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ツリオヤジのダイアリシスな日々 ~ 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事 (葉隠 聞書第一0202)

釣魚売買サイトへの所感

2019-04-15 05:56:25 | 釣りの話題

流行に乗り遅れてしまいましたが、ちょっと前に話題になった釣魚売買サイトに関する意見です。

上のスクリーンショットのように、"釣魚売買サイト"でぐぐってみると、いろいろ出てきます。
今回のフレイムの発端となったFish Sale はサイトは立ち上げ延期になってますが、ちょっと端からみててもかわいそうなくらい叩かれてました^^;。ここでは釣魚売買サイトを叩くつもりはありません。

私は釣り人が釣った魚を売買することには反対で、自分でも売買サイトを利用する気はさらさらありません。しかしながら、こういった売買サイトが出てくるのは時代の流れでやむを得ないことかと思います。amazonや楽天でも鮮魚が買える時代ですから。

最も怖いのは、(従来には無かった)素人の売買行為が横行すると、それを規制するために、従来の釣りに新たな規制が掛かることです。具体的には、遊漁者が職漁者から締め出しを食らうなどが挙げられます。

その他にもいろいろ懸念はあるのですが、長々と書くのもまとまりを欠きそうなので、思い付きで小説風に書いてみました。駄文ながらこちらの方がまだ思いが伝わりやすいかな、と。登場するKという人物は夏目漱石先生の真似で他意はないです。内容はすべてフィクションです。

 

【【【【  釣魚売買サイトの未来像 ~ 四部作  】】】】

 

序章:虚空のスキャット

 穏やかな秋の日だった。大原港では10月1日からヒラメ釣りが解禁となり、早朝の港は多くの釣り人で賑わっていた。2020年の東京オリンピックの喧噪も過ぎ去り、世間ではちょっとしたアウトドアブームが起きていた。芸能タレントやプロスポーツ選手がアウトドアレジャーに興じる姿がYoutubeで発信されている。その中には釣りのコンテンツも多く含まれているせいか、若い世代の間で釣りがブームになりつつあるようで、港を歩く釣り人にもカラフルなウェアに身を包んだ20代が多くみられた。

 Kは50代を過ぎた釣り師である。若い頃に上司に連れられて始めた沖釣りにすっかりはまってしまい、週末になると釣り船に乗ることがもう30年以上も続いている。仕事よりも釣りに一生懸命になって人生を過ごしてきたかもしれない。休みのたびに各地のいろいろな魚を釣り歩いていたが、ここ数年は馴染みの船長の船でのんびりと竿を出すようになった。どんな魚でも釣れるときは簡単に釣れるし、釣れないときはいくら頑張ってもダメなのが自然相手の趣味であるということは、30年の釣り経験の中で身に染みて理解していた。

 今日の狙いはヒラメだ。巷では高級魚と呼ばれるヒラメだが、釣りとしてはそれほど難しいものではない。現在はタックルが高性能になり、特に餌を食い込ませることが重要なヒラメ釣りでは、専用のロッドを使えば容易に針ガカリさせられるようになった。それでも、釣り座の違いや餌の付け方、棚の取り方などいくつかの要素によって各人の釣果に差がついてしまう。これはヒラメ釣りに限らず、どんな釣りでも仕方のないことだ。

 この日もヒラメは好調に釣れた。釣りの終了時間には、Kの足元にある大きな桶には2kg前後の食べ頃サイズのヒラメが6枚泳いでいた。Kはひとり暮らし、晩酌の肴にするには多すぎる。毎週通っている飲み屋の主人に分けてあげるにも十分な量だ。この日Kの座った舷の一番前に初心者と思われるカップルが乗っていたのをKは見ていた。何度かアタリはあったようだが、慌てて竿をあおってしまいヒラメは掛からない。そのうち男性の方が船酔いをしてしまい、後半は竿を出さずにいたのが見えた。ゆえにヒラメを釣り上げてはいない、いわゆるボウズという奴だ。

 Kは船長に声をかけて、釣れない人に自分のヒラメを分けてやってくれと伝えた。「Kさん、いつも悪いね、2枚もってくね、ありがとうね」と船長はバケツに活きたヒラメを移し始めた。釣れなかった人に釣果を分けるとき、Kは船長に仲介してもらうようにしている。ボウズになった人のプライドを傷つけたくないという理由と、感謝してお礼を言われるのが苦手だったからだ。

 船を降りたとき、初心者のカップルがやってきた。船長には「人に分けるときには誰からの魚だとか、わざわざ伝えなくていいよ」と言ってあるが、魚をもらった人が、この魚はどうしたのだ、誰かが釣ったものか、ならば一言お礼を言いたい、と船長にしつこく聞くことはたまにある。

 そのカップルはヒラメ釣り回めだが、これまで一度も釣れなかったそうだ。どうも男性の方が船に弱く、すぐに酔ってしまうらしい。船酔いしても釣れなくても、何度も通ってくるその根性や良し、Kはこのカップルに好感を持った。それならこのヒラメは美味しく食べてもらいたい、Kはとっておきのヒラメ料理を教えてあげようと思った。すると、女性が明るい声で言った。

 「ほんとうにありがとうございます。これでやっとネットの売買サイトにヒラメを出品できます。これまでアジとかサバを釣って売りに出したけど、ぜんぜん売れなかったんです。ヒラメなら高級なんで売れるかな?と思って釣りにきました。高く売れるといいな♪」

 

 

1年後:イージーマネー

 誰でも簡単に釣った魚を売買できるサイトの存在を知ったKは暗澹とした気持ちになった。釣りは遊びである。遊びに金銭が絡むとそれは卑しいものになるのは目に見えている。釣った魚を売ろうが捨てようが、現在はそれを咎める法律は無い。あるのはモラルという曖昧な観念だけである。

 もともと釣りは競争と相性が良いものである。数を釣る、大きい魚を釣る、船の中で自分が一番釣る、大会に出場して優勝者を決める、など釣りにおいては多少なりとも競争要素が存在する。この競争要素は時には釣りに対して真剣に取り組ませる効果を生み、時には釣技の向上に寄与してきた。しかし、この要素に金銭が絡むのはKには耐えがたかった。今日は1万円分釣った、船代の元が取れるほど釣れた、そんな競争は卑しいではないか。

 遊びの世界にも世相が反映されているのかもしれない。昭和から平成、そして令和になるに従い、人々の心は卑しくなっているようにみえる。隠蔽と改竄と捏造は政府から始まり、民間企業、教育機関にも蔓延してきた。仁も礼も欠いた拝金主義者の社会が作られようとしている。それが釣りという遊びにも暗い影を落としている気がする。

 しかし、売買サイトの普及と歩調を合わせるように、ちょっとした釣りブームが起きていた。交通の便の良い東京や横浜では、休日ともなると満員で乗船を断る船宿もあるようだ。

 Kは久しぶりに金沢八景の馴染みの宿を訪ねた。いまの季節はマダイで出船している船だ。港に着くと、確かに船はこれまで見たことないほどの殷賑を極めていた。船長に久しぶりの挨拶を済ませ、景気がいいねと冷やかす。「いやぁ、たくさんお客さんが来てくれるんだけど、みんな素人さんなんだよ。今日も半分が貸し竿だ。たくさん遊びに来てくれるのは嬉しいけど、面倒みるのが大変だ」

 大変だと言いながらも船長の顔は明るい。どんな業界でも、新規のお客さんがあることはもっとも重要なことだ。年配客ばかりの業界に未来は無い。

 満員の釣り客を乗せて船は出航した。凪よく気持ち良い海上だ。こんな日は船に乗っているだけで爽快だな、とKは思った。仕掛けを下ろすと潮がほとんど動いていない。これではマダイ釣りは厳しい。潮が気に食わずに魚探反応があっても餌を食わないのは、マダイ釣りではよくあることだ。天気には恵まれたが、釣果は散々な日だった。

 帰りの船上、貸し竿のグループ客が車座になって話している。

 「いやぁ、釣れなかったね、おかしいね」
 「雑誌の写真だと、みんな鯛を持ってにっこりしてるのにね、誰も釣ってなかったよね」

 そんな会話が耳に入ってくる。よくある話だ。釣れる日も釣れない日もある、特にマダイはそれが顕著なのだ。

 「売買サイトには『枚釣れば乗船料は回収できる』なんて書いてあったけど、一枚も釣れないなんて大損だったね」
 「お金になると聞いたから試しに来てみたけど、やっぱり釣りで儲けるのは難しいんじゃないの?」
 「次は潮干狩りに行こうよ。アサリなら絶対に獲れるでしょ。売買サイトではキロ500円で売れるって書いてあったからから10キロも掘れば飲み代が出るよ♪」

 

 

5年後:月影の騎士

 釣魚売買サイトはすっかりと定着したようだ。売買サイトのページに表示されるフェイスブックやツイッターには、今日の水揚げは何千円、1万円で売れた魚はコレ、といったコンテンツが毎日のようにアップされている。インスタグラムには、魚市場のように魚を並べた写真で溢れている。このような情報は釣り人の射幸心を煽るに容易かつ十分だろう。

 ヤリイカが好調に釣れているというので、Kは三浦半島のイカ釣り船に顔を出した。この船宿には仲の良い常連Sがいる。Sとはもう10年来の付き合いだ。Sは初めて船に乗る初心者の面倒もよく見ている。スルメイカやヤリイカ釣りは投入や取り込み、仕掛けの捌き方など、他の釣りとはちょっと違うコツがある。初めての人は戸惑うこともあるが、Sのような常連が面倒を見ることでイカ釣りの楽しさが徐々にわかってくる。そのせいか、この船はけっこうリピーターが多いようだ。

 「しかしなぁ、最近は釣り人の雰囲気が変わったね。ピリピリしてて嫌んなるよ」と乗船前にSは言った。「今日もほら、両ミヨシに入った二人組がいるだろ。態度が悪いんだよ、仕掛け上げるのが遅い人がいると、露骨に嫌な顔するのさ。釣りは上手いよ、誰よりも釣ってく。イカをネットで売ってるらしいな、帰りに『今日の水揚げはいくら』とか散々自慢してるよ」

 そういう連中と一緒の船で釣りをするのは抵抗はあるがしょうがない。乗合船はバスと一緒、誰でも手軽に安価で乗船できるのが良いところである。釣りの楽しみ方は十人十色、いろいろな釣り人がごっちゃになっているのが乗合船だ。自分が持っていない知識や技術を他人から得ることもできるし、釣り人のいろいろな考えに触れることができる価値のある場所でもある。

 船は城ヶ島沖のポイントへと着いた。反応は良いらしい、底から20mまで、ヤリイカの反応が出ていると船長はアナウンスする。しかし、イカ釣りでよくあることだが、潮方が悪い。二枚潮という奴で、表層の流れと中低層の流れが異なっている状態だ。こうなると、道糸が捻じれて落ちることになり、仕掛けと仕掛けが絡まる、いわゆるオマツリが頻発するのだ。

 イカの乗りが良いので、船長は船の向きを調整しながら、オマツリを避けるよう懸命になる。しかしそれでもオマツリしたときは、絡んだ同士がお互いに声を掛け合って外すのが釣り船でのマナーだ。

 ミヨシの二人組はツノが20本も付いた仕掛けを使っている。他の人は5本、多くても8本だ。20本仕掛けは少数派で道具の立ち方が違うためか、オマツリする確率が高い。ミヨシの二人組はオマツリのたびに舌打ちをしながら仕掛けを外したり、もしくは相手をにらみながら仕掛けが外されるのを待っている。

 この日はヤリイカの乗りは良いようだ。オマツリをすると効率は悪くなるが、ヤリイカはずっと乗っているので各自バケツの中には20杯ほどのイカが泳いでいた。沖あがりの間際、船長が大きな群れをみつけたようだ。「すぐ下ろしてみて、でっかい反応だよ」

 全員の竿が着底と同時に曲がった。これは何杯もイカが付く、多点掛けだろう。みなの電動リールが重そうなうなりを上げている。しかし今日の潮ではやはりオマツリが起きる。右のミヨシと左の胴でオマツリしたようだ。左の胴の人の仕掛けが先に上がり、ほどき始めた。

 「おい!どうなってるんだ?」と右のミヨシが叫ぶ。
 「いまほどいている、ちょっと緩めてくれ」と左の胴から声が返る。

一生懸命ほどいているのだが、針の部分に糸が巻き付いたようで手間取っている。釣れている時間のオマツリ解きは焦るものだ。

 「なにやってんだよ、ほどけないならそっちの仕掛け切ってくれよ」とミヨシが不遜なことを言い始めた。

問題はミヨシが続いて放ったひとことだった。

 「俺ぁ、遊びできてるんじゃねえんだよ!」

端からこのやりとりを見ていたSが身を乗り出した、「おぃ、」と口まで出たSの声を遮ったのは、船長のアナウンスだった。

 「前のお客さん!うちは遊びで釣りやってもらってる船だよ。遊びじゃないっていうなら、道具仕舞ってくんな。」

 これを聞いたミヨシの二人組は黙り込んだ。船上には重い空気が流れたが、ほどなく沖あがりの時間を迎えた。

 港につくと二人組は、「ちっ、もうこの船には乗るもんか」と言い捨て去っていった。

 

 

10年後:錯乱の扉

 釣魚売買サイトはすっかり定着したようだ。プロ気取りで目の色を変えて釣りまくる輩や、船に乗れば金儲けができるという安直な考えで釣りを始める人は相変わらず後を絶たず、さらには昔から釣りを楽しんでいるベテランの間でも、簡単に売れるならば、できるだけたくさん釣って帰ろうという風潮が芽生えてきたのだ。

 実は、自分で食べる以上に釣る、という釣り人は昔から少なくない。自分の家族で消費できる魚はたかが知れている。たくさん釣れたとき、自家消費できない分は、親戚や知人にお裾分けしたり、飲み屋に持ち込んで引き取ってもらったりしたものだ。それはもちろん売るのではない。あくまで無償のお裾分けである。もっとも魚のお返しでお菓子や野菜などをもらうこともまた、よくあることだが。

 ベテランになれば、釣り人は自分の消費量を知っている。これだけ家で料理し、これだけお裾分けして、と頭の中で瞬時に計算し、リミットを効かせられるのだ。

 しかし、インターネットを使えば誰にでも簡単に売買ができるようになり、釣り人のリミッターが外れてしまった。それはまるで摂食障害により過食症になった患者と同じように、釣り人が箍を外して釣りまくるようになったのである。

 そんな時だった。2029年5月、衆議院を生ごみ税法案が通過した。生ごみ税とは、生ごみを捨てるときに発生する税金で、リサイクル税の生ごみ版と言える。法案成立の理由は、生ごみの大量発生によるものにほかならない。家庭での生ごみの量が、ここ10年で3倍に膨れ上がったのだ。その大きな理由は、釣った魚を売ろうとする釣り人の増加と、魚の売れ残り廃棄によるものだという。

 『釣った魚は無駄にしない!フードロスを無くすための釣り魚売買サイトです!』こんな甘い文句で立ち上げられた釣魚売買サイトだが、実際に定着してみるとフードロスが減るどころか逆に増えてしまったのだ。

 なぜだろうか?

 繰り返しになるが、釣りのベテランは自分が釣った魚の消費量を把握していてリミッターをかけていた。そのリミッターが働くことも毎回ではない。「今日はおかず無し」と帰ることも珍しくない、それが釣りというものだった。しかし、リミッターが外れた釣り人は、どんな魚でもクーラーの中に入れて持ち帰り、それを売ろうとした。これまで持ち帰らなかった痩せたサバやベラや、ときにはサメまでもクーラーに入っている。だから毎回クーラーは一杯になる。この魚たちが売れなかったらどうなるのだろうか?破棄量が増えるのは当然のことだ。

 自分が出品した魚は必ず売れる、その保証がなければフードロスはかえって増えてしまう。ちょっと考えてみれば当たり前のことだ。売れる魚はなかなか釣れない、売れない魚は簡単に釣れる、その結果、釣り人は売れない魚を大量に持ち帰り、大量の売れ残りを廃棄するようになり、ついには自治体のゴミ回収活動にまで影響を及ぼしてしまったのだ。

 生ごみ税の導入により、釣魚売買は釣り人自身の首を絞めることになったと気づく。しかし、一旦導入された税は無くならない。与党が公約を反故にして消費税を20%に上げた直後でもあり、生ごみ税の導入による生活への影響は深刻だった。釣り人は乗船料を捻出できなくなり、以後沖釣りは衰退への道を辿っていったのである。

 

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2 コメント

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Unknown (はちまきの旦那)
2019-04-15 08:49:22
面白い!

釣り小説界の大家になれるのでは?

今度会ったらサイン頂戴ね!Iiさん第一号サイン?としてネットで高く売るから^^;;
返信する
はちまきの旦那さんゑ (calm)
2019-04-15 10:00:32
あざーす!

釣り小説って超マイナーですよね、特に沖釣り。故・盛川氏の旅船以来読んだ覚えがないです。

素人でも小説を書いてネットで手軽に売れる、小説売買サイトができたら利用するかも^^;;
返信する

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