chuo1976

心のたねを言の葉として

「夕焼け」から  谷川俊太郎

2013-02-11 05:38:27 | 文学

「夕焼け」から  谷川俊太郎



ときどき昔書いた詩を
読み返してみることがある
どんな気持ちで書いたのかなんて
教科書みたいなことは考えない

詩を書くときは
詩を書きたいという気持ちしかないからだ

たとえぼくは悲しいと書いてあっても

そのときぼくが悲しかったわけじゃないのを
ぼくは知っている

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「なくしもの」   谷川俊太郎

2013-02-10 05:25:19 | 文学
「なくしもの」   谷川俊太郎




ごくつまらぬ物をひとつ失くした

無いとどうしても困るという物ではない
なつかしい思い出があるわけでもない
代わりの新しいやつは角の店で売っている

けれどそれが出てこないそれだけのことで
引き出しという引出しは永劫の目色と化し
私はすでに三時間もそこをさまよっている

途方に暮れて庭に下り立ち
夕空を見上げると
軒端に一番星が輝きはじめた

自分は何のために生きているのかと
実に脈略の無い疑問が頭に浮かんだ

何十年ぶりかのことであるけれど
もとよりはかばかしい答のあるはずがない

せめて品よく探そうと衣服の乱れをあらため
勇を鼓してふたたび室内へとって返すと
見慣れた什器が薄闇に絶え入るかと思われた
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「生長」  谷川俊太郎

2013-02-08 06:13:51 | 文学
「生長」  谷川俊太郎




わけのわからぬ線をひいて
これがりんごと子供は云う

りんごそっくりのりんごを画いて
これがりんごと絵かきは云う

りんごに見えぬりんごを画いて
これこそりんごと芸術家は云う

りんごもなんにも画かないで
りんごがゆを芸術院会員はもぐもぐ食べる

りんご りんご
あかいりんご

りんご
しぶいか
すっぱいか
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「空の青さを見つめていると」  谷川俊太郎

2013-02-07 05:24:09 | 文学
「空の青さを見つめていると」  谷川俊太郎



空の青さを見つめていると
私に帰るところがあるような気がする
だが雲を通ってきた明るさは
もはや空へは帰ってゆかない

陽は絶えず豪華に捨てている
夜になっても私たちは拾うのに忙しい
人はすべていやしい生まれなので
樹のように豊かに休むことがない

窓があふれたものを切りとっている
私は宇宙以外の部屋を欲しない
そのため私は人と不和になる

在ることは空間や時間を傷つけることだ
そして痛みがむしろ私を責める
私が去ると私の健康が戻ってくるだろう
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「悲しみは」  谷川俊太郎

2013-02-06 06:44:30 | 文学
「悲しみは」  谷川俊太郎




悲しみは
むきかけのりんご

比喩ではなく

詩ではなく

ただそこに在る
むきかけのりんご


悲しみは
ただそこに在る
昨日の夕刊

ただそこに在る
ただそこに在る
熱い乳房

ただそこに在る
夕暮れ

悲しみは言葉を離れ

心を離れ

ただここに在る

今日のものたち
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「空の嘘」   谷川俊太郎

2013-02-05 05:18:59 | 文学
「空の嘘」   谷川俊太郎




空があるので鳥は嬉しげに飛んでいる

鳥が飛ぶので空は喜んでひろがっている

人がひとりで空を見上げるとき

誰が人のために何かをしてくれるだろう



飛行機はまるで空をはずかしめようとするかのように

空の背中までもあばいてゆく

そして空のすべてを見た時に

人は空を殺してしまうのだ



飛行機が空を切って傷つけたあとを

鳥がそのやさしい翼でいやしている

鳥は空の嘘を知らない

しかしそれ故にこそ空は鳥のためにある



<空は青い だが空には何もありはしない>

<空には何もない だがそのおかげで鳥は空を飛ぶことが出来るのだ>
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「信じる」   谷川俊太郎

2013-02-04 05:09:23 | 文学
   「信じる」   谷川俊太郎
   



笑うときには大口あけて

おこるときには本気でおこる

自分にうそがつけない私

そんな私を私は信じる

信じることに理由はいらない



地雷をふんで足をなくした

子供の写真目をそらさずに

黙って涙を流したあなた

そんなあなたを私は信じる

信じることでよみがえるいのち


葉末の露がきらめく朝に

何をみつめる子鹿のひとみ

すべてのものが日々新しい

そんな世界を私は信じる


信じることは生きるみなもと

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「生きる」   谷川俊太郎

2013-02-03 06:20:55 | 文学

「生きる」   谷川俊太郎



生きているということ

いま生きているということ

それはのどがかわくということ

木漏れ日がまぶしいということ

ふっと或るメロディを思い出すということ

くしゃみをすること


あなたと手をつなぐこと



生きているということ

いま生きているということ

それはミニスカート

それはプラネタリウム

それはヨハン・シュトラウス

それはピカソ

それはアルプス

すべての美しいものに出会うということ

そして
かくされた悪を注意深くこばむこと



生きているということ

いま生きているということ

泣けるということ

笑えるということ

怒れるということ

自由ということ



生きているということ

いま生きているということ


いま遠くで犬が吠えるということ

いま地球が廻っているということ

いまどこかで産声があがるということ

いまどこかで兵士が傷つくということ

いまぶらんこがゆれているということ


いまいまがすぎてゆくこと



生きているということ

いま生きてるということ

鳥ははばたくということ

海はとどろくということ

かたつむりははうということ



人は愛するということ


あなたの手のぬくみ

いのちということ
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アメージング グレース

2013-02-02 05:39:57 | 文学
Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me.
I once was lost but now am found,
Was blind but now I see.

アメージング グレース
何と美しい響きであろうか
私のような者までも救ってくださる
道を踏み外しさまよっていた私を
神は救い上げてくださり
今まで見えなかった神の恵みを
今は見出すことができる

‘Twas grace that taught my heart to fear,
And grace my fears relieved,
How precious did that grace appear,
The hour I first believed.

神の恵みこそが 私の恐れる心を諭し
その恐れから私の心を解き放つ
信じる事を始めたその時の
神の恵みのなんと尊いことか
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「わたしが一番きれいだったとき」     茨木 のり子

2013-02-01 05:34:36 | 文学
「わたしが一番きれいだったとき」     茨木 のり子




わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした

わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達がたくさん死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差しだけを残し皆発っていった

わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり
卑屈な町をのし歩いた

わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように
              ね
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札幌国際芸術祭

 札幌市では、文化芸術が市民に親しまれ、心豊かな暮らしを支えるとともに、札幌の歴史・文化、自然環境、IT、デザインなど様々な資源をフルに活かした次代の新たな産業やライフスタイルを創出し、その魅力を世界へ強く発信していくために、「創造都市さっぽろ」の象徴的な事業として、2014年7月~9月に札幌国際芸術祭を開催いたします。 http://www.sapporo-internationalartfestival.jp/about-siaf