紫式部と敗戦 (PART 1)
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デンマンさん。。。 今日はあたくしを試そうとするのでござ~♪~ますか?
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。。。ん? 僕が卑弥子さんを試そうと。。。?
だってぇ~、タイトルに紫式部と敗戦と書いてあるではござ~ませんかア!
そうです。。。 でも、まさかァ~、僕が卑弥子さんを試そうなんてぇ~。。。 そのような大それた事をするはずがないじゃありませんか。
じゃあ、どう言う訳で「紫式部と敗戦」というタイトルにしたのでござ~ますか?
卑弥子さんは紫式部女史が出て来ると、かなり精神的に過敏に反応するのですね?
もちろんでござ~ますわァ! あたくしは、これでも京都の女子大学で腐女子たちに「日本文化と源氏物語」を講義しているのですもの。。。 デンマンさんだって、この事は充分にご存知のはずでござ~ますわァ。 それにもかかわらず、あえて「紫式部と敗戦」というような非常にセンシティブなタイトルをあたくしの目の前にたたきつけたのでござ~ますもの。。。 これは、デンマンさんがあたくしの足元をすくいあげようと画策しているのか? あるいは、あたくしに対する挑戦を挑(いど)んでいるのか? 事と場合によると由々しき問題に発展することになると。。。
あのねぇ~。。。 卑弥子さんは過敏に反応しすぎですよう。 僕は何も橘卑弥子・准教授に対して知的な戦闘を挑(いど)もうとしているわけではないのですよ。
でも、あたくしの専門分野に対する挑戦としか受け取れませんわ。
僕はたまたまバンクーバー市立図書館から次の本を借りてきたのですよう。
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上のリストの赤枠で囲んだ御本でござ~ますか?
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そうです。
でも、これは「古代史事典」ではござ~ませんかァ!
そうですよ。
あらっ。。。 デンマンさんは事典を小説のようにお読みになるのでござ~ますか?
いけませんか?
だけどォ~「広辞苑」を小説のように毎日読む人はおりませんわよう。。。 うふふふふふ。。。
いや。。。 居るかも知れませんよう。。。 そういう物好きな人も。。。
でも、いくら歴史に興味があるといっても、まさか事典は毎日読むほど面白いとは思えませんわ。
あのねぇ~、それがこの『ゼロからの古代史事典』というのは、なかなか面白いのですよ。
あらっ。。。 ギャグやパロディーが本の中にたくさん挿入されているのでござ~ますか?
いや。。。 そういうお笑いは一つも書いてありません。
それなのに面白いのでござ~ますか?
そうです。。。
例えばどういうところが。。。?
次のような箇所ですよ。
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早くも11世紀、「にほん紀の局」といわれた紫式部は『源氏物語』蛍の段で、玉かづらに対して光源氏にこう言わせている。
玉かづらが退屈しのぎに読んだ物語をけなしたのに対して、源氏は、「にほん紀などはただ片そばぞかし。」と語った。
どうやら皇族、貴族のトップには日本紀はつくりものという伝承がずっとあったようである。
233ページ 『ゼロからの古代史事典』
編著者: 藤田友治・伊ヶ崎淑彦・いき一郎
2012年8月10日 初版第2刷発行
発行所: 株式会社 ミネルヴァ書房
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このような箇所がデンマンさんにはそれほど面白いのでござ~ますか?
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じゃあ。。。卑弥子さんにとって、上の箇所はつまらないのですか?
もちろん、『源氏物語』を専門に研究している者にとって、紫式部が『日本書紀』を取り上げたということは確かに注目に値することですわ。
そうでしょう!? 卑弥子さんにとっても、この事実は興味を引くことだと僕は思ったのですよ。 うへへへへへ。。。
それで、わざわざこうして記事で取り上げたのでござ~ますか?
もちろんですよ。 卑弥子さんの感想をぜひ聞きたいと思ったからですよ。
そのように「よいしょ」をするような煽(おだ)てをかまして、実は、あたくしの足元を掬(すく)うのがデンマンさんの狙いではござ~ませんのォ? (苦笑)
やだなあああァ~。。。 悪い方に悪い方に解釈しないでくださいよう。 京都の女子大学で「日本文化と源氏物語」を教えている卑弥子さんの専門知識を値踏みするというような大それたことは考えていません。
でも、デンマンさんの前では用心しないわけにはゆきませんわ。
あのねぇ~、それ程緊張しなくてもいいのですよう。 僕は卑弥子さんと嵐山の辺りを散歩するつもりで話題にしているだけなのですから。。。
それで、あたくしに何をお尋ねになるのですか?
だから。。。 玉かづらが退屈しのぎに読んだ物語をけなしたのに対して、源氏が「にほん紀などはただ片そばぞかし」と語ったと。。。 ここの所を卑弥子さんはどのように捉(とら)えているのですか?
これは真面目なご質問なのですか?
もちろんですよう。 僕は橘卑弥子・准教授をからかうつもりなど全くありません。
解りましたわ。 では、あたくしがその箇所を現代語に訳してお目にかけますわ。
長雨が例年よりもひどく続いて、晴れるときがなく手持ち無沙汰なので、六条院の女君たちは絵や、物語などを慰みにして夜を明かし暮らしていらっしゃる。
明石の君は、そういう物語に趣向を凝らして仕立てられて、(明石の)姫君にさし上げられる。
西の対の玉鬘の姫君は、なおさら珍しく興味のあることなので、明け暮れ(物語を)読んだり写したりしていらっしゃる。
(ここには物語を写すのを)得意にしている若い女房も大勢いる、(物語には)世にも珍しいさまざまな(主人公の)身の上などを、本当なのか嘘なのか、たくさん集めてあるが そういう中でも、〈わたしのような(波瀾に富んだ)身の上はなかった〉と(姫君は)ご覧になっている。
『住吉物語(継子いじめの物語)』の姫君がさまざまな悲惨な目にあったその当時はもちろん、現在でもやはり評判は格別のようだが、(物語の中で)主計頭(かぞえのかみ)がもう少しで(姫君を)奪おうとしたところなど、あの大夫監(たゆうのげん)の恐ろしさと比べていらっしゃる。
源氏の君も、こういう絵や物語などがあちこちに散らばっていて、目につくので、(姫君に)
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困ったものだな。女は面倒がりもしないで、人にだまされるために生まれてきたらしい。
たくさんある物語の中に本当のことはすごく少ないのに、それをよくわかっていながら、こういうつまらない話に心を奪われて、真に受けて、この暑苦しい五月雨どきに、髪の乱れてるのも気づかないで書き写していらっしゃるとは...
とおっしゃって、笑われるものの、また、
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でもこういう昔の物語がないと、実際紛らわしようもない(この頃の)手持ち無沙汰を慰めることもできないな。
それにしてもこういう数々の作り話の中に、〈なるほどそういうこともあるだろう〉としみじみとした表現で、もっともらしく書いてあると、一方では、嘘だとはわかっていながらも、無性に興味をそそられて、(物語の主人公である)可愛い姫君が悲しみに沈んでいる様子に多少は心が惹かれるものだ。
また〈こんなことはあるはずがない〉 とわかっていながらも、大げさな誇張した表現にかえって魅了されて、落ち着いてもう一度読み直すときにはつまらないにしても、ふと感心させられることもあるだろう。
この頃明石の姫君が、女房などに時々(物語を)読ませているのを立ち聞きすると、〈口のうまい者が世間にはいるものだな。(こんな話は)嘘ばっかり言っている人の 口からのでまかせだろう〉 と思うが そうでもないかな...
とおっしゃると、(姫君は)
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おっしゃるように嘘ばっかり言っている人は、そんなふうにいろいろと思われるかもしれません。
(わたしには)本当のこととしか思われません。
と言って、硯を押しやられるので、(源氏の君は)
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失礼なことを言って(物語を)けなしてしまったね。
(物語は)神代から世の中に起こったことを書き残したものです。
(それに比べると)日本紀(『日本書紀』)などはほんの一部分にすぎないのです。
こういう物語にこそ道理にかなった細かいことが書いてあるでしょう。
とおっしゃって笑われる。
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(物語は)誰かの身の上を、ありのままに書くことはないが、良いことも悪いことも、この世に生きている人のありさまの、見ても飽きない聞いても聞き流せないような、後世に語り伝えたい事柄を、心におさめておけないで書き残したのが物語の始まりなのです。
(物語というものは)(作中の人物を)よく言おうとする場合、そのよいことばかりを選び出して書くことになるし、また読者の要望に応じると、ありそうもない悪いことばかりを集めて書くことになるが、(でもそれは)善悪それぞれの面で誇張しただけのことで(その事柄は)この世にないことでもない。
異朝の物語は、書き方が違うし、同じように日本の物語でも昔と今では違うだろうし、(その内容に)深い浅いの違いはあるだろうが、(物語を)まったくの作り話だと断定してしまうのも、物語の本質を無視することになる。
仏がとても立派な心から説かれた経典でも、方便というもの(虚構)があって、悟りのない者は、あちこちで矛盾しているのではないかと疑念を持つだろう、(方便の説は)方等経(ほうどうきょう)の中に多いが、突き詰めてゆくと、(結局は)同一の趣旨によっていて、菩提(悟り)と煩悩(悩み)との違いは、物語の中の、善人と悪人との違いのようなものである。
いい意味に解釈すると、すべてどんなことも無駄なものはない。
と、物語をとても大切なもののように説明された。
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ところでこういう昔の物語の中に、わたしのように律儀な愚か者の話はありますか。
ひどく人間離れした、物語の姫君でも、あなたのように冷たくて、知らないふりをしている人もいないだろう。
さあ、(二人のことを)世にも珍しい物語にして、後世に伝えさせよう。
と、近くに寄り添っておっしゃるので、(姫君は)顔を襟に引き入れて、
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それでなくても、こんな珍しい関係は、後世の語り草になるでしょう。
とおっしゃると、(源氏の君は)
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(あなたも)珍しいと思われますか。
(わたしもこんな気持ちは)またとないと思います。
とおっしゃって寄り添っていらっしゃる様子は、まったくけじめがない。
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う~ん。。。 さすがは京都の女子大学で腐女子たちに「日本文化と源氏物語」を講義している橘卑弥子・准教授ですね。 やっぱり、こうして卑弥子さんの説明を聞くだけの値打ちがありましたよ。
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あらっ。。。 そうでござ~ますかァ? でも、あまり煽(おだ)てないでくださいましなァ。 おほほほほほ。。。
卑弥子さんは「にほん紀などはただ片そばぞかし」を(物語は)神代から世の中に起こったことを書き残したものです。(それに比べると)日本紀(『日本書紀』)などはほんの一部分にすぎないのです。 こういう物語にこそ道理にかなった細かいことが書いてあるでしょう。と現代語に訳したのですね。
そうでざ~ますわァ。 どこか、いけないところでもござ~ますか?
いや。。。 きわめて妥当だと僕は思いますよ。 つまり、玉かづらが退屈しのぎに読んだ物語の中にこそ道理にかなった細かいことが書いてあって、『日本書紀』などのような政府の作ったものには、自分たちの政権が正当なものだという作り事が書き込まれているということを暗に言っているわけですよね。
いいえ。。。 あたくしは別に『日本書紀』が道理にかなっていない事が書かれているとは言ってませんわ。 デンマンさんは『日本書紀』が“つくりもの”だと考えているのでござ~ますか?
いや、僕だけじゃありませんよう。 『ゼロからの古代史事典』には次のように書いてありました。
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西園寺公望公爵(1849~1940)は貴族のトップにいて第二次大戦まで裕仁(昭和)天皇の首相推薦に参与した。
このよう要人中の要人が、こう書き残した。
不幸にしてこの日記は約百年、陽の目を見なかった。
西園寺は明治憲法起草者の井上毅文相を評して「妄誕(もうたん)の書(でたらめの書-古事記、日本書紀)を重んずるごときは大いに国に損あり」と記したが、100年後の1990年10月に立命館大学で発見されたものである。
この西園寺の発言は白鳥(庫吉・東京帝国大学の東洋史学科の教授)とは正反対のリベラルさをしめすもので、20世紀の日本史学者に知らせるのが遅すぎたことが惜しまれてならない。
徹底した日本書紀の否定、蔑視である。
「明治以降、78年」の狂信は「大いに国に損あり」どころではなかった。
皇国史観による国の壊滅をもたらしたといえるだろう。
歴史学は学部の一部門ではなく民族の帰趨を決める基礎の科学でなければならないことを思い知らされたのである。
233ページ 『ゼロからの古代史事典』
編著者: 藤田友治・伊ヶ崎淑彦・いき一郎
2012年8月10日 初版第2刷発行
発行所: 株式会社 ミネルヴァ書房
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あらっ。。。 西園寺公爵は『古事記』や『日本書紀』は日本を壊滅に導くような悪書だと予言したのでござ~ますか?
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今から西園寺公爵の日記を読み返せば、そう受け止められるのですよ。 でもねぇ~、西園寺自身、自分の日記を公開できないことは知っていたようです。
どうして。。。?
だってぇ、戦前、彼の日記が公開されたら狂信的な軍人か? あるいは熱狂的な右翼の人間に暗殺されていましたよ。
そうでしょうか?
それでなくとも昭和11年(1936年)の2・26事件の時には、決起将校の一部に西園寺公爵は「君側の奸」の最たるものと見なされた暗殺されるリストに載っていた。 でも、反対派の者は、西園寺を天皇とのパイプとして利用することを言い出したので、暗殺は実行されなかったと言われているのですよ。
西園寺公爵はそれ程のリベラルだったのでござますか?
明治4年(1871年)にフランスのソルボンヌ大学に留学した経験がありますからね。 フランスでリベラルな思想を身に着けたらしい。 それでいながら天皇制に反対していたわけじゃない。 むしろ天皇を守りたててゆこうという強い信念も持っていた。 でも、他の狂信的な天皇一辺倒な帝国主義者と違って、西園寺は絶対天皇制の持つ、やがては皇室の存続をも危うくさせる危険性を早くから見抜いていたのですよ。 そういう意味で皇国史観に反発していたのです。
それで、古事記や日本書紀は“でたらめな書”だと言うような過激な事を日記に書いたのでござ~ますわね。
そうらしいですよ。
それにしても紫式部さんが日本書紀の本質を見抜いていたというのはマジでござ~ましょうか?
たぶん、知る人の間では、その当時からそういう噂が根強くあったのですよ。 大伴家持が『万葉集』の中に批判めいた歌をたくさん集めたのも『古事記』や『日本書紀』に対抗するためだったのですよう。
そうかしら?
そうですよ。。。 紫式部も西園寺公爵も 古事記や日本書紀は“でたらめな書”だと見抜いて、暗に太平洋戦争の敗戦を予測していたのですよ。。。 信じてください。 「信じる者は救われる」と言うでしょう!?
【初出: 2013年7月6日 『紫式部と皇国史観』】
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