漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

ニキビの漢方(谷川聖明Dr.)

2022年12月03日 21時32分18秒 | 漢方
WEBセミナーで「肌のトラブルに対する漢方治療」(谷川聖明Dr.)を視聴しました。
その中で、ニキビの治療にも言及していたので、
気になった点を備忘録としてメモしておきます。

勉強になった点として、
ニキビへの漢方薬を虚実で使い分けるという視点です。
私は今まで、
・急性期の赤ニキビ中心→ 清上防風湯
・元々アレルギー体質あり→ 荊芥連翹湯
・女性、月経困難症経口→ 桂枝茯苓丸加薏苡仁
くらいの使い分けでした。

<参考>
・医学雑誌「治療・2022年4月号」 p501-509

▢ ニキビの経時変化
 白ニキビ
  ⇩ 表面の酸化
 黒ニキビ
  ⇩ 炎症化
 赤ニキビ
  ⇩ 化膿
 黄ニキビ

▢ ニキビを訴える女性の虚実と対応する方剤
 虚証 荊芥連翹湯
 ⇩  十味敗毒湯
 ⇩  桂枝茯苓丸加薏苡仁
 実証 清上防風湯

▢ ニキビ4処方の特徴
荊芥連翹湯:どす黒いニキビ
十味敗毒湯:化膿したニキビ
清上防風湯:思春期ニキビ
桂枝茯苓丸加薏苡仁:月経に伴うニキビ

桔梗+甘草・・・化膿を止める
柴胡   ・・・炎症を抑える
防風+荊芥・・・祛風解表
黄連解毒湯+四物湯・・・清熱+補血

▢ 清上防風湯
・12種類の生薬からなる
(排膿)連翹、枳実
(排膿)桔梗、甘草、川芎
(清熱)黄連、黄岑、山梔子
(祛風解表※)荊芥、防風
 ※ 祛風解表:肌表のトラブルを改善する
・瘀血2、気滞2、気逆2、血虚1、気虚1、水毒1
・比較的体力が充実した人(実証)向け
・顔面頭部の皮疹で発赤が強く化膿しやすい場合に
・炎症を伴い赤く腫れ上がったいわゆる赤ニキビに
・思春期ニキビにしばしば用いられる

▢ 生薬としての“桔梗”
・宣肺作用:肺の呼吸運動をゆっくり大きくすることで、肺の気、津液の流れを円滑にして、胸部の仕えをスッキリさせる作用。この作用により、せきを鎮め、痰を除く。
・膿を出す作用:化膿性皮膚疾患の他、咽頭炎、扁桃炎、中耳炎などに用いられる。
・「船楫(せんしゅう?)の剤」:薬効をある部分へと誘導するという意味:他の薬の作用を上部の病変部に導く性質をもつ。

▢ 十味敗毒湯
・10種類生薬で構成
(排膿)桔梗、甘草、川芎
(祛風解表)荊芥、防風
・・・以上2つは清上防風湯と共通
(清熱・疏肝)柴胡
(その他)独活、茯苓、生姜、撲樕
※ コタロー漢方のエキス剤では、防風は浜防風、撲樕は桜皮を使用
・気滞3、気虚2、水毒2、瘀血1、血虚1、気逆1
・体力中等度(虚実間証)の人向け。
・諸種の皮膚疾患で、患部が化膿を伴うか化膿を繰り返す場合に用いる。
・散発性の皮疹に適応し、広い範囲に多発するタイプではない。
・柴胡剤であり、ストレスなどの肝の高ぶりにより悪化するニキビに用いられる。

▢ 荊芥連翹湯
・森道伯が創案した一貫堂処方の一つで、「万病回春」にある同名処方の加減方。
・温清飲(黄連解毒湯:黄岑、黄連、黄柏、山梔子と四物湯:地黄、芍薬、川芎、当帰)を含む。
・瘀血3、血虚3、気滞3、気逆2、気虚1、水毒1
・青年期の解毒症体質(≒アレルギー体質)に用いる。
・皮膚が浅黒く、精神的に敏感であり、手のひらや足の裏に汗をかきやすい人で、とくに炎症が慢性化した場合に用いる。

▢ 四物湯を包含するエキス製剤
・芎帰膠艾湯(金匱要略)
・七物降下湯(修琴堂創方)
・当帰飲子(済生方)
・温清飲(万病回春)
・猪苓湯合四物湯(本朝経験方)
・十全大補湯(和剤局方)
・大防風湯(和剤局方)
・疎経活血湯(万病回春)
・荊芥連翹湯(一貫堂創方)
・柴胡清肝湯(一貫堂創方)
・竜胆瀉肝湯(一貫堂創方)・・・コタロー製薬

▢ 解毒症体質
・皮膚の色は浅黒く、皮膚のキメが粗い。
・小児期から中耳炎、鼻炎、蓄膿症、扁桃腺炎など身体丈夫の炎症性疾患に罹患しやすい。
・筋肉質、やせ型で神経質の人が多い。
・手掌や足の裏は神経性発汗により湿潤しやすい。
・脈は緊で、腹は腹筋の緊張が強く、くすぐったがり屋である。

▢ 一貫堂医学 森道伯先生の「三大証と五方」
①解毒症体質:
・柴胡清肝湯(小児期):横隔膜周辺から中焦
・荊芥連翹湯(青年期):上焦から顔面
・竜胆瀉肝湯(壮年期):下焦
②瘀血証体質:
・通導散
③臓毒証体質:
・防風通聖散

▢ 生薬としての“荊芥”
・シソ科植物。シソに似た香りがあり、芳香が強いものほど良品とされる。
・発汗作用:体表の風邪を除く。
・風寒、風熱いずれの熱性疾患にも利用が可能。
(荊芥+防風)→ 風寒
(荊芥+薄荷)→ 風熱
・悪寒、発熱、頭痛、鼻閉、咽頭痛、関節痛などの風邪の諸症状や、鼻炎、扁桃炎、咽頭炎、結膜炎などに用いられる。
・かゆみ止め、透疹作用:失神や皮膚掻痒症に用いられる。
・止血作用:鼻出血、痔出血、下血などの出血症状に用いられる。

▢ 桂枝茯苓丸加薏苡仁
・実証向け。
・月経に伴うニキビに適応。
・桂枝茯苓丸(桂皮・芍薬・桃仁・茯苓・牡丹皮)+薏苡仁(利水・排膿)からなる。
・瘀血5、水毒3、血虚2、気逆2、気滞1、気虚1
・瘀血に対する代表的治療薬である桂枝茯苓丸に、消炎・排膿作用をもつ薏苡仁を加えた方剤。
・のぼせ、頭痛、肩こり、めまい、月経異常など瘀血徴候に加え、肌荒れ、肝斑、ニキビ、疣贅など皮膚症状を伴う場合に用いる。

▢ 生薬としての“薏苡仁”
・利水薬
・排膿作用
・四肢のむくみを取り除き、筋をゆるめる作用・・・関節や筋肉が腫れて痛むときの除湿にも用いられる。
・いぼを取る民間薬として知られている。
・いぼの治療に関する記載で最も古いものは貝原益軒が著した『大和本草』。

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