漢方の診察では「舌診」があります。
舌の色、大きさ、形などをくわしく観察して、
その人の健康状態を把握する診察方法。
何回も解説を読むのですが、
・舌が赤いと熱証
・舌に亀裂があると気虚
・舌が白っぽいと血虚
・舌の裏の静脈が太いと瘀血
・舌に小さな黒点があると瘀血
・舌が大きく歯痕(歯の跡)があると水毒
・舌に白苔(白い苔)が厚くついていると少陽病期
・舌に黒苔(黒い苔)がついていると陽明病期
・「舌を出して」と指示し、たくさん出せると加味逍遥散証、震えて出せないと抑肝散証
・・・くらいしか思いつきません。
漢方医学的には、寒熱、気血水、六病位などが評価できることになります。
あ、ここには陰陽が入っていませんね。
舌診の概要を解説した記事が目に留まりましたので読んでみました。
<ポイント>
・舌は内臓病変だけでなく精神状態も反映する。
・舌診では「色」「形」「苔」の状態を観察し、これによりさまざまなことがわかる。
【色】寒熱、瘀血
【形】水滞、肝の異常、気血両虚
【苔】脾虚、六病位、気血両虚、津液不足
・正常な舌は淡紅色で湿潤、苔はなく、あっても薄く白い程度。
▶ 舌の色
・色が白っぽい「淡白」は寒証、気虚、血虚 → 乾姜や附子といった体を温める作用のある生薬を用いる。
(例)代表的な処方は人参湯、他にも四君子湯や六君子湯、補中益気湯、四物湯など補気剤や補血剤
・赤みが強い「紅」は熱証、熱証には実熱と虚熱がある。
実熱は熱がこもる状態で黄連、山梔子、石膏などの生薬を用いる。
(例)黄連解毒湯や白虎加人参湯
虚熱は体内の血不足、刺激不足により空焚きのような状態になり体表が熱くなる。
(例)地黄などを含む六味丸や八味地黄丸など
・暗い赤みを呈する「暗紅」は瘀血の中でも特に熱がこもったタイプ
(例)駆瘀血剤の中でも加味逍遙散
・色が「紫」だと冷えのある瘀血のタイプで、
(例)駆瘀血剤の中でも当帰四逆加呉茱萸生姜湯など、温めて血行を改善するような処方
★ 瘀血の舌所見:瘀血の場合、暗紅、紫といった色の傾向のほかに、特徴的な所見が見られる。舌の縁に紫色の点が現れる「瘀点」や、まだらに紫色が浮かぶ「瘀斑」、舌下静脈怒張は瘀血の所見であり、血行不良や冷え、動脈硬化、女性であれば月経不順がある場合にこれらの所見を呈することがある。
▶ 舌の乾湿
・乾いた舌は熱証と考えられ、白虎加人参湯などを選択。
・舌の乾きは「少陽病期」にも現れ、この場合は柴胡剤などを用いる。
・湿っていても唾液が溜まってあふれるような状態は寒証であると考えられ、人参湯などを用いる。
▶ 舌の形
・「腫大(胖大)」は水滞・気虚;
(例)五苓散などの利水剤または補気剤
・・・ほかに水滞の所見として現れるのが「歯痕」である。舌の縁に歯の痕が付く状態で、舌がむくんでいる場合は利水剤
★ 最近ではそれほど舌がむくんでいなくても、歯ぎしりや食いしばりなどにより歯痕がしっかりと残ることがある。この場合は、交感神経の過緊張など自律神経の異常、漢方医学では「肝の異常」と考えられ、抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤を選択する。
・舌が痩せた状態になる「痩薄(そうはく)」や、縦じわが深く入る「皺裂(すうれつ)」は体力が落ちている気血両虚、津液不足であり、参耆剤や補血剤、滋潤剤を選択する。
▶ 舌苔
・べったりと白苔が付いている「(厚)白苔」の場合、胃腸が弱っている脾虚が考えられ、六君子湯など胃の動きを改善する処方を選択。少陽病期にも白苔は厚くなるため、この場合は柴胡剤。
・黄色みのある「黄苔」は、体の内部に熱が入り込み便秘になったり、慢性期の状態では体に熱がこもったりする「陽明病期」に起こりやすく、白虎加人参湯や黄連解毒湯などの清熱剤、桃核承気湯や大黄牡丹皮湯などの大黄剤を。
・黒っぽい苔が現れる「黒苔」は発熱極期、あるいは重篤な状態に起こりやすく、大黄剤や附子剤などを選択。
・舌苔がまだらに剥がれている「地図状舌」も気虚に現れる異常で、参耆剤を処方する。臨床では抗うつ剤、ステロイドの長期服用患者によく見られる。
・表面がてかてかと光る「鏡面舌」は気血両虚、津液不足と考えられ、十全大補湯や八味地黄丸を用いる。
▶ 味覚異常
・口の中が酸っぱく感じる場合は肝の異常と捉えて竜胆瀉肝湯。
・苦みを感じる場合は柴胡剤のほかに、心の異常と捉えて半夏瀉心湯を。
・味がしない場合は脾の異常と捉えて補中益気湯を。
・しょっぱく感じる場合は腎の異常と捉えて八味地黄丸を。
・・・舌を観察するだけでこれだけの情報が得られるのですね・・・多すぎて頭の中が整理できません。
ゆっくり&コツコツ学習する必要がありそうです。
▢ 漢方医学の診察法~舌診について~
第39回日本耳鼻咽喉科漢方研究会学術集会(2024年10月12日)
教育講演「漢方医学の診察法~舌診について~」
五野 由佳理 先生
北里大学医学部 総合診療医学 診療講師・外来主任
(2024.12.11:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
▶ 舌は内臓病変だけでなく精神状態も反映する
内科では、脱水、鉄欠乏やビタミンB12欠乏による貧血、麻痺、口内炎、カンジダ症の診察などの際に、また耳鼻咽喉科では舌炎や舌がんの判断などの際に舌の診察が行われる。漢方医学独自の診察方法「四診」のうち「望診」に含まれる舌診、「切診」に含まれる脈診や腹診は特徴的な診察方法であり、耳鼻咽喉科の診療においては特に舌診は普段の臨床に活かしやすい。
舌診は古代中国医学で発展した方法で、「舌は臓腑の鏡」「舌は心の苗」といわれ、内臓病変だけでなく精神状態も反映すると考えられている。西洋医学でも1981年にFaber(ドイツ)は「舌は胃の鏡」と述べた。
『敖氏(ごうし)傷寒金鏡録』(1341年)は中国医学の最古の舌診と脈診の専門書といわれる。日本漢方でも1835年に舌診と腹診、脈診についてまとめた専門書『舌胎図説』が発刊された。舌診は心身の状態、バランスを診るのに役立ち、重視されてきた。
▶ 舌診では「色」「形」「苔」の状態を観察する
舌診を行う際は、自然光または明るい場所で行う。舌を出してもらう際は力を入れないことがポイントとなる。力が入ると舌の色が濃くなったり、静脈の怒張が強調されたりしてしまうためである。加えて、舌を長く出していると色が変化しやすくなるため、舌診は数秒で終えるように心がける。診察前には、舌に色が付くなどの影響が考えられるコーヒー、紅茶、牛乳、みかん、タバコなどの飲食品や嗜好品は控えてもらう。また、舌苔の状態も観察対象のため、診察当日は舌そうじを行わないように患者に伝える。
舌診により「色」「形」「苔」の状態を観察することでさまざまなことがわかる。
【色】寒熱、瘀血
【形】水滞、肝の異常、気血両虚
【苔】脾虚、六病位、気血両虚、津液不足
▶ 色の異常、鼻汁の状態で寒熱の状態がわかる
正常な舌は淡紅色で湿潤、苔はなく、あっても薄く白い程度である。本来、漢方薬の処方は舌診だけでは決められないが、典型的な舌診の症例と色、形、苔の異常に対応する生薬や処方について紹介する。
色の異常は大きく4つに分類される。色が白っぽい「淡白」は寒証、気虚、血虚がある状態で、乾姜や附子といった体を温める作用のある生薬を用いる。代表的な処方は人参湯で、他にも四君子湯や六君子湯、補中益気湯、四物湯など補気剤や補血剤を用いることがある。
淡紅色と比べると赤みが強い「紅」の場合、熱証が該当する。熱証は実熱と虚熱に分けられ、実熱は熱がこもる状態で黄連、山梔子、石膏などの生薬を用いる。具体的には黄連解毒湯や白虎加人参湯を処方する。対して虚熱は体内の血不足、刺激不足により空焚きのような状態になり体表が熱くなる。この場合、地黄などを含む六味丸や八味地黄丸などを用いる。
暗い赤みを呈する「暗紅」は瘀血の中でも特に熱がこもったタイプで、駆瘀血剤のうち加味逍遙散を用いる。暗い赤みを呈する「暗紅」は瘀血の中でも特に熱がこもったタイプで、駆瘀血剤のうち加味逍遙散を用いる。色が「紫」だと冷えのある瘀血のタイプで、駆瘀血剤の中でも当帰四逆加呉茱萸生姜湯など、温めて血行を改善するような処方を用いる。
鼻炎の寒熱の違いについても紹介する。寒証の場合、水様性鼻汁があり舌の色は淡白であることが多く、有用な処方に小青竜湯、麻黄附子細辛湯、苓甘姜味辛夏仁湯がある。熱証の鼻炎の場合、膿性鼻汁や鼻閉があり、舌の色は紅色であることが多い。有用な処方に熱を冷ますような生薬を含む越婢加朮湯、葛根湯加川芎辛夷がある。
▶ 表面が乾いている、色のむらにも注目
舌診では舌の乾湿にも注目したい。正常だと舌は湿っているが、乾いた舌は熱証と考えられ、白虎加人参湯などを選択する。舌の乾きは、例えば風邪を引いた後、口の中が乾いて苦く感じたり、食欲がなくムカムカしたり、1日の中で熱が上がったり下がったりする「少陽病期」にも現れ、この場合は柴胡剤などを用いる。体の水分が少ない津液不足には六味丸や八味地黄丸といった地黄剤を用いる。他にも、交感神経が過緊張状態にある、ストレスの多いタイプは唾液が不足し舌が乾いたような所見が見られることがある。一方で湿っていても唾液が溜まってあふれるような状態は寒証であると考えられ、人参湯などを用いる。
瘀血の場合、暗紅、紫といった色の傾向のほかに、特徴的な所見が見られる。舌の縁に紫色の点が現れる「瘀点」や、まだらに紫色が浮かぶ「瘀斑」、舌下静脈怒張は瘀血の所見であり、血行不良や冷え、動脈硬化、女性であれば月経不順がある場合にこれらの所見を呈することがある。
▶ 舌の形状に加えて舌の出し方からわかることも
形の異常は、大きく4つに分類される。口角まで舌が腫れる「腫大(胖大)」は水滞、気虚に見られ、五苓散などの利水剤または補気剤を用いる。同じく水滞の所見として現れるのが「歯痕」である。舌の縁に歯の痕が付く状態で、舌がむくんでいる場合は利水剤を用いる。しかし最近ではそれほど舌がむくんでいなくても、歯ぎしりや食いしばりなどにより歯痕がしっかりと残ることがある。この場合は、交感神経の過緊張など自律神経の異常、漢方医学では「肝の異常」と考えられ、抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤を選択する。舌が痩せた状態になる「痩薄(そうはく)」や、縦じわが深く入る「皺裂(すうれつ)」は体力が落ちている気血両虚、津液不足であり、参耆剤や補血剤、滋潤剤を選択する。
舌の出し方によって、気剤を鑑別する方法もある1)。舌を出すように促した際、口唇からほんの少し舌先を出す程度、あるいは舌に力が入って震えを呈する場合は、交感神経の過緊張が考えられ、抑肝散を選択することが多い。対して、舌の先端に力を入れ逆三角形状にして鋭く出し、舌尖が赤い場合は加味逍遙散を用いる。舌はスムーズに出せるが形状がぼてっとしていて白から黄色みがかった苔がある場合は四逆散を選択する。
▶ 舌苔の量や色、付き方、舌の表面の状態を丁寧に観察
舌苔は正常の場合はない、あるいは薄白苔であるが、べったりと白苔が付いている「(厚)白苔」の場合、胃腸が弱っている脾虚が考えられ、六君子湯など胃の動きを改善する処方を選択する。また、少陽病期にも白苔は厚くなるため、この場合は柴胡剤が適する。黄色みのある「黄苔」は、体の内部に熱が入り込み便秘になったり、慢性期の状態では体に熱がこもったりする「陽明病期」に起こりやすく、白虎加人参湯や黄連解毒湯などの清熱剤、桃核承気湯や大黄牡丹皮湯などの大黄剤を処方する。黒っぽい苔が現れる「黒苔」は発熱極期、あるいは重篤な状態に起こりやすく、大黄剤や附子剤などを選択する。臨床では抗菌薬の長期投与や抗がん剤投与の患者に見られる。
舌苔がまだらに剥がれている「地図状舌」も気虚に現れる異常で、参耆剤を処方する。臨床では抗うつ剤、ステロイドの長期服用患者によく見られる。表面がてかてかと光る「鏡面舌」は気血両虚、津液不足と考えられ、十全大補湯や八味地黄丸を用いる。
▶ 五行説と舌
「五行説」とは、人体の機能を「五行(木・火・土・金・水)」に分類する考え方で、五行に分類された臓器、感覚器、感情、味は相互に影響・抑制し合う。五臓を舌の部位に当てはめると図のように考えられている。舌痛症や舌の違和感を訴える場合に、詳しく診察すると特に自律神経系に関連する肝に該当する、舌の縁に症状が現れていることが多いと感じる。また、舌尖に赤みがある場合は、睡眠不足が考えられ、症状がある舌の部位からも対応を考えることができる。
図 舌の部位と五臓
味覚異常も五行説に当てはめて考えることができる。例えば口の中が酸っぱく感じる場合は肝の異常と捉えて竜胆瀉肝湯を用いることがある。他にも、苦みを感じる場合は柴胡剤のほかに、心の異常と捉えて半夏瀉心湯を、味がしない場合は脾の異常と捉えて補中益気湯、しょっぱく感じる場合は腎の異常と捉えて八味地黄丸を使っていく。・・・
【文献】