漢方の勉強方法はいろいろありますが、
系統的に古典を学んだり、
師匠について勉強したりという機会がない私は、
迷走しながらはや20年、未だに初級者の域を出ておりません。
近年は“生薬”を理解し、そこから“方剤”を理解する、
という方法が自分には合っているのではないかと思うようになりました。
そんな中、アップル薬局さんの「漢方薬を学ぶ」というサイトがとてもわかりやすく、
時々覗かせてもらっています。
今回はその中の「小柴胡湯と派生処方」を自分なりに整理したいと思います。
小柴胡湯は柴胡剤の基本であり、代表です。
柴胡剤とは柴胡・黄岑という二つの生薬の組み合わせを含む方剤で、
六病位の“少陽病期”、表裏証の“半表半裏”に適応します。
また、五臓論の“肝”の異常を治します。
柴胡剤は新型コロナ禍の際に注目されました。
ご存知のように、西洋医学では新型コロナに対する“抗ウイルス薬”がなかなか開発されず、
手をこまねいていました。
漢方薬は2000年も昔から数々のパンデミックをくぐり抜けてきた歴史があり、
その際に活躍したのが「柴葛解肌湯」(さいかつげきとう)という方剤です。
これはエキス剤にはありませんが、
「葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏」で類似処方となります。
この方剤が効く原理は、
葛根湯の中の“麻黄”という生薬がウイルス増加を抑制し、
柴胡剤である小柴胡湯がサイトカインストームを予防する、
と考えられています。
“新型コロナに柴葛解肌湯が効く”と話題になってから、
アッという間に葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏が市場から消えてしまい、
ふだんから使っている私は困ってしまいました。
前置きが長くなりました。
本題に戻りましょう。
▢ 六病位と表裏
・太陽病 → 表証
・少陽病 → 半表半裏
・陽明病 → 裏証
▢ 小柴胡湯
(構成生薬)柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草
(配合法則)
1.柴胡+黄芩:この組み合わせは胸脇苦満を治すために欠かせない。黄芩は柴胡の作用を強めるとともに副作用も防止する。
2.半夏+生姜:ここでは柴胡の副作用防止と少陽病期での食欲不振のために半夏が加えられている。そして半夏が入る方剤には半夏の副作用を除くために、必ず、生姜が組み合わされる。
3.生姜+大棗:いずれも補性薬。多くの方剤に副作用防止と作用緩和のために配合される。
4,人参:補性薬の代表で、これが入っているということは虚証向きの方剤。
ここで前項目の竹越哲男Dr.による小柴胡湯の解説を振り返ってみます。
・消炎:柴胡、黄岑
・鎮咳去痰:半夏
・鎮吐:半夏、生姜
・健胃:生姜、人参、大棗、甘草
・向精神薬:柴胡、半夏、大棗、甘草
鎮咳去痰としての半夏、それから向精神薬としての柴胡・半夏ほかが加わっていますね。
このように、漢方薬の解説はバリエーションが多く、
初学者には混乱の種になります。
▢ 小柴胡湯の方意
・少陽病期
・半表半裏証:往来寒熱、胸脇苦満
・適応症状:食欲不振、全身倦怠感
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせといった陰虚の症状があるときには使わない。その症状がひどくなる。
・空咳(肺陰虚)には用いない(間質性肺炎などの副作用が出やすくなる)。
・禁忌;
1. インターフェロン製剤を投与中の患者
2. 肝硬変、肝癌の患者
3. 慢性肝炎における肝機能障害で血小板数が10万/mm3以下の患者[肝硬変が疑われる]
1. インターフェロン製剤を投与中の患者
2. 肝硬変、肝癌の患者
3. 慢性肝炎における肝機能障害で血小板数が10万/mm3以下の患者[肝硬変が疑われる]
▢ 小柴胡湯と派生処方
No.9 (小柴胡湯) :柴胡、半夏、黄芩、人参、甘草、生姜、大棗
No.10(柴胡桂枝湯) :柴胡、半夏、黄芩、人参、甘草、生姜、大棗、桂枝、芍薬
No.8 (大柴胡湯) :柴胡、半夏、黄芩、 生姜、芍薬、枳実、大黄
▢ 小柴胡湯と派生処方の方意
少陽病 → 小柴胡湯
少陽病+太陽病(表寒症の自汗) → 柴胡桂枝湯
少陽病+陽明病(裏熱から便秘) → 大柴胡湯
…これこれ、この比較が知りたかったんですよね。
これがわからないと使い分けができないのです。
▢ 柴胡桂枝湯
・小柴胡湯(少陽病、半表半裏)と桂枝湯(太陽病、表寒証)の合剤
・半表半裏と表寒証(自汗あり)の両方に効果を発揮する
→ 微熱が続く(自汗)、食欲不振、疲れやすいなどに効果がある。
・柴胡+芍薬:自律神経調節作用、鎮痛作用。
・芍薬+甘草:鎮痙・鎮痛作用を増強。
→ これらにより不安やイライラ、関節痛・身体痛に効果がある。
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせといった陰虚の症状があるときには使わない。その症状がひどくなる。
・桂枝・人参が入っているので、高血圧で赤ら顔の人には注意が必要。
▢ 大柴胡湯
・小柴胡湯を以下のようにアレンジ;
ー(人参・甘草)…補性薬
+(芍薬)…平肝止痛薬
+(枳実)…理気薬
+(大黄)…瀉下薬
・半表半裏+裏熱を改善する
・補性薬(人参・甘草)を除き、瀉性薬(枳実や大黄)を加えたことで、実証向きの方剤へと変化。
・裏熱(胃腸に熱がある)と便秘になる(陽明病)。裏熱は経絡に沿って上へと駆け上がり、めまいや頭痛などを引き起こす。
・半表半裏症で便秘があるときは、小柴胡湯や柴胡桂枝湯ではなく、大柴胡湯が適している。
(投薬時の注意点)
・虚証(体力がない、下痢傾向)の方には向かない。
・下痢や腹痛など胃腸障害時は中止する。
次は、六病位・表裏ではなく、五臓論の“肝”の視点からのバリエーションです。
そう、漢方には病態を表現する“ものさし”がいくつもあり、
これも初学者が混乱する原因です。
逆に、単独のものさしにこだわり過ぎると応用が利かないので、
スキルが上達しないとも言われています。
▢ 小柴胡湯の派生処方:肝の失調
No.9 (小柴胡湯) :柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草
No.11(柴胡桂枝乾姜湯) :柴胡、黄芩、甘草、桂枝、乾姜、牡蛎、瓜呂根
No.12(柴胡加竜骨牡蛎湯):柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、桂枝、茯苓、竜骨、牡蛎
▢ 小柴胡湯の派生処方の証
小柴胡湯(9) :半表半裏
柴胡桂枝乾姜湯(11) :肝鬱化火(かんうつかか)・胃寒
柴胡加竜骨牡蛎湯(12):心肝火旺(しんかんかおう)・脾気虚・湿痰
▢ 柴胡桂枝乾姜湯
(生薬構成からみた適応病態)
・柴胡+黄芩なので柴胡剤ではあるが、小柴胡湯からはかなり崩れている(生姜も乾姜になっている)。
・桂枝・乾姜・牡蛎・甘草と虚証用の薬が多く入っており、より虚証向きの方剤となっている。
・瓜呂根は潤性薬(体内の水分を保留し、身体を潤す薬)で、牡蛎には鎮静・止汗作用がある。
・この処方、半表半裏証に発汗や瀉下を施し、いわゆる誤治によって生じた病態に対する処方らしい。つまり発汗過多による脱水や瀉下による腹部の冷えや痛みに効果がある。
・もともと「胃寒(冷たいものがダメ)」な人で「肝の失調」が見られる場合に適応する。柴胡・黄芩の寒性を桂枝・乾姜の温性によって弱めている(だから生姜が乾姜になっている)ので、小柴胡湯などで胃が痛くなる症例にも使える方剤になっている。
(証)肝鬱化火(かんうつかか)・胃寒
(適応症状)
・胸脇苦満やイライラ、発汗過多などの症状に、腹部の冷えや痛みを伴う場合。
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせといった陰虚の症状があるときには使わない。その症状がひどくなる。
・陰虚証には用いない(柴胡剤の共通の注意点)。
▢ 柴胡加竜骨牡蛎湯
(生薬構成)小柴胡湯を以下のようにアレンジ;
ー(甘草)
+(竜骨)…鎮静・動悸・不眠
+(牡蛎)…鎮静
+(茯苓)…鎮静・めまい・動悸
+(桂枝)…のぼせ
→ 半表半裏証に「肝の失調」を伴うものに適している。
※ 竜骨+牡蛎 → 裏虚証で、神経症状のある場合に、鎮静の目的で用いられる。
(証)心肝火旺(しんかんかおう)・脾気虚・湿痰
・肝に異常をきたすと、イライラ、怒りっぽい、驚きやすい、精神不安などの兆候が表れる。
・肝は「心」に影響を与えるので、不眠や動悸などもおこる。
(適応症状)
・イライラ・動悸・驚きやすい・精神不安・不眠といった症状で胃腸が弱く疲れやすい方に、
自律神経の調整や鎮静を目的に使われることが多い。
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせといった陰虚の症状があるときには使わない。その症状がひどくなる。
・血圧が低い人には用いない。
・陽症(実、表、熱の要素の強いもの)に用いる。同じような症状でも陰症(虚、裏、寒の要素の強いもの)には、No.26(桂枝加竜骨牡蛎湯)を用いる。
ここでいきなり、“肝欝化火” “心肝火旺”という聞き慣れない四文字熟語が登場しました。
これは五臓論の用語で、日本漢方より中医学で用いられる病態用語です。
上記解説を読んでも今ひとつイメージが沸きません。
「肝の異常とは何ぞや?」について書いていないのです。
このようなことに出会うと、
「漢方はわからん」と挫折してしまいがちなポイントなんですけどね。
わかりやすいアップル薬局の解説でも言葉足らずの印象が無きにしも非ず。
次は六病位(少陽病期)・表裏(半表半裏)に気血水の要素を加えたバリエーションです。
▢ 小柴胡湯の派生処方:気血水編
No.9(小柴胡湯) : 柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草
No.96(柴朴湯) : 柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草、厚朴、茯苓、紫蘇葉
No.114(柴苓湯) : 柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草、沢瀉、茯苓、猪苓、蒼朮、桂枝
▢ 小柴胡湯の派生処方の証
小柴胡湯(9):半表半裏
柴朴湯(96):半表半裏、気滞、気逆
柴苓湯(114):半表半裏、水毒
▢ 柴朴湯(96)
・小柴胡湯と半夏厚朴湯の合方剤が「柴朴湯」。
・重複生薬は半夏と生姜。適応は両剤を足したものと考えてよい。
・胸脇苦満に咳や喘息、ヒステリー球がある場合に用いる。
・肝鬱気滞型の自律神経失調症(胸のつまりや溜息、涙もろい、のどの異物感、精神不安、うつ傾向)にも用いられている。
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせ、寝汗など陰虚の症状がある場合には用いない。
・喘息や咳に用いるが、小柴胡湯が入っているので、空咳には適さない。
▢ 柴苓湯(114)
・小柴胡湯と五苓散の合方剤が「柴苓湯」。
・重複生薬はない。よって適応も2つの適応を足したものとなる。
・胸脇苦満に尿量減少やむくみ、口渇、頭痛、嘔吐、下痢があるような場合に用いる。
・臨床では、腎炎や糖尿病性腎症などで胸脇苦満がある方に応用されている。
(投薬時の注意点)
・手足のほてりやのぼせ、寝汗など陰虚の症状がある場合には用いない。
・皮膚がカサカサになったり、発疹、かゆみが見られる場合は中止。全身倦怠感が見られる場合も中止する。
以上、小柴胡湯とその派生処方についてみてきました。
登場した方剤は9つ。
まとめてみると、
▢ 小柴胡湯と派生処方のまとめ
小柴胡湯(9):少陽病(半表半裏)
が基本。
他の方剤は、少陽病(半表半裏)+(以下の証)で使い分けるべし!
大柴胡湯(8) :+陽明病(裏熱)
柴胡桂枝湯(10) :+太陽病(表寒)
柴胡桂枝乾姜湯(11) :+肝欝化火・胃寒
柴胡加竜骨牡蛎湯(12):+心肝火旺・脾気虚・湿痰
柴朴湯(96) :+気滞、気逆
柴苓湯(114) :+水毒
これで明日から使い分けができるでしょうか。
個人的には、肝の失調として出てきた用語、
肝欝化火
心肝火旺
肝欝気滞
の理解がないと、今ひとつという印象です。
あ、昔のブログに解説を見つけました。
<参考>
■ 漢方薬を学ぶ 「基本8処方とその派生処方」(アップル薬局)
1、基本処方① : 小柴胡湯
1-1)小柴胡湯とその派生処方 その1
小柴胡湯(9)、大柴胡湯(8)、柴胡桂枝湯(10)
1-2)小柴胡湯とその派生処方 その2
柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)
1-3)小柴胡湯とその派生処方 その3
柴朴湯(96)、柴苓湯(114)