とは思えないトラブルはすぐに確認できる。森友問題に出てくる人物たちは所詮同じ穴の狢という声も聞こえてくる。
しかし、籠池夫妻の有罪確定で森友事件は終わったわけではない。
鉛筆なめなめして金を多くとろうとした噓つきはつかまったが、国の文書を改ざんまでしてあったことを無かったことにしてしまおうとした巨悪はその罪を問われていない。
森友事件では、法治国家の根幹をないがしろにするような、不正とウソがまかり通ってしまった。
「いい土地ですから、進めてください」とは、どのような権限のもと発せられた言葉なのか。
「神風が吹いた」のはなぜだったのか。
財務局長官だった迫田も、佐川も、国税庁長官に昇進できたのはなぜなのか。
国会では森友事件で139回の嘘の答弁があった。
八億円もの値引き、公文書改ざん、多くのことが解明されていない。
その事実を明らかにし、その責任を明確にすることは、民主主義の国として後世に正しい歴史を遺すための大切な一歩だ。
森友劇場の幕は開いたままだ。
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