風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

松竹大歌舞伎 夜の部 @日本青年館(11月1日)

2013-11-02 23:24:37 | 歌舞伎




先週の歌舞伎座千穐楽と前日のKバレエの圧倒的感動が残りまくっている中、行ってまいりました、日本青年館。秋の巡業の初日です。
頭の中は、ニザさまと吉さまと熊哲とチャイコフスキーの旋律で、とっくにカオス。
出来のよろしくない舞台ならいくら観ても「観劇疲れ」にはならないのですが、良い舞台は否応なく感動が押し寄せるので、もう体力も限界でございます。。。
こんな状態じゃ感性も鈍ってどんな舞台を観ても感動なんてできないんじゃ…と心配でしたが――。

菊ちゃん、素晴らしかった!!

私にとって菊ちゃんは吉と出るか凶と出るかが割と極端な役者さんですが(技術的にではなく、感動的な意味で)、今回、とても良かったです。
すごく前方の席ではありませんでしたが意外と舞台が近く、オペラグラスなしであの菊ちゃんを2時間堪能できただけで大満足。
ただ、よくもわるくも菊之助オンステージといった舞台でもありました。
三津五郎さんの不在は、やはりとても大きかったのだな…と実感。
ですが2つの演目をあれだけの貫録で引っ張った菊ちゃんにも、ちょっと感動してしまいました。36歳で立派なものだなぁ。


【野崎村】

菊之助のお光ちゃんが可愛くて、可愛くて。。。
菊ちゃんはこういう気の強い女の子の役が似合いますねぇ。
観る前は品がありすぎてどこぞのお姫様みたいに見えてしまうのでは?と少し心配しましたが、ちゃんと田舎娘に見えました。真ん丸な顔がほんとに可愛い。大根切ってる姿なんてもう反則的。
しかしポスターでも筋書でも上の写真でも全部大根と一緒とは、やっぱり「お光ちゃん=大根」なのね・・笑

筋書で菊之助自身も言っていますが、このお光は、お染の姿を見た瞬間にもう自分の恋が実らないことを予感しているのが、よくわかりました。
お染を追い出した後、久作に灸をしながらも、表の方を気にしている目がとても不安そうで。「最後の足掻き」のような雰囲気が、ここで既に見え隠れしているのです。
どんなに強く相手を想っても、どんなに頑張っても、自分の想いだけではどうにもならないのが、恋。久松への恋はお光にとって初恋だったろうと思いますが、そのことを彼女は、経験からではなく本能でわかってしまった。
ここ、上手だったなぁ。笑える場面なのに、そんなお光が健気で切なくて…。でも笑えて。客を“笑いだけ”で終わらせない菊之助の空気の作り方、見事でした。

初めての恋で、あんなにウキウキ大根を切っていた女の子が、自分の花嫁姿を想像して照れていた女の子が、ついにその憧れの姿になれたときには髪を下ろしていて――。よくぞここまで号泣ものの話を思いつきますよねぇ…。ああもうこれ書いてるだけで泣けてくる…。切ないなぁ。

そしてクライマックスの土手の場面。
本来の両花道のときにどのような演出なのかは観たことがないので存じませんが、ちゃんとした両花道がないときにいかに間抜けな雰囲気になるかはよくわかりました(舟も駕籠も一向に前に進まない)。。。
この演目、両花道を作れない場合には、かけない方がよろしいのでは。。。

気を取り直して。
舟と駕籠が去ってゆき、一転して訪れる静寂。
この動から静への一瞬の転換の素晴らしいこと…!
笛の音の効果。早咲きの梅、その枝には飛べない奴凧――。この場面だけでも、『野崎村』って傑作だ…。
そして、、、菊ちゃん!!
ここの菊ちゃん、本当に本当に素晴らしかった。
魂が抜けたように彼らの去った方角を見つめるお光。この空気の透明感。
その手から、ぽとりと落ちる数珠。
久作はそれを拾い、声をかけるのをためらいながら、そっと優しく娘の手に握らせてあげて。
その感触にはっと我に返って、そして張りつめていた糸が切れたようにわっと父親にすがりついて号泣するお光――。
ここの彌十郎さんの演技がまた、切ないのよ………。
年齢的にもちゃんと親子に見えるから、なおさら…。
久作も可哀想ですよねぇ…。ほんの数刻前までは、可愛い娘と息子と妻と四人、つつましく、でも睦まじく暮らしていく未来が当たり前にあったのに――。
菊ちゃんお得意の“静寂の緊張感の引っ張り”も、今回は効果的でした!

秀調さんのお常も、大店の後家らしさとお染の母親らしい温かさが出ていて、とてもよかったです。

巳之助の久松と右近のお染は、正直に申しあげてしまいますと、、、ちょっと物足りなかったかな。。。
巳之助は、いつもより声が弱かったような…。また、心中を決意するほどお染を愛しているようには見えず…(筋書によるとちゃんと表現しようとはしていたようですが)。でも「振袖の持病」について菊ちゃんと言い合う場面などは、幼馴染らしい気安さが出ていてよかったです。みっくんカッコいいし*^^*
右近のお染は、文楽人形みたいでキレイでしたが、彼女の心の想いがあまり伝わってこなかったのが残念でした。とはいえ、『四谷怪談』のお梅ちゃんにしても、彼はこういう役がよく似合いますね~。一途で思い込んだら一直線。悪気はないのだけれど、ひと騒動起こして周りに迷惑をかけるタイプ。すぐに「死にます!」と言うところも、全然不自然じゃなく。21歳でこれだけできれば、やっぱり十分、なのかも。


【江島生島】

三津五郎さん&菊之助のこの舞踊が観たくて買った今回のチケットでしたが、三津五郎さんのご休演により、江島→右近、生島→菊之助に配役変更。
初見ですが、男性の物狂い系の舞踊が大好物なので、楽しみにしておりました。
思っていたとおり大変私好みの、切なくも美しい踊りでございました。

こちらの菊ちゃんも、とてもよかった。
前半の生島の夢の場面では、美貌の役者ぶりと、江島に対するしみじみとした愛情、そしてそのしっとりとした色気に、まさに夢の世界を見せてもらいました。
後半の物狂いの演技も、菊ちゃん上手い!
旅商人に絡むところなど可笑しみがあってくすりと笑えるのに、単純な笑いだけにさせないところは『野崎村』に続きお見事。
島流しになっている割にお肌ツヤツヤ、頬もふっくらなのはまぁご愛嬌で^^;。島流しになってからまだそう時間がたっていない設定だと思うことにいたします。でもこれ以上は太らないでね…。

右近も、こちらはとてもよかった。江島は大奥の身分の高い女性の品格が、海女ちゃんは島の娘の奔放な若さがよく出ていました。踊りも品があって綺麗。
そして『俊寛』の千鳥の場違いに派手な黄緑衣装は、島娘のスタンダード衣装だったのだと判明し、個人的にスッキリ

秀調さんの旅商人。
情が深くて、優しくて、温かかった。この商人が良いと、生島の哀れさが引き立ちますね。久作が良いと、お光の哀れさが引き立つのと同じで。
笑いながら海女達が去り、やがて小雨が降ってきて、打掛を被ってうずくまってしまった生島の上に笠を差し掛けてあげる絵面の優しいこと。。。
そして『保名』『吉田屋』もそうですが、美しい男性と打掛の組み合わせは最高ですね~。世の中にこれほど艶っぽい組み合わせがあるだろうか。ビバ日本文化!

最後、再び江島の姿を求めてどこへともなく去っていく生島。
花道の菊之助の表情、胸が苦しくなる、透きとおるような美しさでございました。
哀しみと美しさは、同じ材料でできているのかもしれませんねぇ。

そして三津五郎さんの生島も見てみたいなと改めて強く感じました。
きっと菊之助とは違う個性の、三津五郎さんらしい生島を見せてくださることでしょう。
待っていますよ~、三津五郎さん!

皆さんは、これから日本の津々浦々へのひと月間の巡業。
相変わらずの殺人的スケジュールでございますが、皆さまお元気で千穐楽を迎えられますよう祈っております!

※今回の青年館の客層は巡業のカオス感が皆無で、普段の歌舞伎座よりずっとコアな歌舞伎ファンばかりが集まった印象でした。大向うさんもちゃんとおられたし(やっぱり大向うさんの存在って大きいですよね)。気持ちよく観られて良かったです。でも、あの軽い椅子は疲れたわ・・・。このホールも、オリンピックで取り壊しが決まったのでしたっけ。

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