耳鼻科医で漢方の伝道師でもある竹越哲男先生の、
咳に関するWEBレクチャーを視聴しました。
私は小児科医としては珍しく、ふだんから咳に漢方薬併用をしています。
風邪の始まりから数日の咳には小柴胡湯、
ゼーゼーして気管支炎になっている場合は五虎湯、
長引いてのどが過敏になり乾いた咳、痰が切れそうできれない咳が止まらないときは麦門冬湯、
が基本です。
竹越先生はたくさんのバリエーションを示してくれました。
大変参考になりましたので、メモを残しておきます。
まとめていて気になったのは、
今ひとつ内容が整理されていないこと。
同じようなことが繰り返されたり、
概念の羅列がバラバラだったり・・・(^^;)。
でもまあ、勉強になりました。
▢ 漢方薬は言語に似ている
1.構成生薬は単語→ 意味を持つ
2.生薬は意味を複数持つ→ 状況により意味が変わる
3.生薬が複数組み合わさると異なる意味を持つ→ イディオム
▢ 漢方処方は生薬による「文」
・漢方エキス製剤は148種類、生薬は139種類
→ 139の単語しか使わない148の文章
・重要生薬(重要単語)は10〜30程度
・基本の「文(生薬構成)」が同じ物が多い
→ 基本骨格が同じ
▢ 生薬の例
【桂枝】
・体を温める→ 止痛、発汗
・精神安定
【芍薬】
・鎮痙作用
・血虚(栄養不足の改善)
【麻黄】
・水を捌く
・温める
【葛根】
・肩こり、首の張りを治す
・軽い発汗作用
・解熱作用
▢ 生薬の組み合わせの例
【大棗・生姜・甘草】
・大棗:甘みで脱水を防ぐ
・生姜:体を温め、発汗を促す
・甘草:諸薬を調和する、甘みで脱水を防ぐ
【麻黄+桂枝】
・発汗させる効果が増強
・体を温める効果が増強
▢ 病気の進展のステージ分類「六病位」
【陽病期】…熱が出る時期
太陽病期:寒気や頭痛・・・風邪の引き始めのような症状
少陽病期:咳、食欲不振、往来寒熱・・・こじれた風邪のイメージ
陽明病期:高熱(身体深部)・潮熱/稽留熱、病変は裏(腹部膨満・便秘)、激しい口渇、黄色舌苔・・・全身くまなく熱が満ちている状態(「全身火の玉」 by 寺澤捷年Dr.)
【陰病期】…元気がなくなり冷える時期
太陰病期:下痢、体の冷え
少陰病期:疲れて横になりたがる
厥陰病期:重篤な状態
▢ 表裏の概念
・急性熱性疾患の経過観察の中から導き出されたもの
・病邪は体表→ 半表半裏→ 裏、と進展していく
▢ 病気の進行は、表→ 半表半裏→ 裏
【表】体表部に闘病反応の結果が表出
・体表部付近:皮膚・四肢
・頭痛、悪寒、発熱、項背筋のこわばりと痛み、四肢の関節痛・筋肉痛
【半表半裏】
・胸郭内症状:咳嗽、胸満感、胸痛、胸内苦悶感
・上部消化器症状:悪心、嘔吐、口苦、心窩部痛、季肋部痛
【裏】
・身体深部:消化管付近
・消化器症状:腹部膨満、下痢、便秘
・身体深部の熱感、稽留熱、せん妄
▢ 表裏の概念に対応する治療の考え方
【表】→ 体表から侵入しようとしている「寒邪」を発汗して追い出す(発汗解表)
(例)麻黄湯、葛根湯、桂枝湯 ・・・ジワッと気持ちの良い汗をかいて下着を3回取り替えるくらいで内服終了
【半表半裏】→ 追い出せないので病邪を抑制(抗生剤のイメージ)
(例)小柴胡湯
【裏】→ 便秘で病邪が消化管に留まる場合は下して追い出せ!
▢ 小柴胡湯の構成生薬と薬効
(構成)柴胡・黄岑・半夏・生姜・人参・大棗・甘草
(証)半表半裏
・消炎:柴胡、黄岑
・鎮咳去痰:半夏
・鎮吐:半夏、生姜
・健胃:生姜、人参、大棗、甘草
・向精神薬:柴胡、半夏、大棗、甘草
▢ 小柴胡湯加桔梗石膏の構成生薬と薬効
(構成)小柴胡湯+桔梗・石膏
・桔梗石膏:消炎・抗化膿、去痰、排膿
(証)半表半裏
(適応病態)
・扁桃炎の漢方、気管支炎・肺炎にも有効
・副鼻腔炎(副鼻腔は半表半裏)・リンパ節炎にも使える
・膿性痰・粘稠痰を伴う咳
・+半夏厚朴湯→ 咳・痰を減らす(柴朴湯)
▢ 半夏厚朴湯の構成生薬と薬効
(構成)半夏・高木・茯苓・生姜・蘇葉
・半夏:化痰(消炎酵素剤のイメージ)、鎮咳
・厚朴:平滑筋鎮痙作用→ 痙攣性咳嗽
・半夏・厚朴茯苓・生姜・蘇葉:利水作用
(適応病態)
・声帯炎(生体の軽度の浮腫)、嗄声、気管支炎に
・「コンコン咳が出る。痰は絡む感じがするけど出てこない」
→ 咽喉頭異常感症
▢ 目が飛び出すような咳に有効な越婢加半夏湯
・越婢加朮湯+半夏
→ (半夏の代わりに半夏含有方剤を追加)
+小半夏加茯苓湯
+小柴胡湯
+半夏厚朴湯
+柴朴湯
・小柴胡湯+五虎湯(松田邦夫先生ご愛用、錠剤で対応可能)
・小柴胡湯+麻杏甘石湯
▢ 小柴胡湯+五虎湯の構成生薬と薬効
(構成生薬)
・小柴胡湯+五虎湯:消炎→ 膿性痰
・柴胡:胸が苦しくなる咳(胸脇苦満)
・麻黄:気管支鎮痙作用
・去痰:分泌物減少、粘液溶解
(適応病態)
・(膿性)痰の出る激しい咳
▢ 小柴胡湯加桔梗石膏+五虎湯の構成生薬と薬効
(適応病態)
・消炎作用が強力→ 膿性痰が多い咳
・越婢加半夏湯の生薬構成を含んでいる
・かつ、小柴胡湯よりさらに消炎排膿が期待される
▢ 柴朴湯の構成生薬と薬効
(構成生薬)半夏厚朴湯++小柴胡湯
・「三日以内に70-80%の症例が効果を実感する」(内薗明裕)
▢ 咳止め治療の視点
1.感冒の関与:熱の有無・性状で生薬を選択
・往来寒熱→ 柴胡
・発熱→ 石膏・柴胡
2.鼻症状の有無:鼻閉・鼻漏・後鼻漏
・麻黄で鼻閉・鼻漏の改善
3.痰の状態:有無・透明/膿性/粘稠
・半夏:粘液溶解、分泌物減少・・・乾かす漢方
(例)半夏厚朴湯、柴朴湯、五虎湯
4.咽頭乾燥〜口呼吸・・・目が覚めたらのどがカラカラで水を飲みたい
・潤す漢方の使用
(例)麦門冬湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯
5.アレルギー性鼻炎の有無
・麻黄製剤が補助的に:五虎湯
6.咳?咳払い?痰は絡むけど出てこない?
・痰の絡み感:咽喉頭異常感症
(例)半夏厚朴湯、柴朴湯
8.「咳をしてはいけない」と意識するほど咳が出る!
・脳が気管支に直結!
(例)柴朴湯、神秘湯、半夏厚朴湯、
小柴胡湯、竹筎温胆湯、参蘇飲
▢ 咳の漢方治療:
<咳のみ>
・第一選択:柴朴湯+五虎湯・・・激しい咳、(膿性)痰の出る咳でも
・第二選択:神秘湯+麦門冬湯・・・乾性の激しい咳(麻黄)
→ 麻黄剤のため、高血圧・前立腺肥大に注意
・麻黄が使いにくい場合:
柴朴湯+麦門冬湯・・・乾性の激しい咳
半夏厚朴湯+麦門冬湯・・・乾性の咳
<咳+発熱>
・消炎作用のある柴胡・石膏などが必要
(柴胡・石膏含有方剤例)
小柴胡湯(柴胡)
小柴胡湯加桔梗石膏(柴胡・石膏)
小柴胡湯+五虎湯(柴胡+石膏)
小柴胡湯加桔梗石膏+五虎湯(柴胡+石膏増量)
(処方例)
柴朴湯+五虎湯・・・(膿性)痰の出る激しい咳
柴朴湯+麦門冬湯・・・乾性の激しい咳
小柴胡湯加桔梗石膏+五虎湯・・・膿性痰の咳
竹筎温胆湯+五虎湯・・・膿性痰の咳
参蘇飲+五虎湯・・・頭痛、発熱、悪寒、咳、痰、悪心、嘔吐
<咳+発熱+カゼ症状>
参蘇飲+五虎湯・・・頭痛、発熱、悪寒、咳、痰、悪心、嘔吐
竹筎温胆湯+五虎湯・・・こじれた風邪
・小柴胡湯証
柴朴湯+五虎湯
柴朴湯+麦門冬湯
小柴胡湯加桔梗石膏+五虎湯
▢ 咳止め漢方の視点から生薬を分析
① 麻黄:≒エフェドリン、気管支拡張作用
② 柴胡:消炎作用、胸脇苦満(※)、往来寒熱
③ 半夏:咳・嘔気を止める、痰を減らす
④ 消炎する生薬:柴胡、黄連、黄岑
⑤ 潤す生薬:麦門冬、天門冬、知母
⑥ 乾かす生薬:柴胡、半夏、黄岑
⑦ 精神安定の生薬:柴胡、半夏、素養、陳皮
※ 胸脇苦満:咳で胸が苦しければOK。
<以降は構成生薬から見た咳止め効果分析>
▢ 小柴胡湯
(① 麻黄)
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬
(⑤ 潤す生薬)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬
▢ 小柴胡湯+五虎湯
① 麻黄
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬
(⑤ 潤す生薬)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬
▢ 小柴胡湯加桔梗石膏
(① 麻黄)
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬(強力)
⑤ 潤す生薬(石膏)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬
▢ 半夏厚朴湯
(① 麻黄)
(② 柴胡)
③ 半夏
(④ 消炎する生薬)
(⑤ 潤す生薬)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬
▢ 柴朴湯
(① 麻黄)
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬
(⑤ 潤す生薬)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬(強力!)
▢ 柴朴湯+五虎湯
① 麻黄
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬
(⑤ 潤す生薬)
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬
▢ 神秘湯+麦門冬湯
① 麻黄
② 柴胡
③ 半夏
(④ 消炎する生薬)
⑤ 潤す生薬
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬(強力)
▢ 麦門冬湯+柴朴湯
(① 麻黄)
② 柴胡
③ 半夏
④ 消炎する生薬
⑤ 潤す生薬
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬
▢ 麦門冬湯+半夏厚朴湯
(① 麻黄)
(② 柴胡)
③ 半夏(増量)
(④ 消炎する生薬)
⑤ 潤す生薬
⑥ 乾かす生薬
⑦ 精神安定の生薬