ひさしぶりの文楽。第三部に行ってきました。
【鶊山姫捨松(ひばりやまひめすてのまつ)~中将姫雪責の段~】
幕が開くと、雪の庭に紅梅と白梅。空から降る雪。
私の好きな”雪のお芝居” 文楽の舞台って本当に綺麗。。。。。
同じかしらなのに性格が異なるのがちゃんとわかる桐の谷(一輔さん)と浮舟(紋臣さん)。
後半は舞台が変わって、雪の庭での中将姫の雪責め。
中将姫(簑助さん)が上手袖からよろよろのていで登場した途端に、舞台の空気が一変する。というより、中将姫の人形の周りだけ空気がはっきりと違う。人形が「生きている」。
毎度経験していることながら、登場の瞬間からこれだけのものを観させられてしまうと、改めて簑助さんという人形遣いの特別感を痛感しないではいらない。この「まるで生きているような」人形の動きを他の人形遣いさん達はしたくてもできないのか、敢えてしていないのか、それがいまだに本当にわからないのです。それくらい簑助さんの人形だけが全然違う(そういえばyoutubeで観た先代玉男さんの人形も、同じように「生きている」ようだったな)。
簑助さんの人形って、息遣い(その呼吸もただ規則的なんじゃないの…!)だけでなく、あらゆる動きが驚くほど自然なんですよね。「まるで人間みたい」というのともちょっと違って、「人形自身が魂をもって生きているよう(人形遣いの魂が人形に入っているよう)」に感じられる。何かにはっと反応する動きの表情とか、あまりに自然な感情が感じられて、いったいどういう風に遣うとこうなるのだろうと(しかも三人で!)。
これは簑助さんの人形を見ていていつも感じることなのだけれど、たとえば上演中に突然火災報知器などが鳴ったとして、その瞬間に簑助さんの人形だけは人形が反応するのだろうなと。他の人形達は反射的に人形遣いさんだけが反応するのではなかろうかと。実際にどうであるかは別にして、そういうような違いを感じさせるのです。人形遣いの心と人形の体が乖離していないから、人形遣いと人形が一体になっているから、人形のどんな動きも自然で、不自然な動きが一つもない。こういうものを前にすると至芸という言葉も生温く感じられてしまう。
加えていつも素晴らしいなと思うのは、ただリアルに演じているだけではなくて、型として魅せる華やかさがあること。
姫の健気さ、可愛らしさ、凛とした意思の強さ、清廉さ、透明感。のレベルが物凄いがゆえの神々しさ。
簑助さんの芸って本当に唯一無二だ。。
そして簑助さんご自身はいつも無表情なのだけれど、人形が可愛くて仕方がないのだろうなあという愛情も伝わってくる
靖太夫さん(前半)&千歳太夫さん(後半)、よかったように思います。玉也さんの父ちゃんも温かい感じが出ていてよかったな
【壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)~阿古屋琴責の段~】
特設サイトのインタビューで勘十郎さんが「阿古屋」をー_ _と発音されていて、津駒太夫さんは_ーーと発音されていて(浄瑠璃の中の発音もこっちですね)、なんだか人形遣いさんと太夫さんの違いのようなものを感じて面白かったです。
中将姫の強い余韻が残るなか阿古屋は少々ぼんやり気味で観てしまったのだけれど、勘十郎さんの阿古屋は切なさはあまり感じられなかったけれど、凛とした空気はいいなあと思いました。
そもそも私はいまだこの演目に切な系の感動をもてたことがなく。。歌舞伎で玉さまの阿古屋も観ているのだけれど。やっぱり歌の言葉の意味をもう少ししっかり勉強しないとなのだろうなあ。。
そのせいもあり私にはどうも人形が楽器を弾いている姿というものは見ていてそれほど楽しいものではなく・・・(床と手の動きがリンクしているのは凄いと思ったが)、それよりは床近くの席から人間の実際の楽器の演奏を間近で見て&聴いている方が楽しく感じられてしまって、演奏中は殆ど床を観ていたという邪道な観客になっておりました。小劇場は歌舞伎座よりも音の響きが美しいですねえ
胡弓の演奏をあんなに間近で観た&聴いたのは初めてではなかったかしら。でも感動という意味では、中将姫で裏から流れてきた胡弓の使い方の方がしっとり泣いた。ということは、やっぱり私はまだ阿古屋という演目からそういう種類の感動を得られる域には達せていないということでしょう。
三曲を担当された寛太郎さんが琴などの楽器を弾いてるときも、伴奏で清介さん達の三味線が入ってきて、その合奏が楽しかったです。
そういえば三味線の寛治さん、昨年9月に亡くなられたのですよね。89歳とのことなので大往生ではあられますが、清治さんとはまた違うタイプの豊かな表情の音色の方だったなあ。太夫の声はもちろんだけれど、三味線弾きさんも亡くなられるともう同じ音色は聴けなくなってしまうのだな、と当たり前のことを今更ながら感じたのでありました。寛太郎さんは寛治さんのお孫さんなんですね。
そうそう、一年半文楽から離れているうちに、咲甫太夫さんが織太夫さんになられていた。今回は重忠をご担当。でもやっぱり私はちょっと苦手でした。。
幕間に小腹が空いたので劇場の売店で杏の砂糖がけを買ってみたのですけど、美味しかったです
特設サイトより。昨年11月の文楽劇場のお写真。