竹筎温胆湯(91)は「風邪が長引いて微熱が去らず、夜間の咳で不眠に陥っている状態」に使う漢方薬というイメージを持っています。
ただ、私はまだ処方したことがありません。
今回、この方剤について考える機会があり、その成り立ちと薬効を再確認してみました。
【竹茹温胆湯】半夏5;麦門冬4;柴胡・竹茹・茯苓各3;桔梗・枳実・陳皮・香附子・乾生姜各2;黄連・人参・甘草各1
<ポイント>
(秋葉哲生先生)温胆湯(二陳湯+竹茹+枳実)+柴胡・黄連・麦門冬
(織部和宏先生)温胆湯証+小柴胡湯証
(杵渕 彰先生)温胆湯は虚煩による不眠を目的として作られ、竹筎温胆湯は他の温胆湯類よりも煩躁(じっとしていられないような症状)が強いときに用いられる。
(丹羽幸吉先生)茯苓飲(あるいは二陳湯)に小柴胡湯と麦門冬湯を組み合わせたようなもの
(田邊智子先生)二陳湯・黄連温胆湯・小柴胡湯・六君子湯の方意が含まれる
(中医学)証:痰熱上擾・肝気鬱結、治法: 清熱化痰・和胃降逆・解鬱・滋陰益気
(秋葉哲生先生)
原方の温胆湯は、胃の水毒を処理する二陳湯に炎症性の痰をさばく竹茹と、気を巡らす枳実を加えたもので、物事に驚きやすく心に怯えがあるような状態を改善する作用がある。
それに気道の炎症を治療する柴胡や黄連、麦門冬などが加わったもので、脳血管障害などの意識レベルが低下しやすい基礎疾患を有する高齢者の咳嗽に用いる機会がある。
本方は不眠などにも用いられるので、睡眠導入剤などの減量も可能になる場合がある。
長期投与も問題はない。
(織部和宏先生)
この方剤の出典は「万病回春」(1587年)の著者として有名な明の龔廷賢(きょうていけん)の「寿世保元」である。
万病回春では巻の二「傷寒」に「傷寒にて病後眠らざる者は心胆虚怯するなり」と温胆湯の次に出てくる。
使用目標として「傷寒にて日数過多してその熱が退かず、夢寝寧からず。心驚恍惚、煩躁して痰多く眠らざる者を治す」とある。
山田光胤先生著の「漢方処方応用の実際」では他に、「この際、精神不安や心悸亢進があったり、意識がはっきりしないことがある」あるいは「小柴胡湯の証に温胆湯の証を兼ねたような場合である」。
では温胆湯の証とはどんな内容であろうか。
出典は「千金要方」で、構成生薬は「陳皮、半夏、茯苓、乾姜、甘草、竹茹、枳実」、要するに二陳湯加竹茹、枳実であり、光胤先生の前掲の書では、「平素、胃腸の弱い人、あるいは高熱、大病の後で胃腸の機能が衰えた人などが元気を回復せず、気が弱くなって些細なことに驚いたり、少しのことで胸騒ぎし、息が弾んだり、動悸がしたり、気分が憂うつで夜はよく眠れない。また、たまたま眠れば夢ばかり見ていて、起きてから熟睡感・睡眠による満足感が少しも無く、自然に汗が出たり、盗汗・寝汗があったり、頭から汗が出やすかったりする。」とその適応が述べられている。
要するに竹筎温胆湯(91)は、小柴胡湯とこの温胆湯を合わせたような病態に使用すれば良いわけである。
(杵渕彰先生)
1.使用目標
対象はやや虚証の人。体格などを見ると比較的中間証からやや実証に見えても、実際は虚している場合が対象になります。
感冒などが長引いて、虚してきているときなどに用いる機会が多いものです。
まず一番有効なのは、咳が長引き、咳のために不眠になっている場合です。古典に見られる使い方は、ほとんどがこのような咳の症状が主となっていて不眠を伴うものです。この場合の咳の性状について、古典ではあまり記載がありませんが、痰の量が多いものと書いてあるものがあり、少なくとも「余熱痰を挟む」という状態で、麦門冬湯のような乾咳ではないようです。
また、咳のみに用いることもあります。感冒などが長引いて、咳だけ残るときに用います。古典の記載はこのような咳が取れない場合に使うというものが多いと思います。
さらに不眠単独でも用いられます。咳を伴わない不眠症に用います。しかしこの場合でもすべての不眠に有効なわけではありません。物事に驚きやすくなっていて、不安が強い人で、浅眠が続くような例に効果があります。これは温胆湯類似共通する目標になります。この竹筎温胆湯は他の温胆湯よりも煩躁(じっとしていられないような症状)が強いときに用いられるという記載が多いものです。
2.温胆湯類について
温胆湯は、唐代7世紀に書かれた『備急千金要方』に記載された温胆湯(半夏、竹茹、枳実、橘皮、生姜、甘草)から始まったとされ、宋代の『三因極一病証方論』で茯苓と大棗が加わり、さらに明代になると多数の同名異方が見られます。これらの温胆湯(加味温胆湯、温胆湯加減など)は虚煩による不眠を目的として作られてきており、この竹筎温胆湯(91)もこの系譜の中の処方の一つです。和田東郭は、千金方、三因方の温胆湯は力が弱いので、龔廷賢が炎症症状が見られるときにこの竹筎温胆湯(91)を作ったもので、炎症症状があるといっても経過が長引き、攻撃的な治療ができないときに用いる処方であると述べております。
なお、温胆湯は千金要方から始まったということになりますが、さらにその成立は『黄帝内経』にみられる不眠に使われた半夏湯から始まったと云われており、もっとも古い処方の系譜になるものと考えられます。
(丹羽幸吉先生)
竹筎温胆湯の方意を考えるにあたり、方剤をいくつかの基本法剤に分解してみる。するとおおよそ、茯苓飲あるいは二陳湯に小柴胡湯と、麦門冬湯を組み合わせたようなものとみなすことができる。換言すれば、虚証で消化機能が虚弱(茯苓飲・二陳湯)で、熱が胸膈に滞留している状態(小柴胡湯)である。そして、喉の症状や咳を(麦門冬湯)でとる。そうして胸膈の熱が取れれば気も下がって頭痛も取れるし眠れるようになると云うことである。
竹筎温胆湯証の診断は、体質と症状(のどのイガイガ・咳・痰・微熱あるいは熱っぽい感じ・寒気・頭痛など)に注目すれば比較的容易である。方剤の使用目標としては、
1.かぜで病態が同様であれば、罹病期間にかかわらず、こじれた時期ばかりでなく、発病初期にも使用できる
2.主に虚証の人が対象となる
方剤の有効性は高く、効き方は即効的である。
(近藤寛治・長野準・吾郷晋浩ほか.かぜ症候群に対する竹筎温胆湯の臨床治験.和漢医薬学会誌,1984,1(1),p.124)
竹筎温胆湯の使用目標;
1.虚証(ときに 中間証)
2.気道の炎症による症状が少なくとも1週間以上にわたって遷延していること
3.不眠などの精神神経症状(気道由来のもの)が存在すること
4.胸脇苦満(高度ではない)
(田邊智子先生)
竹筎温胆湯は明代の『万病回春』に収められている方剤で二陳湯・黄連温胆湯・小柴胡湯・六君子湯の方意が含まれると思われる(表)。
二陳湯は去痰作用をもつ基本処方。
黄連温胆湯は温胆湯から大棗を除き、黄連を加えた処方で、痰熱による不眠・焦燥感・めまいなどの神経症状に用いる。
小柴胡湯は少陽の熱を取る作用があり、さまざまな炎症疾患に用いられる。
六君子湯は胃腸虚弱と痰湿によるさまざまな胃腸症状を改善する。
竹筎温胆湯は去痰・解鬱・抗炎症・健脾(胃腸機能を高める)の作用があり、臨床では、感冒・インフルエンザ・気管支炎・肺炎などで、咳・黄痰が残っている場合に用いられる。また、COPD(閉塞性肺疾患)・肺気腫・ 気管支拡張症など呼吸器に慢性炎症をもっている人がかぜを引いたときにもよい。
竹筎温胆湯を使うポイントは、
1.発熱後、咳・黄色い痰が長引く
2.夜、咳・痰で眠れない
3.胃腸が弱いないしは胃腸機能が落ちている
の3点かと思わ れる。
現代はストレス社会と生活の乱れによって、神経質で胃腸虚弱体質の人が多くみられる。このような人の炎症性の咳・痰の症状には、慢性期でも急性期でも効果がある。また、呼吸器以外にも、うつ病・不眠症・自律神経失調症・眩暈症・胃腸炎など、さまざまな疾患に対応ができる使用しやすい方剤といえる。
(ツムラ:絵でわかる漢方処方解説シリーズ49、竹筎温胆湯より)
(ハル薬局の中医学的解説)
【八綱分類】裏熱虚、気上衝(のぼせ・イライラ・緊張・不安)
【弁証論治】
・証:痰熱上擾(たんねつじょうじょう)・肝気鬱結(かんきうっけつ)
・治法: 清熱化痰・和胃降逆・解鬱・滋陰益気
【成分】
竹茹温胆湯は、方剤名の竹茹をはじめ下記のようなたくさんの生薬からなります。
主薬の竹茹は降性の生薬で、熱や咳、吐き気、あるいは神経の高ぶりを降下し鎮める作用があるといわれます。言いかえれば、解熱作用、鎮咳作用、鎮吐作用、鎮静作用などが期待できるわけです。
半夏と枳実も降性で、主薬の作用を引き出し補強します。
麦門冬、桔梗、陳皮は、漢方の代表的な去痰薬で、痰や膿を出しやすくします。
そのほか、熱や炎症をさます柴胡や黄連、滋養・強壮作用の人参、痛みを発散させる香附子などが含まれます。
最後にまとめは秋葉哲生先生の「活用自在の漢方処方」より
■ 竹筎温胆湯
1 出典:龔廷賢著『万病回春』
●傷寒にて日数過多してその熱が退かず、夢寐寧(=安)からず、心驚恍惚、煩躁して痰多く眠らざる者を治す。(傷寒門)
2 腹候:腹力中等度よりやや軟(2-3/5)。ときに胸脇苦満、胃内停水を認める。
3 気血水: 気血水のいずれとも関わる。
4 六病位:少陽病。
5 脈・舌:発熱性疾患の経過に生じる痰熱上擾では、 舌質は紅、舌苔は黄膩、脈は弦滑数。 痰熱上擾で肝気鬱結と、気陰両虚を伴う場合は、舌苔は黄膩、脈は弦滑。(『中医処方解説』)
6 口訣:
●この方は竹葉石膏湯よりはやや実して、胸膈に鬱熱有り、咳嗽不眠の者 に用う。雑病にても婦人胸中鬱熱有りて咳嗽著しい者に効あり。不眠のみに拘るべからず。(浅田宗伯)
7 本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態:
効能または効果:インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、せきや痰が多くて安眠ができないもの。
b 漢方的適応病態:
1)発熱性疾患の経過に生じる痰熱上擾(たんねつじょうじょう)。すなわち持続性発熱、多痰を伴う。
2)痰熱上擾。すなわち、いらいら、怒りっぽい、胸脇部の脹った痛み、 腹部膨満感などの肝気鬱結の症候と、疲れやすい、食欲がない、口渇など の気陰両虚の症候を伴うもの。舌苔は黄膩、脈は弦滑。
●本方は痰熱上擾で、熱証の強いものに用いる処方である。(『中医処方解 説』)
8 構成生薬:
半夏5、柴胡3、麦門冬3、茯苓3、桔梗2、枳実2、香附子2、陳皮2、黄連1、 甘草1、生姜1、人参1、竹筎3。(単位g)
9 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説:清化熱痰・和胃降逆・清熱解欝・滋陰益気。
より深い理解のために 温胆湯(二陳湯、竹筎、枳実)に、清熱の柴胡・黄連と、 理気の香附子・祛痰の桔梗・滋陰の麦門冬・補気の人参を配した。竹筎は消炎作用。
10 効果増強の工夫:
1 )ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、胸脇部の張った痛みなど肝気鬱 結には、四逆散を合方する。
処方例)ツムラ竹筎温胆湯 5.0g
ツムラ四逆散 5.0g 分2食前
2 )不眠が強ければ、帰脾湯を合する。
処方例)ツムラ竹筎温胆湯 5.0g
ツムラ帰脾湯 5.0g 分2食前
3 )動悸、不眠を伴えば、桂枝加竜骨牡蛎湯を合方。
処方例)ツムラ竹筎温胆湯
ツムラ桂枝加竜骨牡蛎湯 5.0g 5.0g 分2食前
11 本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『漢方後世要方解説』より 経過中熱が去らず、胸中鬱熱、痰があって不眠、煩躁するものの、諸熱性 病。痰が胸中に滞り、驚きやすく不眠の不眠症。胸中鬱塞し、痰が出て不 眠、驚きやすい心悸亢進症。酒客の痰持ち、酒客で顔色の赤いもの、不眠 の症あるもの。
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より 熱病、不眠症、心悸亢進症、肺炎。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より 胃アトニー体質者の不眠・神経症、呼吸器疾患で熱が長引き、咳痰がとれ ず、イライラして眠れないような場合。
ただ、私はまだ処方したことがありません。
今回、この方剤について考える機会があり、その成り立ちと薬効を再確認してみました。
【竹茹温胆湯】半夏5;麦門冬4;柴胡・竹茹・茯苓各3;桔梗・枳実・陳皮・香附子・乾生姜各2;黄連・人参・甘草各1
<ポイント>
(秋葉哲生先生)温胆湯(二陳湯+竹茹+枳実)+柴胡・黄連・麦門冬
(織部和宏先生)温胆湯証+小柴胡湯証
(杵渕 彰先生)温胆湯は虚煩による不眠を目的として作られ、竹筎温胆湯は他の温胆湯類よりも煩躁(じっとしていられないような症状)が強いときに用いられる。
(丹羽幸吉先生)茯苓飲(あるいは二陳湯)に小柴胡湯と麦門冬湯を組み合わせたようなもの
(田邊智子先生)二陳湯・黄連温胆湯・小柴胡湯・六君子湯の方意が含まれる
(中医学)証:痰熱上擾・肝気鬱結、治法: 清熱化痰・和胃降逆・解鬱・滋陰益気
(秋葉哲生先生)
原方の温胆湯は、胃の水毒を処理する二陳湯に炎症性の痰をさばく竹茹と、気を巡らす枳実を加えたもので、物事に驚きやすく心に怯えがあるような状態を改善する作用がある。
それに気道の炎症を治療する柴胡や黄連、麦門冬などが加わったもので、脳血管障害などの意識レベルが低下しやすい基礎疾患を有する高齢者の咳嗽に用いる機会がある。
本方は不眠などにも用いられるので、睡眠導入剤などの減量も可能になる場合がある。
長期投与も問題はない。
(織部和宏先生)
この方剤の出典は「万病回春」(1587年)の著者として有名な明の龔廷賢(きょうていけん)の「寿世保元」である。
万病回春では巻の二「傷寒」に「傷寒にて病後眠らざる者は心胆虚怯するなり」と温胆湯の次に出てくる。
使用目標として「傷寒にて日数過多してその熱が退かず、夢寝寧からず。心驚恍惚、煩躁して痰多く眠らざる者を治す」とある。
山田光胤先生著の「漢方処方応用の実際」では他に、「この際、精神不安や心悸亢進があったり、意識がはっきりしないことがある」あるいは「小柴胡湯の証に温胆湯の証を兼ねたような場合である」。
では温胆湯の証とはどんな内容であろうか。
出典は「千金要方」で、構成生薬は「陳皮、半夏、茯苓、乾姜、甘草、竹茹、枳実」、要するに二陳湯加竹茹、枳実であり、光胤先生の前掲の書では、「平素、胃腸の弱い人、あるいは高熱、大病の後で胃腸の機能が衰えた人などが元気を回復せず、気が弱くなって些細なことに驚いたり、少しのことで胸騒ぎし、息が弾んだり、動悸がしたり、気分が憂うつで夜はよく眠れない。また、たまたま眠れば夢ばかり見ていて、起きてから熟睡感・睡眠による満足感が少しも無く、自然に汗が出たり、盗汗・寝汗があったり、頭から汗が出やすかったりする。」とその適応が述べられている。
要するに竹筎温胆湯(91)は、小柴胡湯とこの温胆湯を合わせたような病態に使用すれば良いわけである。
(杵渕彰先生)
1.使用目標
対象はやや虚証の人。体格などを見ると比較的中間証からやや実証に見えても、実際は虚している場合が対象になります。
感冒などが長引いて、虚してきているときなどに用いる機会が多いものです。
まず一番有効なのは、咳が長引き、咳のために不眠になっている場合です。古典に見られる使い方は、ほとんどがこのような咳の症状が主となっていて不眠を伴うものです。この場合の咳の性状について、古典ではあまり記載がありませんが、痰の量が多いものと書いてあるものがあり、少なくとも「余熱痰を挟む」という状態で、麦門冬湯のような乾咳ではないようです。
また、咳のみに用いることもあります。感冒などが長引いて、咳だけ残るときに用います。古典の記載はこのような咳が取れない場合に使うというものが多いと思います。
さらに不眠単独でも用いられます。咳を伴わない不眠症に用います。しかしこの場合でもすべての不眠に有効なわけではありません。物事に驚きやすくなっていて、不安が強い人で、浅眠が続くような例に効果があります。これは温胆湯類似共通する目標になります。この竹筎温胆湯は他の温胆湯よりも煩躁(じっとしていられないような症状)が強いときに用いられるという記載が多いものです。
2.温胆湯類について
温胆湯は、唐代7世紀に書かれた『備急千金要方』に記載された温胆湯(半夏、竹茹、枳実、橘皮、生姜、甘草)から始まったとされ、宋代の『三因極一病証方論』で茯苓と大棗が加わり、さらに明代になると多数の同名異方が見られます。これらの温胆湯(加味温胆湯、温胆湯加減など)は虚煩による不眠を目的として作られてきており、この竹筎温胆湯(91)もこの系譜の中の処方の一つです。和田東郭は、千金方、三因方の温胆湯は力が弱いので、龔廷賢が炎症症状が見られるときにこの竹筎温胆湯(91)を作ったもので、炎症症状があるといっても経過が長引き、攻撃的な治療ができないときに用いる処方であると述べております。
なお、温胆湯は千金要方から始まったということになりますが、さらにその成立は『黄帝内経』にみられる不眠に使われた半夏湯から始まったと云われており、もっとも古い処方の系譜になるものと考えられます。
(丹羽幸吉先生)
竹筎温胆湯の方意を考えるにあたり、方剤をいくつかの基本法剤に分解してみる。するとおおよそ、茯苓飲あるいは二陳湯に小柴胡湯と、麦門冬湯を組み合わせたようなものとみなすことができる。換言すれば、虚証で消化機能が虚弱(茯苓飲・二陳湯)で、熱が胸膈に滞留している状態(小柴胡湯)である。そして、喉の症状や咳を(麦門冬湯)でとる。そうして胸膈の熱が取れれば気も下がって頭痛も取れるし眠れるようになると云うことである。
竹筎温胆湯証の診断は、体質と症状(のどのイガイガ・咳・痰・微熱あるいは熱っぽい感じ・寒気・頭痛など)に注目すれば比較的容易である。方剤の使用目標としては、
1.かぜで病態が同様であれば、罹病期間にかかわらず、こじれた時期ばかりでなく、発病初期にも使用できる
2.主に虚証の人が対象となる
方剤の有効性は高く、効き方は即効的である。
(近藤寛治・長野準・吾郷晋浩ほか.かぜ症候群に対する竹筎温胆湯の臨床治験.和漢医薬学会誌,1984,1(1),p.124)
竹筎温胆湯の使用目標;
1.虚証(ときに 中間証)
2.気道の炎症による症状が少なくとも1週間以上にわたって遷延していること
3.不眠などの精神神経症状(気道由来のもの)が存在すること
4.胸脇苦満(高度ではない)
(田邊智子先生)
竹筎温胆湯は明代の『万病回春』に収められている方剤で二陳湯・黄連温胆湯・小柴胡湯・六君子湯の方意が含まれると思われる(表)。
二陳湯は去痰作用をもつ基本処方。
黄連温胆湯は温胆湯から大棗を除き、黄連を加えた処方で、痰熱による不眠・焦燥感・めまいなどの神経症状に用いる。
小柴胡湯は少陽の熱を取る作用があり、さまざまな炎症疾患に用いられる。
六君子湯は胃腸虚弱と痰湿によるさまざまな胃腸症状を改善する。
竹筎温胆湯は去痰・解鬱・抗炎症・健脾(胃腸機能を高める)の作用があり、臨床では、感冒・インフルエンザ・気管支炎・肺炎などで、咳・黄痰が残っている場合に用いられる。また、COPD(閉塞性肺疾患)・肺気腫・ 気管支拡張症など呼吸器に慢性炎症をもっている人がかぜを引いたときにもよい。
竹筎温胆湯を使うポイントは、
1.発熱後、咳・黄色い痰が長引く
2.夜、咳・痰で眠れない
3.胃腸が弱いないしは胃腸機能が落ちている
の3点かと思わ れる。
現代はストレス社会と生活の乱れによって、神経質で胃腸虚弱体質の人が多くみられる。このような人の炎症性の咳・痰の症状には、慢性期でも急性期でも効果がある。また、呼吸器以外にも、うつ病・不眠症・自律神経失調症・眩暈症・胃腸炎など、さまざまな疾患に対応ができる使用しやすい方剤といえる。
(ツムラ:絵でわかる漢方処方解説シリーズ49、竹筎温胆湯より)
(ハル薬局の中医学的解説)
【八綱分類】裏熱虚、気上衝(のぼせ・イライラ・緊張・不安)
【弁証論治】
・証:痰熱上擾(たんねつじょうじょう)・肝気鬱結(かんきうっけつ)
・治法: 清熱化痰・和胃降逆・解鬱・滋陰益気
【成分】
竹茹温胆湯は、方剤名の竹茹をはじめ下記のようなたくさんの生薬からなります。
主薬の竹茹は降性の生薬で、熱や咳、吐き気、あるいは神経の高ぶりを降下し鎮める作用があるといわれます。言いかえれば、解熱作用、鎮咳作用、鎮吐作用、鎮静作用などが期待できるわけです。
半夏と枳実も降性で、主薬の作用を引き出し補強します。
麦門冬、桔梗、陳皮は、漢方の代表的な去痰薬で、痰や膿を出しやすくします。
そのほか、熱や炎症をさます柴胡や黄連、滋養・強壮作用の人参、痛みを発散させる香附子などが含まれます。
最後にまとめは秋葉哲生先生の「活用自在の漢方処方」より
■ 竹筎温胆湯
1 出典:龔廷賢著『万病回春』
●傷寒にて日数過多してその熱が退かず、夢寐寧(=安)からず、心驚恍惚、煩躁して痰多く眠らざる者を治す。(傷寒門)
2 腹候:腹力中等度よりやや軟(2-3/5)。ときに胸脇苦満、胃内停水を認める。
3 気血水: 気血水のいずれとも関わる。
4 六病位:少陽病。
5 脈・舌:発熱性疾患の経過に生じる痰熱上擾では、 舌質は紅、舌苔は黄膩、脈は弦滑数。 痰熱上擾で肝気鬱結と、気陰両虚を伴う場合は、舌苔は黄膩、脈は弦滑。(『中医処方解説』)
6 口訣:
●この方は竹葉石膏湯よりはやや実して、胸膈に鬱熱有り、咳嗽不眠の者 に用う。雑病にても婦人胸中鬱熱有りて咳嗽著しい者に効あり。不眠のみに拘るべからず。(浅田宗伯)
7 本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態:
効能または効果:インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、せきや痰が多くて安眠ができないもの。
b 漢方的適応病態:
1)発熱性疾患の経過に生じる痰熱上擾(たんねつじょうじょう)。すなわち持続性発熱、多痰を伴う。
2)痰熱上擾。すなわち、いらいら、怒りっぽい、胸脇部の脹った痛み、 腹部膨満感などの肝気鬱結の症候と、疲れやすい、食欲がない、口渇など の気陰両虚の症候を伴うもの。舌苔は黄膩、脈は弦滑。
●本方は痰熱上擾で、熱証の強いものに用いる処方である。(『中医処方解 説』)
8 構成生薬:
半夏5、柴胡3、麦門冬3、茯苓3、桔梗2、枳実2、香附子2、陳皮2、黄連1、 甘草1、生姜1、人参1、竹筎3。(単位g)
9 TCM(Traditional Chinese Medicine)的解説:清化熱痰・和胃降逆・清熱解欝・滋陰益気。
より深い理解のために 温胆湯(二陳湯、竹筎、枳実)に、清熱の柴胡・黄連と、 理気の香附子・祛痰の桔梗・滋陰の麦門冬・補気の人参を配した。竹筎は消炎作用。
10 効果増強の工夫:
1 )ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、胸脇部の張った痛みなど肝気鬱 結には、四逆散を合方する。
処方例)ツムラ竹筎温胆湯 5.0g
ツムラ四逆散 5.0g 分2食前
2 )不眠が強ければ、帰脾湯を合する。
処方例)ツムラ竹筎温胆湯 5.0g
ツムラ帰脾湯 5.0g 分2食前
3 )動悸、不眠を伴えば、桂枝加竜骨牡蛎湯を合方。
処方例)ツムラ竹筎温胆湯
ツムラ桂枝加竜骨牡蛎湯 5.0g 5.0g 分2食前
11 本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『漢方後世要方解説』より 経過中熱が去らず、胸中鬱熱、痰があって不眠、煩躁するものの、諸熱性 病。痰が胸中に滞り、驚きやすく不眠の不眠症。胸中鬱塞し、痰が出て不 眠、驚きやすい心悸亢進症。酒客の痰持ち、酒客で顔色の赤いもの、不眠 の症あるもの。
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より 熱病、不眠症、心悸亢進症、肺炎。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より 胃アトニー体質者の不眠・神経症、呼吸器疾患で熱が長引き、咳痰がとれ ず、イライラして眠れないような場合。