風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

吉例顔見世大歌舞伎 昼の部 @歌舞伎座(11月21、24日)

2013-11-25 02:48:49 | 歌舞伎




日本人ならその名前だけで血が騒ぐ忠臣蔵!
年末でございますねぇ*^^*

今回初見でしたが、仮名手本がこれほど見所満載の演目とは嬉しい驚きでした。
先月の『義経千本桜』といい、こんな狂言を三年連続で生み出した江戸時代ってすごすぎる。

※21日(1階6列目)、24日(大序&三段目&四段目のみ幕見)


【大序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場 / 三段目 足利館門前進物の場・松の間刃傷の場】
初見なので、幕開きの儀式性の何もかもが楽しくて仕方がなかったです。
口上人形、柝の音(数えたら47より全然多かったですが)とともに長い時間をかけて開く定式幕、置鼓、東西声、役者の人形身、すべてが夢のよう。
台風で倒れてしまった八幡宮の大銀杏を久しぶりに見られたのも嬉しかった。

そして名を呼ばれて目を開けた菊五郎さんの判官の美しいこと。。。
江戸っ子な菊五郎さんも素敵だけれど、おっとりと品のある菊五郎さんもほんといい。
判官が一介の侍ではなく大名であることが、立派な武士であるようにとちゃんと育てられたんだろうなぁということが、伝わってくる。
そんな判官だから、あそこまで追い詰められる姿が可哀想で…。堪えに堪えた「しばらく…」の声が悲痛で…。
そしてそういう判官だから、「お家取潰しがわかっていながら刃傷に及ぶなど、城主としてどうなん?」という疑問を殆ど感じさせない。
家臣もきっと彼と同じ思いであることがわかるから。
家臣がこの若い主を、心から慕っていることがわかるから。
主も家臣もどこか朴訥で、不器用で、だけど真っ直ぐで、武士の清らかな精神を当り前のものとして持っている、塩冶家とはそういう家なのでしょう。

梅玉さんの若狭之助。
短気でイライラしてる梅玉さん、新鮮ですんごい楽しかった!
あの柔らかな声で「ちと心悪うござる。……さほどではござらぬ!」
可愛い。。。
大序の爽やかな浅葱色の長袴もお似合いでした。判官の玉子色にしても、大序の衣装は可愛いなぁ。

左團次さんの師直。
素の左團次さんまんま?な、カラリと明るい愛嬌のあるエロ爺でした、笑。
ねっとりじっとり嫌味~な師直も見たかった気がするけれど、大名らしい品と貫録もあってよかった。うまいよねぇ。
花道から登場する顔世を舞台からただ一人無遠慮に見つめる好色そうな目、見てるだけでニヤニヤしてしまう。
そして始まるセクハラ攻撃。
って、、、ここまでセクハラだったとは
ち、乳揉んどる。。。
左團次さんは相変わらずカラリとやってるけど、デフォルトでエロ爺な雰囲気に芝雀さんの清純そうな雰囲気&肉感的な体つきが相まって、思いがけぬエロさに。。。
ひ、昼間から大名の奥方に屋外でこんなセクハラを受けさせるなんて、仮名手本ってすごい。。。
そしてふと思ったのは、本来の配役なら吉右衛門さんが師直をやる予定だったのよね、と。
うわ…、芝雀さんにセクハラする吉右衛門さん!
菊五郎さん&梅玉さんにネチネチ嫌味を言う吉右衛門さん!
観たかった!!!

あと、大序の判官の一度目の引込みで、兜を手にした判官が顔世にただ一度すっと視線を流すところ、雰囲気があってよかったです。
大序幕切れの菊五郎さんのおっとりしながらも凛とした表情も、とても美しかった。
ここの見得、御三方ともご立派!

それと、進物の場。松之助さんの伴内のエヘンバッサリ(今回は右足を出したらバッサリ)が、お上手で楽しかった。松之助さん、幹部昇格おめでとうございます!


【四段目 扇ヶ谷塩冶判官切腹の場・表門城明渡しの場】
通しで観ると、この四段目の空気って実に独特ですね。
切腹の場のひんやりと張りつめた緊張感と、城明渡しの場の由良之助の涙。
仇討ちの十一段目よりも遥かに『忠臣蔵』らしさを感じました。

ここでもやはり菊五郎さんの判官は美しかった。
死に臨む者の透明感と、胸の内の熱い思い。
畳の端に足先(ちゃんと右足だった)がついて、ふと顔を上げて花道の奥を見つめる目、切なかったなぁ…。
二度目の「力弥力弥」の少し高めの声と早めの言い方に、諦めきれない最後の切実な思いが滲んでいて、胸が痛くなった…。

そして、そして。
吉右衛門さんの由良之助
なんなのこれ!なんなのこれ!もんのすごく良かった!!!!!
先月の知盛があまりに凄すぎたので、まさかすぐ翌月に再びこれほどのものが観られるとは、正直思っておりませんでした。ご体調も万全ではないとのことでしたし…。しかし、素晴らしかった。。。
判官が腹に刀を突きたてた直後に到着して、花道で膝をついたときの表情!
城代家老の風格、けれどその強張った頬と目が表す心の動揺。
すごいぞ、吉右衛門さん。。。

そしてずっと抑えていた判官の感情が、由良之助の顔を見た途端に溢れ出て……。
ここの菊五郎さんと吉右衛門さんは本当に……、もう言葉で表せない。なんだろうこの満足感。。。
この由良之助と判官は、ちょうど史実と同じ、歳の離れた兄弟のような年齢差に感じられました。
死んだ判官の着物を整えてあげる由良之助の手の優しいこと…。
きっと判官にとって由良之助は最も頼りになる家臣であり、また兄のような存在でもあったのではないかな…。

評定で若侍達を諌める場面の吉右衛門さんも、ほんと大きい。
筋書で仰られているとおり、「この人に任せておけば大丈夫」という安心感のある由良之助。
心の中で何度「立派だなぁ…」と呟いたことか。
そして立派なだけじゃなく、情が深く、どこか色気まであるなんて。
ほんと吉右衛門さんって世界遺産だわ。。。。。

そして襖を払って現れる、ズラリと家紋が並ぶ千畳敷の迫力。
これこそ、この演目の要となる光景だと思う。
このためだけでも仮名手本は一度は一階席で観るべき。
舞台上の彼等と共にこの眺めを見て初めて、武士にとっての「お家お取り潰し」とはどういうことなのか、わかった気がした。
先祖代々続いた「家」が一夜にしてなくなった、その意味が。
その瞬間に立ち会うことになってしまった者達の想いが。
そしてその筆頭家老が、由良之助であるということが。
長い歴史の重みと、彼らの体温をともなった生活の思い出がひとつに重なる、観る者を感動させずにおかない名場面だと思います。

家臣達が去った後、二度と戻ることのない真っ暗な門の前で張りつめていた糸が切れたようにどっと膝をついたとき、手に触れた判官の刀。
その切っ先に付いた血を飲み、袖ごと刀を胸に抱き締める姿のなんと壮絶で美しいこと。
「さてこそ末世に大星が忠臣義臣の名をあげし 根ざしは斯くと知られけり…」すべてはこの夜に始まったのだ。
この夜の由良之助の孤独な決意が、涙を流し一人花道を歩くその姿が観客の心を捉えて離さず、十一段目まで続いていくのだと思います。
この場面も、やはり一階席から観たいところ。由良之助と全く同じ目線で、次第に遠ざかってゆく館の門を感じることができるからです。
彼が感じている江戸の夜の空気を私も同じ場所で吸い、その寂寥感を苦しくなるほど肌で感じる、そんな錯覚を覚えた幕切れでした(正確には江戸ではありませんが。ああ歌舞伎の世界観って面倒な)。
これを書いている今も、あの花道の由良之助が脳裏に焼きついて離れません…。
吉右衛門さんが四段目をされたのって、筋書によると18年ぶりなのですね。こんなにこんなに素晴らしいのに、なんともったいない。
まさか次回は18年後ってことはないですよね…!?(てか18年後って・・・・・・・・・)

この段は、若侍達もよかったです。
キレのある動きが綺麗でしたし、声もよく、血気に逸る様子がとてもよく出ていました。
あと亀三郎亀寿が同じような衣装で並んでいる姿を見て、この二人ってやっぱり兄弟なんだなぁ、と。よく似てますね^^

それと梅枝の力弥も、若い少年の美しさと必死さが出ていてよかった。
菊五郎さんとのあやしくも悲しい別れも、吉右衛門さんとの息の合った親子ぶりも、文句なし。
先月とは全く違った雰囲気で、演じ分けも出来ていて素晴らしい。
梅枝はどんな役をやっても安心して見ていられるなぁ。この歳ですごいことだわ。


【浄瑠璃 道行旅路の花聟】
一転して、すべての元凶カップルの道行。
梅玉さん&時蔵さんも、色気があっていいですねぇ*^^*
先月の千本桜の道行カップルと異なり、こちらはそれは悲愴な感じ。勘平など道端で思い余って腹切ろうとするし。
実際、心境としてより悲惨なのは勘平の方だろうと思います。ひたすら一途に義経を追いかけている静と異なり、勘平は自身の軽率さが原因で、「自分がお側に付いていながら…」どころか側にさえおらず、しかもその理由が「色にふけったばっかりに」ですからねぇ。色男ならではの憎めない理由ではありますが、本人の自責の念は相当でしょう。
そんなちょっと目を離すとすぐに刀に手をかける勘平を、ぐいぐい引っ張っていくお軽が頼もしくも健気。
お軽は勘平が大好きなので、死んでほしくなくて必死です。切ない。。。
もっとも、本当はこのお軽こそすべての元凶なのですけどね。「大事なお仕事中には渡さないで」という顔世の言葉に従わずにさっさと手紙を渡しにきちゃったわけですから。
でもお軽からその事情を聞いていながら、深く考えずに手紙を判官に渡した勘平も勘平ですから、似たものカップルだと思います。
時蔵さんのお軽、勘平のことが好きで好きでたまらない感じが伝わってきて、とてもよかった。
歌舞伎の女方って、一見気が強いのに可愛らしい健気な女性が多いですよね。今も昔も男の理想なのでしょうか、笑。
でも決して暗くはなく、華やかで素敵でした
梅玉さんの勘平も、お軽にぐいぐい引っ張られっぱなしなのだけれど、伴内が来たときにはさっと彼女を庇うように後ろに隠すところなんて、すんごくカッコよかった 
若狭之助、勘平、平右衛門と、今月は色々な梅玉さんが見られて、私は幸せです!
ああもう、梅玉さん大好き!
もちろん時蔵さんも大好き!
品と色気、万歳!
團蔵さんの伴内も、先月に続き抜群の安定感でございました♪

そうそう。幕が開いて吃驚したんですけど、この道行って春の夜の設定なのに完全に明るい昼間の背景なのですね
四段目の後でまた夜の景色は遠慮したいので嬉しいですけど、これほど思い切り設定を無視しちゃう演出も面白いなぁと思いました。鶏の鳴き声が二重に場違いに、笑。
でも夜明けの道行というのも観てみたいなぁ。
そういえば大序の黄色い銀杏も、季節感完全無視ですよね。話の時期は如月下旬なのに。銀杏といったら黄色だろう!その方が綺麗だろう!といったところでしょうか。さすが歌舞伎笑。


夜の部の感想

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