風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

フェリ、ボッレ&フレンズ Aプロ @文京シビックホール(8月1日)

2019-08-03 15:24:33 | バレエ



Aプロ3日間のうちの2日目に行ってきました。

― 第1部 ―

「カラヴァッジオ」
振付:マウロ・ビゴンゼッティ
音楽:ブルーノ・モレッティ(クラウディオ・モンテヴェルディより)
メリッサ・ハミルトン
ロベルト・ボッレ

カラヴァッジオの絵画って決して綺麗なだけのものではないけれど、この作品はそんな彼の中の純粋な綺麗な部分を見ているような、そんな感じがしました。音楽もそういう風でしたし。彼が最後まで手元に置いていたという『法悦のマグダラのマリア』を思い出したりして(あれもただ美しいだけの絵ではないよね)、彼はどういう気持ちだったのかな、とかそんなことをとりとめもなく思ったりしながら、イタリア絵画から抜けでてきたような美しさの舞台上の二人を観ておりました。人間の身体って本当に美しいねえ。
ハミルトンってその肉体からもっと体操選手ぽい踊りをする人なのかなと勝手に想像していたのだけど、決してそれだけではなく、ボッレとのコンビがとてもよかったです。ひとつの完璧な美の世界だなあ、と。

「フォーリング・フォー・ジ・アート・オブ・フライング」
振付:ナタリア・ホレチナ
音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ

初めて彼らを観た『シルヴィア』のときと同じく、作品の内容はわからないのに(今回はプログラムを買っていないのです)、感動してしまう二人の踊り。
リアブコがアッツォーニを腕に抱く一瞬のタイミングとかに(腕の出しかたの速度とか角度とか)、不意打ちのように心臓がぎゅっと掴まれて、それが心と瞼の裏から離れなくなる。絶対に冷静に計算されてやっている動きのはずだけれど、彼自身の心や魂から出た動きにしか見えないあの感じは、数いるダンサーの中でもリアブコに特に強く感じるもの。仮にぼーっと観ていたとしても、はッとさせられて魅了されてしまう。
そしてアッツォーニ。あの小さな身体の全身から発せられる強烈な表現力!ミューズの清らかさ!リアブコにとって彼女は”光”なのだろうな、なんて感じながら観ていました。
視界に入っていなくても互いが見えているような鉄壁のパートナーシップは、今更言うまでもなく。
本当に、奇跡の夫婦ですよねえ。こちらもひとつの完璧な美の形だなあと思いました。

『カラヴァッジオ』とこの作品を続けて観て、ベジャールの『ライト』を思い出していました。一人の人間と、その”光”。

「ボレロ」
振付:ローラン・プティ
音楽:モーリス・ラヴェル
上野水香
マルセロ・ゴメス

水香さんの踊りを見るのは二度目なのだけど(一度目はベジャールの第九)、ファンの方ごめんなさい、やっぱり私は彼女の踊りが苦手なのだと再確認してしまった…。リアブコと逆で、魂から出ている動きに見えないと言うか…。プティってフランス的なお洒落さが特徴らしいので(そして水香さんがお気に入りのダンサーだったそうなので)それでいいのかも?とも一瞬考えたのだけど、いやいや軽いお洒落さと魂からの動きは両立するよね、とルグリ&ゲランの『こうもり』を思い出したり。また水香さんの表情や動きが"相手を挑発しながら可愛らしく誘っている"ようにしか見えなくて…。この作品の女性ダンサーはあまり甘さや女くささを感じさせないで躍る方がいいように思うのだがなぁ。
とはいえ、ゴメスもこの作品に合っているかというと???。敢えていうなら、小悪魔風な水香さん&可愛らしさいっぱいのゴメさんのキッチュな二人、みたいに観るといいのかもしれないが、それも変化球すぎるような 
踊り手を選ぶ作品なのだなあ。もっともSNSの評判は絶賛の声が多いので、私にはピンとこなかったというだけなのですが。

― 第2部 ―

「アミ」
振付:マルセロ・ゴメス
音楽:フレデリック・ショパン
マルセロ・ゴメス
アレクサンドル・リアブコ

こういう振付をするなんてゴメスは本当に純粋で可愛い人なんだなあ(知ってたよ!)
ノイマイヤーが『明日に架ける橋』なら、こっちはショパンじゃなく大塚愛の『さくらんぼ』とかはどうだろう(あれは恋愛ソングって?いいと思う!)。だれかこのジャパニーズポップスをゴメさんに教えてあげてください。
カテコではリアブコからゴメスへ投げキッス めっちゃ嬉しそうなゴメたん めっちゃ嬉しそうな客席笑

「クオリア」
振付:ウェイン・マクレガー
音楽:スキャナー
メリッサ・ハミルトン
ロベルト・ボッレ

クラシック音楽の演奏でも時々あるけど、心を感じさせすぎない人間くささを出しすぎない良さってあるよね、とこの二人の踊りを見ていて思うのであった。
いい意味での軽さと明るさ。スタイリッシュで美しかった!
二人のパートナーシップはここでも完璧でした。

「アルルの女」
振付:ローラン・プティ
音楽:ジョルジュ・ビゼー
シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ

SNSでリアブコのフレデリに彼の『ニジンスキー』を思い出したという感想が多いけれど、それは狂気の踊りだからというだけでなく、彼から”アルルの女”への生々しい恋情があまり感じられないからではなかろうか、と。
彼の目が見ているのは"アルルの女”という生身の女の姿ではなく、既にこの世のものではない何物かに感じられた。生身の人間への恋情によってではなく、自分の閉じられた世界の中で狂っていっているように見えた。そういう意味でニジンスキーの”神との結婚”を思い出させた。
でも”狂気”とは本来そういうものかもしれない、とも思ったり。生身の人間をその人として認識できているうちは狂ってはいないのかもしれない。
そういえば熊哲の『カルメン』のドン・ホセも、最後は相手がどういう人格の女性であるかはもう彼にとっては関係がないのだなと感じたものだった。
世のストーカー達もそうよね(なんて思ってしまうと無邪気に感動しにくくなるが

一方、同じくそこにいない相手への想いに狂う踊りでも歌舞伎の『保名』は違うのよね(生ではニザさまのしかみたことがないけども)。その踊りからあの小袖を着ていたであろう女性の姿が見える。何が違うのかなと考えると、保名は相手の女性とちゃんと純粋な恋人同士だったのよね。一方カルメンやアルルの女はファム・ファタルで、想いは男の一方通行。

このフレデリがヴィヴェットにはどうしようもできない場所にいる存在に捕われているように見えたもう一つの理由は、リアブコとアッツォーニが相変わらず物凄いパートナーシップなので、もし相手がこの世の存在ならアッツォーニが負けるわけがないでしょう、と感じてしまったからでもありました。

それにしてもリアブコのしなやかで美しい踊りよ。。。。ラストのマネージュ?の既に彼の心がこの世にないことがわかる、あちらの世界に行ってしまっているとしか見えない速さ、軽さ。こんなに魅せる踊りが他にあるだろうか。ああ、大好きだ、リアブコの踊り。
そしてアッツォーニの恐ろしいほどの表現力!!!彼女のヴィヴェットの健気なこと、美しいこと、崇高なこと。これまで何度彼女の踊りに平れ伏したくなったことか。リアブコを見ていたくてもアッツォーニからも目が放せなくなってしまうのも、毎度のこと。
本当に、奇跡の夫婦であるなあ。。。。。。尊い。。。。。。
カテコのリアブコの仕草にはいつもアッツォーニへの深い敬愛が感じられて、この姿にも毎度感動してしまう。

― 第 3 部 ―
「マルグリットとアルマン」(全幕)
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:フランツ・リスト
マルグリット:アレッサンドラ・フェリ
アルマン:ロベルト・ボッレ
アルマンの父:マルセロ・ゴメス
公爵:アレクサンドル・リアブコ   他

フェリのマルグリットが切ないなあ……
静かな芯の強さと、アルマンへの純粋な愛情と、ふと一人見せる弱さと…。
『椿姫』といったらショパンでしょと思っていたけれど、リストもいいねえ。彼女のマルグリットが静かなメロディーのところとすごく合っていて、これからこの曲を聴くとフェリを思い出しそうだ。

そしてそして、ゴメスのアルマンパパが優しそうでダンディーでめっちゃ素敵
ノイマイヤー版でもパパとの場面が大好きだけど、アシュトン版のこの場面もいい~。
ゴメスパパ大人だしカッコイイし(足腰の弱った演技してたけど隠しきれない素敵さ)、マルグリットはパパと一緒になればきっと幸せになれるよ、と心の底から思ってしまった。二人の間の空気の濃密なこと!

でもやっぱり彼女はアルマンのことを愛しているのだなあ、とパパが帰った後にアルマンが来たときのフェリを見て思うのであった。
何も知らずにソファで無邪気に寝てしまうアルマン。この無邪気さがいいわ~。ボッレのアルマン、正直マルグリットに対する執着の強さはあまり感じられなかったが(爽やか君なアルマン)、44歳でこの屈託のない青年ぽさは素晴らしい!年下のゴメスと全く違和感なく父息子に見える奇跡!!(ちなみにフェリは56歳…!)
アルマンには辛い本心を隠して微笑み、彼から見えないところでふっと笑みが消えるマルグリット。フェリがマルグリットにしか見えない

舞踏会で札束渡されてからの、再びの病床場面。ダンディーなの来た!と思ったらアルマンパパagainではないですか。
アシュトン版はパパが最後に付き添っているのか!しかも息子を呼んであげる?のか!
youtubeでいくつか観たラストシーンのPDDは「ちょ、アルマン、瀕死のマルグリットをそんなにぶんぶん振り回したら死期を早めちゃうでしょうが!」と感じたのだけど、今日の二人にはそれは感じなかったな。フェリのマルグリットは本当に死にそうで、でも二人のPDDには最後にもう一度アルマンに会えたマルグリットの深い喜びと愛情の方を強く感じたから。死はもうあまりにも近くに来てしまっているから、だから二人でいる今この瞬間が彼らにとって何よりも大事なんだとフェリを見ていて感じられたから…。

ピアノは、今回SNSで袋叩きにあっているフレデリック・ヴァイセ=クニッターさん。パリオペの来日の椿姫を弾いた方ですね。他には、私は行っていないけれどWBF2018もこの方だったそうです。今回の強音部分の盛り上がりや速い部分には満足したとは全く言えないけれど、弱音部分の甘く静かな美しさは私はとてもよかったと思いました。そもそもこのリストのロ短調ソナタを私が実演で聴いたことがあるのは色んな意味で滅茶苦茶なポゴレリッチの演奏だけで、そのポゴさんの演奏が好きだったりする私は「ポゴさんの伴奏だったらどんな感じになったのかなあ」と観ながら想像してみたのですよ。速攻で「無理だわ、あの演奏じゃダンサーは踊れないわ」と思いましたです。なので今日の演奏にそこまでの不満は私はないです。そんなことよりフェリが素晴らしかったという印象の方がずっと強い。
ちなみに公爵はリアブコでした(細かい演技してくれてた!)。豪華配役 冒頭の病床のマルグリット役(フェリはすぐ後に赤いドレス&アップの髪型で出てくるのでこの場面は代役が踊っている)は、東京バレエ団の沖香菜子さんだそうです。

全員でのカーテンコール。ゴメス&リアブコは『マルグリットとアルマン』の老けメイク&衣裳のまま『アミ』の振付で踊りながら登場(アミの振付だったことはツイで知った)。可愛すぎる親父達 素晴らしいダンサーばかりが並ぶ綺羅星のような(最後にみんなでクルっと回るように?キメたところの美しさ!)、でもこういう公演ならではのとても温かなカーテンコールでした ボッレ、フェリ、ゴメス、リアブコ、アッツォーニ、ハミルトン、水香さん、幸せな真夏の夜をありがとう。

Bプロのリアブコ&ボッレのOpus100にも心惹かれるけれど、以前に観たリアブコ&イヴァン・ウルヴァンのハンブルクコンビでのそれに大満足させてもらっているので、今回はこれで終わりとします。最近のワタクシのモットーは「足るを知る」なのである。


追記:「衣裳・セットは英国ロイヤル・バレエ団からお借りしています。」とのこと by NBS twitter。へ~。

♦上演時間♦

第1部 19:00 - 19:45
休憩     15分
第2部 20:00 - 20:35
休憩     20分
第3部 20:55 - 21:30

※エンタ・ステージ:ロベルト・ボッレ「『フェリ、ボッレ&フレンズ』は本当に特別な公演」
※Alexandre Magazine:Issue 006 マルセロ・ゴメス&上野水香 独占潜入 『ボレロ』ができるまで
※Alexandre Magazine:Issue 007  アレクサンドル・リアブコ&シルビア・アッツォーニ 至高の芸術家の終わりなき旅
※Alexandre Magazine:アレクサンドル・リアブコが語る、バレエと表現の関係とは。
※SPICE:“バレエ界のレジェンド”アレッサンドラ・フェリ&ロベルト・ボッレにインタビュー~『フェリ、ボッレ&フレンズ』まもなく開幕
※CLASSICA JAPAN:「フェリ ボッレ&フレンズ~レジェンドたちの奇跡の夏~」に出演するダンサーたちのリハーサルにお邪魔しました
※バレエチャンネル:「フェリ,ボッレ&フレンズ」リハーサルレポート vol.1 インタビュー:アッツォーニ&リアブコ
※バレエチャンネル:「フェリ,ボッレ&フレンズ」リハーサルレポート vol.2 インタビュー:上野水香
※バレエチャンネル:「フェリ,ボッレ&フレンズ」リハーサルレポート vol.3 インタビュー:マルセロ・ゴメス


おまけ
公演前に上野に寄り、シャンシャンに会ってきました。
猛暑のため10分待ち程度で、15時~16時の1時間で5回観覧できました。
相変わらず大きなぬいぐるみが動いてるようにしか見えない可愛らしさ


シャンシャン


シャンシャン


シャンシャン


シャンシャン


リーリー


シンシン


文京シビックセンターの展望台(無料!)より。
夕食は同フロアーにあるスカイレストラン椿山荘にて。かつカレーが美味でございました
窓からの眺めもいいし、+300円のドリンクバーにココアがあるのもポイント高し

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