資料を探しても“小児”アトピー性皮膚炎についての記述は少ないのですが、前項の他にもう一つ見つけました。
■ チャート式皮膚疾患の漢方治療第9回「乳児湿疹(乳児アトピー性皮膚炎)」(「 漢方と診療」Vol.6 No.3, 2015:大竹直樹:海岸通り皮ふ科)
大竹先生は伝説の漢方皮膚科医、二宮文乃先生の薫陶を受けた方です。
二宮文乃先生はステロイド軟膏を使わずに漢方だけでアトピー性皮膚炎を治療してしまう達人として知られています。
私も数回講演を聴いたことがあるのですが、話が速くてついて行けずその度に消化不良を起こしてしまい、なかなかそのエッセンスを吸収できないでいます。
大竹先生の記述は二宮先生の診療の影響を多分に受けているはずなので、是非参考にしたいところ。
さて、乳児アトピー性皮膚炎に用いる代表的漢方処方薬一覧表が提示されています。
ここで気づいたことですが、前項の西村先生が使う漢方薬と共通する方剤が少ないこと。
6つのうち治頭瘡一方と消風散の2つのみです。
他は五苓散、人参湯、小建中湯、甘麦大棗湯と皮膚疾患に使うイメージが湧きにくい方剤群。
逆に言うと、ここにヒントが隠されているのかもしれません。
これらの薬をどのように使い分けるのでしょうか。
ちゃんとフローチャートが用意されていました。
標治と本治に分け、治療開始時は本治薬に標治薬を併用するという考え方には大いに頷けます。
はじめに皮疹改善を目標にした標治薬と体質改善を目標にした本治薬を併用し、よくなったら標治薬をやめていくというステップダウン法。
前項の西村先生は、本治薬から開始し改善が今ひとつなら標治薬を追加していくステップアップ法でしたから、逆のパターンです。
おそらく、私が二宮〜大竹先生の域になかなか到達できないのは「本治」を軽視しているからだと思います。
どうしても皮膚症状から離れられなくて、皮膚に効く生薬入りの方剤を優先しがち。
しかし、「処方の選択に迷ったら、まず症状を忘れて患者さんの“証”を再評価すべし」とはセミナーでよく聞く言葉です。
そのような視点から、私がポイントと感じた箇所を抜粋させていただきます。
【五苓散】
乳児は体重の70%以上が水分であり(老人は50〜55%)、この水分の多さが乳児湿疹の特徴でもあり、その治療は水毒・湿のコントロールを第一とする。
顔面・頭部の脂漏性湿疹様の場合は五苓散を用いる。
軟便・下痢傾向の場合はなおよい。
その後頚部→ 体幹→ 四肢へ湿疹が拡大すると小紅斑・紅色小丘疹が主となる。散在する紅色小丘疹を主とする場合は五苓散を用いる。五苓散の適応症状で、より炎症が強い場合は茵蔯五苓散がよい。
【治頭瘡一方】
頭部・顔面で分泌物が多く、びらんを伴う湿疹に用いる。便秘傾向ならなおよい。
【人参湯】
よだれが多いと口周囲・頬部から頚部にかけて「よだれ皮膚炎」といわれる乳児特有の湿疹病変を生じる。よだれは胃腸(脾胃)の冷えによることが多いため、人参湯を用いるとよだれの減少とともに湿疹が軽快する。
人参湯で処方を開始した場合は、よだれが減少し、口囲・頚部の皮疹が軽快してきたら、小建中湯・黄耆建中湯に転方したほうがよい。人参湯の長期投与により元来、熱証である乳児の体が温まりすぎてしまう。
【消風散】
頭部・顔面から始まった湿疹はやがて頚部→ 体幹→ 四肢へ拡大し、小紅斑・紅色小丘疹が主となる。全身に湿疹が拡大した場合は、分泌物と赤みが強く出る。夏に増悪傾向のある紅斑に対しては消風散を用いる。
【甘麦大棗湯】
顔面・頚部に重度の皮膚炎があると神経質・癇症となるため、まず顔面や露出部位の皮膚炎を改善させることが大切である。また、癇症で眠りにつきにくく、常にイライラして泣き叫ぶような際は、甘麦大棗湯・抑肝散・抑肝散加陳皮半夏などを用いて心を落ち着かせる。
小児癇症や夜泣きなどの精神神経症状がおさまれば終了とする。
★ 使用の実際:併用、投与期間など
・標治を目的として処方する治頭瘡一方・消風散・五苓散は、目標とする皮疹が軽快したら投薬を終了する。この3剤は必要以上に長期にわたり投薬を継続すると、皮膚の乾燥傾向が強くなり皮疹の悪化を招くことがある。
・本治を目的として処方する人参湯・小建中湯・黄耆建中湯・甘麦大棗湯は、治療開始時は標治の処方と併用して用いることが多い。
・再燃を繰り返す乳児湿疹や乳児アトピー性皮膚炎では、小建中湯・黄耆建中湯は皮疹が改善して標治の処方を終了した後もしばらく継続し、食欲が改善して皮疹の再燃が亡くなれば終了とする。
★ 大竹先生が二宮先生から学んだこと;
① 胃腸虚弱や癇症を主とした体質改善(本治)の大切さ
② できる限り早期に本治を開始することの大切さ
③ 乳児は治療展開が速いため適宜標治薬を変更する
④ 乳児湿疹や乳児アトピー性皮膚炎は成人型アトピー性皮膚炎ほど複雑でないため比較的治療がスムーズにいく
フムフム・・・①②③に集約されそう。
さて、まだ扱っていなかった各方剤(五苓散、甘麦大棗湯、人参湯)とアトピー性皮膚炎への適用については、以降の項目で探求していきます。
■ 小児アトピー性皮膚炎の「甘麦大棗湯」(72)は有効か?
■ 小児アトピー性皮膚炎に「五苓散」(17)は有効か?
■ 小児アトピー性皮膚炎に「人参湯」(32)は有効か?
■ チャート式皮膚疾患の漢方治療第9回「乳児湿疹(乳児アトピー性皮膚炎)」(「 漢方と診療」Vol.6 No.3, 2015:大竹直樹:海岸通り皮ふ科)
大竹先生は伝説の漢方皮膚科医、二宮文乃先生の薫陶を受けた方です。
二宮文乃先生はステロイド軟膏を使わずに漢方だけでアトピー性皮膚炎を治療してしまう達人として知られています。
私も数回講演を聴いたことがあるのですが、話が速くてついて行けずその度に消化不良を起こしてしまい、なかなかそのエッセンスを吸収できないでいます。
大竹先生の記述は二宮先生の診療の影響を多分に受けているはずなので、是非参考にしたいところ。
さて、乳児アトピー性皮膚炎に用いる代表的漢方処方薬一覧表が提示されています。
ここで気づいたことですが、前項の西村先生が使う漢方薬と共通する方剤が少ないこと。
6つのうち治頭瘡一方と消風散の2つのみです。
他は五苓散、人参湯、小建中湯、甘麦大棗湯と皮膚疾患に使うイメージが湧きにくい方剤群。
逆に言うと、ここにヒントが隠されているのかもしれません。
これらの薬をどのように使い分けるのでしょうか。
ちゃんとフローチャートが用意されていました。
標治と本治に分け、治療開始時は本治薬に標治薬を併用するという考え方には大いに頷けます。
はじめに皮疹改善を目標にした標治薬と体質改善を目標にした本治薬を併用し、よくなったら標治薬をやめていくというステップダウン法。
前項の西村先生は、本治薬から開始し改善が今ひとつなら標治薬を追加していくステップアップ法でしたから、逆のパターンです。
おそらく、私が二宮〜大竹先生の域になかなか到達できないのは「本治」を軽視しているからだと思います。
どうしても皮膚症状から離れられなくて、皮膚に効く生薬入りの方剤を優先しがち。
しかし、「処方の選択に迷ったら、まず症状を忘れて患者さんの“証”を再評価すべし」とはセミナーでよく聞く言葉です。
そのような視点から、私がポイントと感じた箇所を抜粋させていただきます。
【五苓散】
乳児は体重の70%以上が水分であり(老人は50〜55%)、この水分の多さが乳児湿疹の特徴でもあり、その治療は水毒・湿のコントロールを第一とする。
顔面・頭部の脂漏性湿疹様の場合は五苓散を用いる。
軟便・下痢傾向の場合はなおよい。
その後頚部→ 体幹→ 四肢へ湿疹が拡大すると小紅斑・紅色小丘疹が主となる。散在する紅色小丘疹を主とする場合は五苓散を用いる。五苓散の適応症状で、より炎症が強い場合は茵蔯五苓散がよい。
【治頭瘡一方】
頭部・顔面で分泌物が多く、びらんを伴う湿疹に用いる。便秘傾向ならなおよい。
【人参湯】
よだれが多いと口周囲・頬部から頚部にかけて「よだれ皮膚炎」といわれる乳児特有の湿疹病変を生じる。よだれは胃腸(脾胃)の冷えによることが多いため、人参湯を用いるとよだれの減少とともに湿疹が軽快する。
人参湯で処方を開始した場合は、よだれが減少し、口囲・頚部の皮疹が軽快してきたら、小建中湯・黄耆建中湯に転方したほうがよい。人参湯の長期投与により元来、熱証である乳児の体が温まりすぎてしまう。
【消風散】
頭部・顔面から始まった湿疹はやがて頚部→ 体幹→ 四肢へ拡大し、小紅斑・紅色小丘疹が主となる。全身に湿疹が拡大した場合は、分泌物と赤みが強く出る。夏に増悪傾向のある紅斑に対しては消風散を用いる。
【甘麦大棗湯】
顔面・頚部に重度の皮膚炎があると神経質・癇症となるため、まず顔面や露出部位の皮膚炎を改善させることが大切である。また、癇症で眠りにつきにくく、常にイライラして泣き叫ぶような際は、甘麦大棗湯・抑肝散・抑肝散加陳皮半夏などを用いて心を落ち着かせる。
小児癇症や夜泣きなどの精神神経症状がおさまれば終了とする。
★ 使用の実際:併用、投与期間など
・標治を目的として処方する治頭瘡一方・消風散・五苓散は、目標とする皮疹が軽快したら投薬を終了する。この3剤は必要以上に長期にわたり投薬を継続すると、皮膚の乾燥傾向が強くなり皮疹の悪化を招くことがある。
・本治を目的として処方する人参湯・小建中湯・黄耆建中湯・甘麦大棗湯は、治療開始時は標治の処方と併用して用いることが多い。
・再燃を繰り返す乳児湿疹や乳児アトピー性皮膚炎では、小建中湯・黄耆建中湯は皮疹が改善して標治の処方を終了した後もしばらく継続し、食欲が改善して皮疹の再燃が亡くなれば終了とする。
★ 大竹先生が二宮先生から学んだこと;
① 胃腸虚弱や癇症を主とした体質改善(本治)の大切さ
② できる限り早期に本治を開始することの大切さ
③ 乳児は治療展開が速いため適宜標治薬を変更する
④ 乳児湿疹や乳児アトピー性皮膚炎は成人型アトピー性皮膚炎ほど複雑でないため比較的治療がスムーズにいく
フムフム・・・①②③に集約されそう。
さて、まだ扱っていなかった各方剤(五苓散、甘麦大棗湯、人参湯)とアトピー性皮膚炎への適用については、以降の項目で探求していきます。
■ 小児アトピー性皮膚炎の「甘麦大棗湯」(72)は有効か?
■ 小児アトピー性皮膚炎に「五苓散」(17)は有効か?
■ 小児アトピー性皮膚炎に「人参湯」(32)は有効か?