YouTube上の「Dr.喜多 公式チャンネル」から、
【Dr.喜多の漢方入門講座】五臓の働きとその異常シリーズ(1-6)
を見つけました。
漢方における五臓の概念は「陰陽五行説」の一部で、
西洋医学を中心に学んだ日本の医師には、
ちょっと入りにくいハードルとなっています。
でも、漢方薬を使い始めると、
この概念を理解しないと先に進めない壁でもあります。
急性熱性疾患の経過を表す六病位や、
体のバランスを表す気血水がなんとなくイメージできるようになると、
その次に現れるのが五臓論なのです。
とくにこころの不調に対する漢方を調べていると、
“心”と“肝”に作用する方剤の名前が出てくるのですが、
この心と間の違いが今ひとつイメージできなかった私です。
このシリーズの中で、
「心は精神運動機能をつかさどり、肝は心の働きをコントロールする」
という興味深いフレーズが登場しました。
また、心のシステムを肝が制御し、
肺のシステム(衛気)を腎が制御するという説明も新鮮でした。
噛みしめて理解したいと思います。
この五臓論、なんとか突破できないものか・・・
以下に講義メモを備忘録として残しておきます。
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▶ 五臓は気血水を産生する
脾(消化器官) → 気の産生(エネルギー源)
肝(代謝器官) → 血の産生(有機資源)
腎(泌尿器官) → 水の産生(無機資源)
▶ 気には2つの働きがある
・パワーとしての気 → 機能を発現する働き(モーター)
・エネルギーとしての気 → 機能を維持する働き(電池)
▶ パワーとしての気は3系統に分類される
脾に宿る胃気 → 消化吸収機能発現
心に宿る神気 → 精神運動機能発現
肺に宿る衛気 → 生体防御機能発現
・・・そしてこの3つの気にエネルギーとしての気が供給されるが、
その気は「水穀の気」「後天の気」つまり食べ物の栄養である。
▶ 身体器官の機能を超えた五臓システム
循環器官 → 心システム → 精神運動機能
呼吸器官 → 肺システム → 生体防御機能
消化器官 → 脾胃システム → 栄養補給機能
代謝器官 → 肝システム → 神気の活動制御
泌尿器官 → 腎システム → 衛気の活動制御
つまり、心と肝は密接につながり、肺と腎も密接につながっている。
▶ 脾胃の働きと異常
・脾胃の働き
①食物を消化吸収し、水穀の気を生成する。
②血の流通をなめらかにし、血管からの漏出を防ぐ。
③筋肉の形成と維持を行う。
④食欲を調節し、栄養産生を制御する。
・脾胃の異常(を示唆する症候)
①食欲の低下、消化不良、悪心・嘔吐、胃もたれ、腹部膨満感、腹痛、下痢
②皮下出血
③脱力感、四肢が思だるい、筋萎縮
④考え込む、抑うつ
▶ 漢方の血液循環の中心は心臓ではなく“肝”
(西洋医学)
心臓 → 酸素(動脈血) → 全身→ 二酸化炭素(静脈血) → 心臓
(漢方医学)
肝臓 → 有機資源(営血・栄血) → 全身→ 有害物質(汚血・血毒) → 肝臓
▶ 肝の異常と血虚・瘀血の病態
有機資源の不足 → 血虚
有害物質の過剰 → 瘀血
・・・漢方医学は肝を中心に理解する。
▶ 肝と骨格筋における肝陽・肝陰の働き
肝陽(肝の陽気)
・肝臓における蛋白質代謝:分解・異化へ
・骨格筋における筋繊維トーヌス:亢進・緊張へ
肝陰(肝の陰液)
・肝臓における蛋白質代謝:合成・同化へ
・骨格筋における筋繊維トーヌス:低下・弛緩へ
▶ 肝の働き=自律神経系+内分泌系
前項の肝陽・肝陰は1日のサイクルで循環している(日内リズム)。
夜は肝陰で静的活動:睡眠、筋弛緩、たんぱく質同化
昼は肝陽で動的活動:覚醒、筋緊張、たんぱく質異化
▶ 肝陽・肝陰の日内リズムがストレスでブロックされた病態が肝気欝血
肝陽(動的活動) → 肝陰(性的活動)への移行が、
ストレスのために障害された病態。
→ 精神的・身体的な過緊張状態を呈する。
▶ 肝の働きとその異常
肝の働き
①精神活動を安定化する。
②栄養素の代謝と解毒をつかさどる。
③血を貯蔵して全身に栄養を供給する。
④骨格筋のトーヌスを維持し、運動や平衡を制御する。
肝の異常(を示唆する症候)・・・精神的・身体的過緊張
①神経過敏、易怒性、イライラ
②じんま疹、黄疸
③月経異常、貧血
④頭痛、肩こり、めまい、筋肉のけいれん、腹直筋の攣急
⑤季肋部が腫れて痛い
▶ 心の働きとその異常
心の働き
①意識レベルを保ち、意識的活動を統括する。
②覚醒・睡眠レベルを調節する。
③血を循環させる。
④熱の産生を盛んにし、汗を分泌し、体温を調節する。
心の異常(を示唆する症候)
①焦燥感、興奮、集中力低下
②不眠、嗜眠、眠りが浅い、夢が多い
③動悸、息切れ、徐脈、結代、胸内苦悶
④発作性の顔面紅潮、熱感
▶ 心に宿る「神気」の働き
・血液循環機能を発現する
↓
酸素や栄養素を脳や骨格筋に供給する
↓
・精神運動機能を発現する
▶ 精神活動は漢方的には気の流れ
・気の流れとは、生命活動のプロセスを維持する情報の流れである。
・精神活動の入力から出力には、
①認知プロセス
②思考プロセス
③感情プロセス
④行動プロセス
を経て発現する。
・神気の失調により気うつ・気逆状態になると、
①認知機能障害
②思考機能障害
③感情機能障害
④行動機能障害
等が発生する。
▶ 脳の活動を制御するのは肝と心のシステム
脳がストレス(心理・社会的因子)を受けると、
①生体恒常性維持機能(自律神経・内分泌・免疫系)が障害される
→ 身体症状
②心の恒常性維持機能(認知・情動・意志のプロセス)が障害される
→ 精神症状
▶ 神気の活動を制御する肝システム
・神気;
脳内ドーパミン系を介して精神運動機能を発現させ、
心臓・血管系を介して血液循環機能を発現させる。
・肝陽;
脳内ノルアドレナリン系を介して精神運動機能発現を促進し、
交感神経系を介して血液循環機能発現を促進する。
・肝陰;
脳内セロトニン系を介して精神運動機能発現を抑制し、
副交感神経系を介して血液循環機能発現を抑制する
・・・以上が24時間のサイクルで日内リズムを形成している。
▶ 血・水の流れと肝・腎の働き
・血の流れは肝を中心に理解する
肝 → 有機資源(栄血・営血) → 全身→ 有害物質(汚血・血毒) → 肝
・水の流れは腎を中心に理解する
腎 → 無機資源(浄水・津液) → 全身→ 有害物質(汚水・水毒) → 腎
▶ 腎の異常と津虚・水滞の病態
前項目における、
無機資源の不足 → 津虚
有害物質の過剰 → 水滞
▶ 腎と細胞における腎陽・腎陰の働き
腎陽 → (腎臓)尿排泄
→ (細胞)アポトーシス
腎陰 → (腎臓)水液再吸収
→ (細胞)新生・増殖
さらに、
腎臓 → 浄水・津液 → 細胞 → 汚水・水毒 → 腎臓
というサイクルがある。
▶ 腎の働きとその異常
・腎の働き;
①成長、発育、生殖能をつかさどる。
②骨・歯芽を形成・維持する。
③泌尿機能をつかさどり、水分代謝を調節する。
④呼吸能を維持する。
⑤思考力、判断力、集中力を維持する。
・腎の異常(を示唆する症候)
①性欲低下、不妊
②骨の退行性変化、腰痛、歯牙脱落
③浮腫、夜間尿、目や皮膚の乾燥
④息切れ
⑤健忘、根気がない、恐れ、驚き
⑥白内障、耳鳴り
▶ 腎虚:加齢により腎の働きが低下した状態
・視力・聴力の低下
・思考力・判断力の低下
・呼吸能の低下
・生殖能の低下
・姿勢維持能の低下
・排尿する能力の低下
▶ 肺の働きとその異常
肺の働き;
①呼吸により宗気を摂取し、全身の気の流れを統括する。
②水穀の気の一部から血と水を生成する。
③皮膚の機能を制御し、その防衛力を保持する。
肺の異常(を示唆する症候)
①咳嗽、喀痰、喘鳴、鼻汁、呼吸困難、息切れ、胸の塞がった感じ
②気道粘膜の乾燥
③発汗異常、かゆみ、カゼを引きやすい
④憂い、悲しみ
▶ 衛気(肺に宿る)の働きとそれを制御する腎システム
衛気の働き(免疫担当細胞、リンパ系)
①生体防御機能を発現(貪食・破壊・炎症・発熱)
②リンパ環流機能を発現する
腎陽(炎症性サイトカイン)は①と②を促進し、
腎陰(抗炎症性サイトカイン)は①と②を抑制する。