風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

吉例顔見世大歌舞伎 @歌舞伎座(11月3日、23日)

2017-11-23 22:30:37 | 歌舞伎


※23日に「直侍」と「五、六段目」だけおかわりしてきたので(ムリクリ予定に捻じ込んだ)、青字で追記しました。今気づきましたが、今日は「いいにざの日」なんですね。昨年のこの日も歌舞伎座でにざ様観てたな~。

だいぶ遅くなりましたが、今月は忙しくて感想が追いつかず。。。。。今後はこういう異常な観劇スケジュールはやめよう。。。

今月は歌舞伎に行ける日が本気でこの日しかなく、行ってきました。
体力温存のため朝イチの鯉つかみは観られませんでしたが(ゴメン染ちゃん。ていうか今月が染ちゃんとしての最後の公演なのだそうですね!)。

というわけで終日かけて吉右衛門さん→菊五郎さん→仁左衛門さん→藤十郎さん→幸四郎さんの各主役で観た今月の歌舞伎座。
ムリヤリでも時間を作って行って本当によかった。。。。。

今月の歌舞伎座はぜっっったいに観ておくべき

それぞれの役者さんの掛け替えのなさを、もちろん知ってはいたけれど、改めて思い知らせていただきました。これが大歌舞伎だよねえ。
どうか長生きしてください。。。
今この世代の役者さん達からしか見せていただくことのできない一つの到達点(ご本人達は芸に到達点などないと仰ると思いますが)は、何物にも代えがたいものだと今月の歌舞伎座で改めて心の底から感じました。

【奥州安達原】
今月の歌舞伎座は、季節を先取りするデザイン業界のごとく、既に冬~春。雪のお芝居をこよなく愛する私には嬉しい限りです
最初の場面で、屋敷の庭へと斜めに吹き込む雪がとても綺麗だった。風を吹かせてるのかな?

雪のお芝居なので、黒衣ならぬ白衣さん達

娘のお君ちゃんの衣装(紫地にピンクの花柄)が素敵。髪型も
この子役ちゃん、賢そうで自然でよかったな。子役って大事。

孫の声にはっと反応する爺(歌六さん)&婆(東蔵さん)。
爺に隠れて、寒さに震える娘と孫へ打掛を投げかける婆。
寒さのなか自分の上着を母の袖萩(雀右衛門さん)に着せてあげるお君ちゃん。
温かいなぁ。。。最近こういう家族の愛情に弱くて。。。

白梅の刀。あの丸っこい剣先はなに?まさかあれで腹切るの?と思っていたら、ほんとうにグサっ!歌舞伎の様式美とはいっても何か意味があるはず・・・。調べたら、貞任&宗任兄弟の親である安倍頼時の形見の折れた矢の根なんですね(台詞でちゃんと言ってたかもしれないけど^^;)。用意したのは貞任で、白梅を切腹の赤い血で染めろ、という意味とのこと。

貞任(吉右衛門さん)の登場から雰囲気がガラリと変わり、前半と後半で違う話のように笑。
このお芝居、舞台の色の使い方がすっごく素敵!
白い雪、白梅の枝、源氏の白旗を汚す赤い血の短歌、貞任が内に隠し持つ赤旗。こういう歌舞伎の様式美って本当に素晴らしいと思います。
でもそれは体現できる役者さんがいてこそ。
吉右衛門さんは衣裳を脱いだり着たりは大変そうだったけど、見得や型の数々がほんっと絵になる!The 歌舞伎!最後の赤旗の豪快な見得、すんごい素敵でした。吉右衛門さんは「歌舞伎は芸術」と言い切っておられますが、こういうのを観ちゃうと、本当に芸術だと感じます。

【雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち) 直侍】
続いてのお芝居は、「歌舞伎はお遊び」と言い切る菊五郎さん。そんな菊五郎さんが大好き!ですが、でも菊五郎さんの存在感と至芸は、もう芸術としか思えないレベルですよ~。
改めて、菊五郎さんは黙阿弥が似合いますね~
雪道の歩き方、火鉢を跨いでパタパタ(食事処であんた笑!)、廓での袖口や頬かむりの乾かし方。ああ、冬だなぁ。。。(春の雪ですけど) いい役者さんの演技って、この場面に至るまでの時間が目に見えるように感じられるんですよねぇ。
もう何十回も書いてしまっていますが、こういう江戸っ子な空気を出せる歌舞伎役者は今後現れるのだろうか・・・。

このお芝居はとにかく蕎麦が食べたくなる。江戸前の醤油の濃いやつ。

蕎麦屋を出て、戸口で傘ぱっの姿の超絶な美しさ!からの廻り舞台を歩く姿!動きは自然極まりないのに、瞬間瞬間の全てが絵になる菊五郎さん。なんてキレイなんだろう。春信の雪中相合傘の男性を思い出しました。
暗闇の中の雪の明るさと、蕎麦屋の看板の灯り。いいなあ、江戸の夜。。。

場面が変わって、廓のセットも可愛い 桃色の座布団、雪をかぶった庭の紅梅、襖絵の白梅。
基本クール属性の時蔵さん(三千歳)は、菊五郎さんと一緒だと途端にすごく色っぽくて可愛らしくなりますよね。本当に鉄壁のカップル。後半の長いキマリの数々も、この色っぽい二人だと観ているだけで楽しい。そして追手に追われた直次郎が最後に三千歳に向けて「もうこの世じゃ会わねぇぞ!」→花道バタバタがものすごくカッコイイ!ああ、この爽快なのに濃厚な空気。。。菊五郎さーーーーーーん

※11月23日感想:
菊五郎さんは江戸歌舞伎の宝!!!いやニッポンの宝!!!(すでに国宝だけど!)
型の存在を全く感じさせない自由さ、の上の美しさ。色っぽさ。この空気を出せるのは菊五郎さんだけ。
時蔵さんもほんっと素敵。部屋に飛び込んできたときの可愛らしさ、健気さ、「直はん」って直次郎に甘える色っぽさ。それをサラリと受け止める菊五郎さんの格好よさ!もうほんっと今の歌舞伎界のベストカップルじゃないでしょうか、このお二人は。あのラストも素晴らしすぎて言葉がないです。私が生きているうちにこれ以上の直侍を観られる気がしない。。。

【仮名手本忠臣蔵 ~五段目、六段目~】
勘平って改めて二枚目しかやってはいけない役ですね。
やつれた美しい二枚目。外見的にも完璧な仁左衛門さんの勘平。
もっとも最初の頃は、「二ザさまは真面目だからうっかり仕事を放っておかると色にふけっちゃうような男には見えないなぁ」とか、「孝太郎さんともやっぱりラブラブカップルには見えないなぁ」とかも思ったりして、正直ニンかと言われればどうなんだろ、とかも思っていたのだけど、二人侍が来るあたりからはもう圧巻…!
五段目の仁左衛門さんの勘平は菊五郎さんのように最初から半分あちらの世界に足を突っ込んでいるような透明感が強くないから(もうちょっと此方側の世界に近い場所にいる感じに見えた。菊五郎さんほど武士への想いは強くないけど、仇討ちへの想いの強さは同じ)、六段目の「殺したのは親父様だったなんて勘平吃驚」(実際は違うけど)からの急展開が可哀想で・・・。渡したお金を返されたときのショックなお顔・・・。
泣かないで~~~~ニザさま
「色に耽ったばっかりに」ははっきりと二人を気にする表情をするんですね(芸の細かいニザさん)。菊五郎さんはここはサラリと流していた気がする。ここ、よく解説とかで「はにかむ」と書かれてて、はにかんでる場合デスカと思っていたのだけど、仁左衛門さんのは「ついぽろっと言葉が出てしまい、はっと二人侍に対して気まずく感じる」という風で、自然に納得できました。
ここの長台詞場面は・・・もう・・・
そしてそして最後の微笑!仁左衛門さんって『すし屋』のときも思ったけど、内容(このときは仇討に名を連ねて死んでいく安堵感でしょうか)とは別に「この世界から解き放たれた」感も感じるのよね。嬉しそうにあっちの世界に行っちゃうニザさん。。。まだまだまだまだこちらの世界にいてくださいませ。。。。。
観終わった後は、しばらく呆然としてしまいました。

秀太郎さん(お才)の酸いも甘いも噛み分けた感、良い~~~。秀太郎さんってこういう廓の人間の空気がほんっとにお似合い。

彦三郎の千崎は仁左衛門さんの勘平には若すぎるような気も。そういえば今回の千崎は五段目で勘平の住所をメモらないで暗記しているんですね。十三代目仁左衛門さんが「あれくらい書かないで覚えないとおかしい」と仰っていたと読んだことがあるけど、上方風なのかな。

※11月23日感想:
今日も仁左衛門さんは美しかった(白い指の先まですべてが美。浅黄色もお似合いすぎ)&変わらず熱演だった。。。。。。。。。。

六段目ももちろんよかったのだけど(やっぱり切腹後の長台詞場面は最高。そして今回も最後はニザさんが本当にこのまま死んじゃうんじゃないかと思った・・・)、今日は五段目もよかったなぁ。仁左さま、お若い。完全に2~30代。でも実際にその年齢の役者には絶対に出せない芸の深み。
今月2回観て、勘平が仁左衛門さんのニンかというとやっぱり私にはちょっと違うように思われるのだけど(例えば直侍の菊五郎さんなどは完全にニンだと思う)、そういうお役をここまで素晴らしく演じることができるものなんだということを、今月の仁左衛門さんから教えていただきました。若い役者さん達にはみんな今月の勘平を見ておいてほしい。
あと今日気付いたのは、彦三郎(千崎)が、六段目で勘平への情が感じられてぐっときました。あそこであれくらい情を見せてくれると、感動的な舞台になりますね。
そして今日も、松之助さん(源六)&秀太郎さん(お才)のお二人がとてもよかった
あ、孝太郎さん&仁左衛門さんも、今日は二人に愛情が感じられてよかったです。でも私にはこのお二人はやっぱり夫婦や恋人には見えないのよね・・・。
今日の夜の部は貸切だったのですが(伝統芸能を守る会だったかな?前にも一緒になった)、大向こうさん達の威勢がよくて楽しかったです。皆さんバラバラの席なのにタイミングがピッタリに「まつしまや!!!×5」な感じで笑。思わず笑ってしまった。
ところで仁左衛門さんのニンなお役ってなんだろう、と帰りの電車の中で考えてみたのです。で、私がニザさまのニンだと感じるお役は、伊左衛門@廓文章(これは外せない)、盛綱@盛綱陣屋、菅丞相@菅原伝授、綱豊卿@御浜御殿、とかかなぁ。あ、お坊吉三@三人吉三も好き。伊右衛門@四谷怪談も、右京@身替座禅も(あの花道の色っぽさ!)、鳶頭@お祭りも!・・・キリがない(^_^;)

【恋飛脚大和往来 新口村】
素晴らしかったです。
もう、なによりも藤十郎さん(忠兵衛)の趣!!!
私は藤十郎さんのお役で一番好きかもなのが封印切の忠兵衛なので(なにせ舞台写真を買ってしまったほど)、あの続きの場面が観られて本当に嬉しかった(今回も梅川は扇雀さん)。頼りなくて情けなくて、でも、なんていうのか、言葉で説明できない近松の空気。前にも書きましたが、こういうお役の藤十郎さんが纏っている空気って文楽の空気を思い出させてくれるんです。

白の雪に、黒の衣裳(柄は白梅で梅川とペアルック)。格子の隙間から覗く横顔。あまりに美しい絵なので、舞台中央の人達よりもずっと藤十郎さんを目で追ってしまっていました。藤十郎さんってどんなときも舞台上でピンと気がはりつめているように思う。一瞬でも気を抜いている藤十郎さんって私は見たことがありません。
家の戸から覗く白い手。この手一つまで絵になる。この白い手がね、長時間微動だにしないんです。戸も動かないの。これ、藤十郎さんのご年齢では大変なことだと思うんです。だれか代役の方がやってるのかしらと思ったけど、その手で戸を開けて飛び出してきて孫右衛門と抱き合ってて、ああ代役じゃなかったんだ、と。この飛び出し方も胸にぐっときました。

最後に孫右衛門が手前から見送り、二人が奥へと歩いて消えてゆく道行場面の美しさといったら・・・・・・・・・・・。ここ、歌六さんも素晴らしかったです・・・・・・

周りの客は「ウトウトしちゃった~」と言ってる人も多かったけど、これは絶対に今月観ておくべきお芝居の一つだと思う。藤十郎さんのご年齢を考えると、夜の部で一つ選べと言われたらこれかも、というくらい。

【元禄忠臣蔵 ~大石最後の一日~】
これは幸四郎さんのお役で大好きなものの一つなので、観るのはさよなら公演、杮落し公演に続いて三回目です。幸四郎さんの内蔵助は心の優しさが感じられて好き。
「この内蔵助は最後の一瞬時のその時まで四十六人の足取りを見届けねばならぬ役目だ」は、今回もここで泣きそうになった。当然なんだけど、一番辛い役目だよねぇ…。ただ、最後の七三のセリフはあんなにクサく言ってたっけ…?(いや別に悪くはないんだけど)。

児太郎くんのおみのは、男として登場したときに完全に男声(女は絶対に出ない声)で微妙に感じられたけど、後半に登場した後の演技はとっても良かった。染五郎(磯貝)とも合っていて、二人の悲劇性が伝わってきて感動しました。

内記は、金太郎くん。今月は高麗屋三代勢揃いです。金太郎くん、大人になりましたね~!でもこの場面は、前回観た隼人の方がぐっときたなぁ。

今回、紅い梅の花びらが散っていなかったような(見逃した?)。

荒木十左衛門は仁左衛門さん。先程あれだけの熱演をした後に、お疲れさまです。。。早くおうちに帰って休んでいただきたい。。。
しかし随分と美しい上使だわ。このお役は我當さんが温かくて大好きだったのですけど(我當さん、お元気かな…)、仁左さまもすっきりしていて、でも情が感じられてとても良かったです。俊寛のときの都からの遣いとか、仁左さまのこういう役が好き